電子健康記録(EHR)を使うべき理由【後編】
医療機関が「電子健康記録」(EHR)を導入する利点は? 米国では奨励金も
米国は「Meaningful Use」(意義ある利用)という制度によって、電子健康記録(EHR)システムを導入する医療機関に奨励金を交付している。ただしEHR導入後の紙の扱いについては、州ごとに法律が異なる。
米国連邦政府は、医療機関が他の医療機関や医療情報交換組織(HIE)、地域医療情報の管理を担う団体、患者本人などと、医療データを共有しやすくなるよう取り組んでいる。「電子健康記録」(EHR:Electronic Health Record)はこうした取り組みの中核を成す。
その目的の実現に向けてメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS:Centers for Medicare & Medicaid Services、注1)が実施したのが奨励金プログラムだ。この奨励金プログラムは、治療体制を向上させるために、制度によって認定を受けたEHRシステムの導入を医療機関に促している。このプログラムは、EHRの導入に当たって認定を受ける開業医や病院が、資金援助を受けるために達成しなければならない3段階の目標を定めている。
※注1 公的医療保障制度であるメディケアおよびメディケイドの運営主体。米国保健福祉省に所属する組織の一つ。
EHRの導入は、奨励金を受け取ることにとどまらず、臨床のワークフロー、データ分析、全体的な患者ケア体制を改善する方法にもなると考えられている。
EHRが重要な理由
2009年に米国で「経済的および臨床的健全性のための医療情報技術(HITECH:Health Information Technology for Economic and Clinical Health)に関する法律」(以下、HITECH法)が制定された。このHITECH法は、認定EHRシステムの「意義あるユーザー」(Meaningful Users)になることを医療機関に強く促すための奨励金と罰則を規定している。CMSのプログラムを通じて管理される奨励金の受給資格を得るには、医療機関は米国保健福祉省(HHS)の標準に準拠したEHRシステムを使用しなければならない。
米国の医療IT政策の中心組織である医療IT全米調整官室(ONC)は規制を目的に、HITECH法を施行する上での暫定的最終規則において「適格EHR」(Qualified EHR)と「認定EHR」(Certified EHR)の定義を定めた。ONCはこの暫定的最終規則を連邦官報で公開し、2010年に発効させている。
適格EHRについては、HHSは公衆衛生サービス法で既に定められていた次の定義を利用している。
個人の健康に関する情報の電子記録であり、これは患者の基本属性情報と、病歴や問題リストなどの臨床健康情報を含み、かつ以下を実行できるものとする。
1. 臨床判断サポートの提供
1. 医師による指示入力のサポート
1. 医療品質に関わる情報の取得とクエリ
1. 他のソースとの電子医療情報の交換および他のソースからの当該情報の連携
認定EHRとは、ONCが定めた認定要件を満たした適格EHRだ。
EHRのメリットとデメリット
EHRは医療機関や患者にとって複数のメリットがある。EHRシステムによって患者記録へのアクセスが高速になり、患者の全面的で正確な状態を把握できるようになる。書類作成に関わる作業コストが下がり、効率が向上する。処方の安全性も高まり、医療ミスも減る可能性がある。
セキュリティとプライバシーに関する懸念が、EHRの大きなデメリットだ。EHRシステムが侵害されたら患者データが漏えいする恐れがある。これは患者だけでなく、その医療機関にとっても問題になる。さらにEHRが医師の燃え尽き症候群の一因になることを示す調査もある。
EHRの相互運用性
EHRの相互運用性によって、EHRシステムによる通信、データ交換、共有情報の利用が可能になる。だが、各EHRシステムはそれぞれ異なる方法と用途でデータを取得している可能性がある。そのため、そうした情報を別のシステムと共有するのは難しい。標準化と構造化によって、データの取得や交換方法を共通化できるようになる。
EHRへの移行後に医療機関は紙の記録を破棄すべきか
2019年6月時点の米国においては、医療機関に紙の記録を電子形式に変換することを命じる直接的な指示はない。CMSから奨励金は受けたいが、後で罰則を受けることは避けたいと考える医療機関に対し、連邦政府はEHRシステムの「意義あるユーザー」になることを求めている。この奨励金と罰則はHITECH法の中で定められている。
EHRシステムの意義あるユーザーになるための基準は依然として流動的だ。連邦政府は2019年6月時点では、古い紙の記録を全て電子形式に変えることを医療機関に求めているわけではない。CMSは、意義ある利用の基準に関する案を2009年12月30日に発表し、最終規則を2010年7月28日に発行している。意義ある利用のステージ1には、医師が満たさなければならない基準案が25項目定められている。例えば「EHRシステムを使用して、臨床指示のうち80%を電子的に登録し、許容可能な処方箋のうち75%を電子的に送信する」という具合だ。
紙と電子の医療記録について、医療記録の保持と破棄に関する法律は州ごとに異なる。医療業界のガイドラインもさまざまだ。EHRシステムの導入後も一部の紙の記録を保持するように医療機関に求める州法もある。
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電子健康記録(EHR)を使うべき理由
病院同士、そして病院と薬局、介護施設、保険会社などとの間の情報連携を円滑にするために「電子健康記録」(EHR)は存在する。米国では、政府がこうした医療情報連携を推し進めるために、さまざまな支援策を提供している。本連載は、EHRを取り巻く基礎知識を整理し、あらためて「EHRを使うべき意義」を問い直す。
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