データが変えるミュージアムのユーザー体験【後編】
稼げるミュージアムは芸術や科学だけでなく「データ」を理解する
博物館や美術館(ミュージアム)の運営にデータ分析は重要な鍵になる。大規模ミュージアムではデータに関心を示すが、そうでないミュージアムも多く、情報格差が広がっている。
一部の博物館や美術館(以下、「ミュージアム」)ではデータの取り扱いに習熟し、収益改善を果たす一方で倫理的課題にもきちんと目を向けるようになりつつある。とはいえ一方ではそもそも全くデータが活用されていないミュージアムがあるのも実情だ。
何百人もの職員を抱え1億ドル以上の予算があるミュージアムと、予算が少額で少数の職員しかいない小規模ミュージアムとの間で情報格差が広がっている。
大規模なミュージアムは分析に投資していることが多いが、その割合は全体から見ればほんの一部にすぎない。
併せて読みたいお薦め記事
デジタルマーケティングで最高の体験を提供する
- GoogleのAIが指南する最先端デジタルマーケティング 「キスの仕方」動画も
- ゲーム業界のデジタルマーケティングに「AI」はどう活用されているか
- ニューバランスが選ばれ続ける理由をトップマーケターたちが熱く語る(ITmedia マーケティング)
デジタルマーケティングの実践
テクノロジーのスキル格差
米国博物館協会(AAM)によると、米国内で1500万ドル以上の予算のあるミュージアムは全体の10%で、48%のミュージアムの予算は50万~290万ドルだという。一方、200人以上の職員を抱えるミュージアムはたった6%で、49%の職員数は6~30人だ。
米シアトルでミュージアム向けのコンサルティングを手掛けるWilkening Consultingを設立したスージー・ウィルケニング氏は「米国には3万7000のミュージアムがあるが、その大半は非常に小規模だ。そのようなミュージアムはデータの存在に気付いていない」と話す。
この背景には、コストと認識という2つの問題が潜んでいる。
米オハイオ州クリーブランドにあるクリーブランド美術館では「Tableau」と「Microsoft Excel」を使用してダッシュボードを作成していたが、最近、Tessitura Networkが提供するBIスイートに投資した。同館でオーディエンスインサイト&サービスの責任者を務めるエリザベス・ボランダー氏によれば、このスイートは文化的な組織向けに調整されたソフトウェアだ。
予算が限られているミュージアムにとって、BIツールを導入してデータサイエンティストを雇用するのは現実的な選択肢ではない。「ミュージアムでテクノロジーの導入に時間がかかっているのは、テクノロジーが高額だからだ」とウィルケニング氏は指摘する。
だからといって、ミュージアムがデータ分析を怠っても良いわけではない。ミュージアム向けにビジネスインテリジェンス(BI)ツールを提供するスタートアップソフトウェアベンダー、TravelSee Analyticsの設立者兼CEOを務めるクワシ・ホープ・アジェマン氏は「後れを取り戻してデータと分析の基本的な標準を使用し始めなければ、ミュージアムは消滅することになるだろう」と語る。
AAMによると、米国では毎年約85億人もの人がミュージアムを訪れているが、全体的な入館者数が減少しているかどうか定かではない。だが、アジェマン氏の悲観的な警告を業界は否定できない。
「消費者が個人向けにカスタマイズされた環境に慣れるのに伴い、ミュージアムもその状況に適応しなければならない」とボランダー氏は言う。ただし、ミュージアム消滅というアジェマン氏の予言に賛同しているわけではないと同氏は補足する。
アジェマン氏によれば、多くのミュージアムにとっての課題は分析に関する教育だ。ミュージアムはデータを活用しないことで手に入れ損なっているものが何なのかをそもそも分かっていないというのだ。
「ミュージアムは、テクノロジーによる解決策やテクノロジーがもたらす急激な変化に明るくない。データを分析していないから、テクノロジーとの接点を失っている」(アジェマン氏)
最も大きなリスクにさらされているのは中規模のミュージアムだとウィルケニング氏は指摘する。
小規模なミュージアムは、地域に根ざし、多くの入館者を個人レベルで把握していることが多いため、データ分析の影響を受けにくい。一方、大きなミュージアムの大部分は、ミュージアムとデータの融合の重要性を理解している。
「中規模ミュージアムには影響の根拠を示すデータがないため、将来において最も戦略的な判断を下すのを妨げ、投資機会を逃すといった情報格差に陥る。ただし、全力で取り組むつもりがあるなら、データの分析に使える比較的安価なツールは存在する」(ウィルケニング氏)
分析のメリット
ミュージアムがデータを活用すれば強力な武器になる。
金銭面でメリットがあるのは明らかだ。適切な情報が適切な人の手に渡れば、さらに的確な判断を下せるようになる。さらにいえばミュージアムでの分析の導入は収益向上だけにとどまらない。データ分析によって入館者のユーザー体験は高くなり、より良い教育にもつながる。
将来的には、ミュージアムが分析を導入することで、現状十分なサービスを受けていない顧客を獲得することにつながるという期待もある。交通機関の選択肢がないために、ミュージアムに行くことができない顧客がその例だ。ミュージアムの分析を担当するエバンジェリストたちも、ミュージアムが幅広い層の新規顧客を獲得するためにデータが役立つことを期待している。
分析はミュージアムを訪れる人だけでなく、ミュージアムを訪れない人を理解する目的にも使用できる。
「ミュージアムにとってデータの分析は、過去、芸術、科学について分析するのと同じくらい重要なことだ。データを適切に分析することで、ミュージアムはその使命をより効果的に果たせるようになる。そのためには、ミュージアムの運営にデータを取り入れて、ミュージアムの影響力を強める余裕を作り出さなければならない」とウィルケニング氏は語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
4
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
5
エンジニアの生産性はどう測る? マネジメントに不可欠な可視化の実現方法とは
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
9
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
10
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー