上手にAIと付き合うには
結局、人工知能(AI)技術は何を可能にするのか?
職場へのAI技術の導入に失敗しないためには、現在のAIが可能なことと不可能なことを把握しなければならない。本稿ではAI技術の得意分野と、AI技術を利用した最新ソフトウェアについてまとめる。
生活の中に人工知能(AI)技術が寄り添う場面がますます増えている。信じられないなら、Amazonの「Alexa」に聞いてみるとよい。
人間や機械が生み出す大量のデータは、AIシステムの優れたトレーニングツールになる。未熟なAIシステムは、トレーニングによって一流のパターン検出システムへと変わる。現状のAI技術では、次のようなことが可能になる。
- 顔の認識
- 物体の認識
- 悪意のある行動の認識
- 言語パターンの認識と翻訳での使用
- 画像の操作
今後AI技術は、これまで人間がしてきたことをさらに多くできるようになる。
ただしビジネスへのAI技術の導入を考えている最高情報責任者(CIO)やビジネスリーダーは、AI技術が可能にすることとそうでないことを理解する必要がある。理解が足りないと、非現実的な期待を抱き、検討不足の目標に時間と予算を浪費することになる。本来なら膨大な労力を必要とするタスクを自動化する機会も逃すだろう。
本稿では、AI技術が役立つ業務分野を確認しながら、AI技術のビジネス活用について考える。企業の業務課題を解決するAIソフトウェアの例も幾つか紹介する。
AI技術が役立つ分野:統計や予測
機械学習はビッグデータとの組み合わせで、分析に役立つ。例えばスパムメッセージと正当なメッセージの区別には分類アルゴリズムが使用されている。この仕組みは、文字をコンピュータが理解できる数値に変換し、スパムに最も関連のある文字の種類と、主に無害なメッセージに現れる文字の種類を評価することで実現できる。こうした分類アルゴリズムが進化し、選択や好みに応じて人間を分類できるようになっている。このスキルは、悪評を買ったCambridge Analyticaの個人データ不正利用問題でも利用されていた。
こうしたデータは近々「予測」にも使えるようになる可能がある。つまり人間を特定のグループに分類すれば、これらの分類に基づいて行動を起こすこともできる。CrystalKnowsでは、AI技術を使用して人間を64の異なる性格に分類し、そのデータから、営業担当者が見込み客に合わせたメッセージを作るためのソフトウェアを開発提供している。
重要な情報を強調するなど、数値をデータサイエンティスト以外でも分かりやすい表現に変えることで、統計の理解を後押しするAIも登場している。その例を以下に挙げる。
- Automated Insightsの同名サービスは、自然言語生成と呼ばれるプロセスを使用して、データ分析の結果を人間が話すように表現する。その結果、必要な情報が簡単に短時間で把握できるようになる。Gartnerの予測によると、2020年までに、9割の最新ビジネスインテリジェンス(BI)ツールおよび分析プラットフォームで、自然言語生成が標準機能になるという。
- Salesforceは同社のAI技術「Einstein」を使用して、営業担当者向けにすぐに使えるデータを見つけ出している。これにより、営業担当者は顧客になる可能性が高い見込み客に力を注ぐことができる。
- 米ボストンのスタートアップ企業LaudioはAI技術を使って複数のデータソースを分析し、従業員の定着率を改善する。うまくいった仕事で従業員を称賛するタイミングや、従業員がサポートを必要としているタイミングを検出できる。
AI技術が役立つ分野:会話
チャットbotバブルが起きたことを覚えているだろうか。チャットbotは、多くのアプリケーションや人間と取って代わると思われていた。しかしその多くは失敗に終わっている。それは十分な賢さがなかったためだ。AI学習の問題は、システムが扱う対象を実際に把握していない点にある。AIシステムは猫を識別できる。だが、猫や動物が一般的にどのようなものかは知らない。AIの理解力は非常に限定的で、理解の範囲も狭い。物事を完全に理解するには、「総合的なAI」にする必要があるだろう。
AI搭載のチャットbotは会話に参加するために、特定のキーワードを抽出して反応する。このシステムは限定的な場合にしか利用できない。というのも、人間は多彩な方法で自己を表現する傾向にあり、AIシステムが全てのバリエーションを予測することは非常に難しい。このような場合、システムは例外を無視するため、人間の担当者に問い合わせることが必要になる。
しかしAIは独自の領域で専門家になれる可能性がある。
ポルトガルリスボンに本社を置くスタートアップ企業Unbabelは、言語の壁を取り払うAIテクノロジーを開発した。同社の「Unbabel」を使用する企業は、28言語の世界中の顧客に、見事にサービスを提供している。一例として、通常なら数百人の従業員が必要になるタスクを、15人の従業員で遂行できたことが挙げられる。
AIが人間の従業員に完全に取って代わることはまだ不可能だとしても、従業員を強化するのは得意だ。Automated Insightsのケイトリン・ロイド氏は次のように語る。「価値あるAI戦略を実施する最善の方法は、人間との密接な関係性にある。AIは人間の知性を強化する役割を果たす」
人間には他人とうまく付き合う能力、つまり強力な感情をくみ取る知性とコミュニケーションスキルがあるとロイド氏は論じる。AIは人間が教えなければこのようなソフトスキルを学ぶことはできない。少なくとも、本稿執筆時点では。
AI技術が役立つ分野:日常業務
2019年になってもまだAIシステムを使った自動運転車を利用することはできていない。稼働している自動運転車は、相変わらず失敗や重大な事故を起こすことが多い。自動運転車は、AIだけに頼っても短期的な問題は解決されないことが明らかになっている。企業は、これらの欠点に対処するために「LiDAR」(Light Detection and Ranging:光検出と測距)や車両間通信システムを使用するようになっている。何十億ドルもの費用がつぎ込まれているこの業界では、この先にも問題が多数待ち構える。
AI技術のビジネス利用への投資に着手する際には、適切なAI戦略を用意することが欠かせない。「AIを導入する正しい方法は、まず最適化の中心となるユースケースまで掘り下げることだ」と話すのは、テキストスキャンおよび光学文字認識(OCR)ソフトウェア企業AbbyyでCIOを務めるアンソニー・マシオラ氏だ。
ではAIに対する誤ったアプローチとはどのようなものだろう。「AI技術によって企業が魔法のように変わると考えることだ。実際のところ、AI技術で実現するのは、非効率なプロセスやシステムの改善だ」と同氏は語る。
AI技術のビジネスへの利用方法を構想するには、まず日常作業で直面している非効率性から考えて、築いていくのが最善だ。
AIによって新たなレベルに引き上げられるA/Bテスト
AIは多くのタスクを自動化できる。Sentient Technologiesのソフトウェア「Sentient Ascend」は、特定の問題に対処するように設計されたAIの使い方の好例といえる。
A/Bテストを覚えているだろうか。Webサイトやアプリケーションの2つのバージョンをテストし、適切に機能する方を確認するというのがそのロジックだ。そうすることで、パフォーマンスが優れている方を最終的に実運用できる。
Sentient AscendはAIを使用してA/Bテストを新しいレベルに引き上げた。長い期間をかけてシステムで多様な組み合わせを自動的に試し、最善の組み合わせを少しずつ見つけ出す。Sentient Ascendでは「適応進化的最適化」(Adaptive Evolutionary Optimization)と呼ばれる手法が使用されている。この手法は、各バージョンのパフォーマンスを予測するために、ベイズ法や従来の統計手法に基礎を置く。
この例から分かるように、AI戦略で成功を収める上で欠かせないのは適切な問題への対処だけではない。プロバイダーによるAIへの取り組み方も非常に重要となる。
Endorが取っているアプローチを考えてみよう。Endorは、マサチューセッツ工科大学のMIT Media Labで開発した予測分析ソフトウェアを販売している。同社の目標は顧客の行動を予測することにある。AIを構築するために、Endorでは社会物理学理論を用いている。これは、ビッグデータに基づいて人間の群衆行動を理解する科学だ。このようにして、同社はどんなデータを基礎にして機械学習アルゴリズムをトレーニングする必要があるかを把握した。だが、それだけではない。データの最も重要な部分と、それをどのように使用すべきかについても分かっている。
AIで考慮すべき点
最後に、ビジネスでのAIの使い方に関する戦略を立てる際には、想定を現実的な範囲に保たなければならない。知識労働者はAIに完全に取って代わられるという考えもあるが、その考えは誤りだとAbbyyのマシオラ氏は指摘する。同氏は、人間には感情的知性が備わり、本稿執筆時点の機械にはそれが欠けていると考えている。マシオラ氏がもう1つ強調するのは、人間は現時点では機械よりも高度なトレーニングを受けており、企業が重きを置いている価値をより深く理解している点だ。「企業の成功にはスキルを備えた従業員がいつだって不可欠だ」と同氏は言う。
AI技術は、以前であれば大量の人手と時間や追加コストが必要だった作業を代行できる。わずかなコストで非常に多くの業務を自動化できるため、革新や創造性をもたらす新たな機会が開かれる。
しかしAIには制限がある。スーパー人工知能の実現はまだ遠く、多くの場合、AIは人間による支援を相変わらず必要とする。AIの得意分野は、ビジネスの反復的で平凡な部分を引き受けること、人間を創造力の発揮に専念させることだと言って間違いないだろう。
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