2週間かかっていたファイアウォール設定が数分に
航空会社がマルチクラウドのポリシー乱立解消に生かした「タグシステム」とは
Alaska Airlinesは複数のクラウドを用いたマルチクラウド環境を構築した。マイクロセグメンテーションを利用したセキュリティツールを組み込み、アプリケーション運用の自動化とコンテナの活用に取り組んでいる。
複数のクラウドにまたがるDevOps(開発と運用の融合)やインフラ管理の自動化に取り組む動きが広がりつつある。こうした中、社内LANの中と外を隔てる境界に基づくセキュリティ対策は、過去の遺物になりつつある。代わりに重要性が高まっているのが、一時的なアプリケーションや柔軟性のあるインフラと連携し、組織に属する複数の関係者が利用できるセキュリティツールだ。
航空会社のAlaska Airlinesは2016年、クラウドの導入に着手した。同社はセキュリティの新興企業ShieldX Networks(以下、ShieldX)の最初期の顧客だ。Alaska Airlinesのレガシーアプリケーションの移行において、ShieldXは中心的な役割を担った。Alaska Airlinesは、VMware製品ベースのオンプレミスのデータセンターだけでなく、「Amazon Web Service」(AWS)や「Microsoft Azure」といったパブリッククラウドでもShieldX製品を役立てた。
現在、Alaska Airlinesはコンテナやコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」によるアプリケーション運用を計画している。それに伴い、DevOpsのセキュリティ分野でShieldX製品を利用することも検討中だ。
複数ベンダーのクラウドを利用するマルチクラウドを採用したことにより、Alaska Airlinesは2社のクラウドベンダーと付き合うことになった。この両社がそれぞれ異なるセキュリティポリシーを持っていたことが、Alaska AirlinesのITチームにとって課題だった。加えて同チームはオンプレミスのインフラも運用しなければならなかった。
Alaska Airlinesでネットワークおよびコネクティブソリューション部門のディレクターを務めるブライアン・タルバート氏は「われわれには、それらの状況全てを均等かつ詳細に把握する余裕がなかった」と振り返る。同社はこの状況をシンプルにし、社内のIT環境全体に適用できるポリシーの作成を1社に任せたいと考えていた。
「タグ付け」でファイアウォールのポリシー設定を簡略化
2016年初頭、Alaska AirlinesのCEOは業界イベントでShieldXの創立者に出会い、タルバート氏とShieldXの担当者とのミーティングを設けた。タルバート氏にとって、ShieldX製品のアーキテクチャは印象深かったという。
ShieldXをはじめ、vArmour Networks、Illumioなどのセキュリティベンダーは、ネットワークを細かく分割する「マイクロセグメンテーション」によって、アプリケーションのセキュリティを強化するアプローチを採用する。これはファイアウォールによる「防護壁」を強化し、データセンターやその内部にあるアプリケーションを保護する、境界に基づく従来型セキュリティモデルとは大きく異なる。
クラウドネイティブのアプリケーションが、サーバやデータセンターという存在から切り離されることが増えれば、「これまでのセキュリティモデルは変更を余儀なくされるだろう」とタルバート氏は予測する。
タルバート氏は「まずShieldXに当社のレガシー環境を理解してもらうことで、レガシーデータセンターから新しいデータセンターへの移行を安全に進めることができた」と話す。クラウド内のものも含め、アプリケーションを新しいデータセンターに移行すると、その移行に関連する工程を表すパイプライン(一連の処理)に「タグ」が付けられる。それによりアプリケーションをどこに配置しても、あらかじめ設定したポリシーを自動適用できる。
このタグシステムの設計では、Alaska AirlinesのエンジニアがShieldXを支援した。このシステムにより、アプリケーション開発者はファイアウォールのポートやルールの複雑な情報を意識する必要がなくなったという。Alaska Airlinesの情報セキュリティ部門が入力したポリシーも自動的に反映されるため、各アプリケーションの導入前に実装を検討する必要もない。
タグシステムの導入以前、Alaska AirlinesのITチームはアプリケーションのセキュリティポリシーをファイアウォールに適用するのに最大2週間かけていた。それが今では数秒から数分に短縮できている。
タルバート氏が製品を選定した当時、ITに精通していないAlaska Airlinesの関係者にとって、このタグシステムのシンプルさがShieldXの大きなメリットだったという。「アプリケーションが複雑になるほど、何かを見逃す機会が増え、セキュリティは脆弱になる」というのが同氏の考えだ。
コンテナ活用の未来
コンテナを使ったインフラに対するShieldXの支援は、まだ開発途上だ。同社のCEO、ラティンダ・アフジャ氏によると、同社はマイクロサービスアーキテクチャ向けのサービスメッシュ(サービス間のデータ連携を処理する仕組み)構築ツール「Istio」と、コンテナで動作するプロキシ「Envoy」を利用し、コンテナ向けのDevOpsセキュリティ製品の開発を計画している。
Alaska Airlinesは、MicrosoftのマネージドKubernetes「Azure Kubernetes Service」(AKS)を利用して、クラウドとオンプレミス両方でKubernetesおよびコンテナを運用している。Alaska Airlinesのアプリケーションにおけるコンテナ関連の処理は、大半がテストと開発に起因する。実稼働しているアプリケーションのうちコンテナで運用されているのは、重要度の低い少数のアプリケーションだけだ。同社はコンテナでの運用について予備調査をしている段階であるものの、全面導入について検討中だ。「ShieldXが当社と同じ方向に進んでくれることを期待している」(タルバート氏)
ShieldX製品でコンテナを扱えるようにした後、将来的にはセキュリティポリシーの自動適用を従業員のPCなどのエッジデバイスまで拡張することがタルバート氏の狙いだ。それまで同氏のチームは、エッジデバイスやデータセンターへの攻撃をShieldX製品が捉えられるようにするため、ShieldXが提供するAPIを使って、Carbon Black製品などのエッジデバイス向けセキュリティツールを導入する計画を進めている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
比較資料
[セコムトラストシステムズ株式会社] 「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 過去にRPA導入をあきらめた企業こそ知っておきたい 失敗しない自動化導入術 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 自分ひとりでデスクワークを効率化 「AI&ナビ搭載RPA」で実践する業務自動化 -
製品レビュー
[サイボウズ株式会社] 京セラコミュニケーションシステムに学ぶ、製造業の現場でAIを定着させる方法 -
市場調査・トレンド
[サイボウズ株式会社] 元ヤンマーCIOの矢島氏が語るDXの本質:日本企業が陥った4つの落とし穴と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
2
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
3
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
4
「Excel管理」では限界――製造現場の改善が進まない“隠れた原因”
-
5
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
6
年収が増えても幸せになれない 給与増でエンジニアが直面する「幸福度の壁」
-
7
便利機能が「裏口」に コンテナの安全を脅かす“監視の穴”とは
-
8
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
9
「野良Excelマクロ」に悩むSMBC日興証券が導き出した内製化の“現実解”
-
10
「Linux」の脆弱性を生むのは誰か? ベテラン開発者の意外なミス
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
3
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
8
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
9
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー