選手の安全性向上のためのAI活用
NFLがAWSのAIで構築した「選手のデジタルツイン」とは?
AWSとNFLの新たな提携は、機械学習などのAI(人工知能)技術を利用して、選手のけがのリスクを軽減することを目指している。この提携は、両者が「Next Gen Stats」プログラムで進めてきた協業に基づいている。
National Football League(以下、NFL)は、Amazon Web Services(以下、AWS)のAI(人工知能)技術関連の製品とサービスを利用して、選手のけがのシミュレーションや予測の精度を高めようとしている。選手の健康と安全を向上させる狙いだ。
NFLとAWSは2019年12月5日、AWSの年次イベント「AWS re:Invent 2019」の記者会見で新たな提携を発表した。会見にはAWSのCEOであるアンディ・ジャシー氏と、NFLのコミッショナーであるロジャー・グッデル氏が登壇した。「この提携は、アメリカンフットボールを大きく変えるだろう」と、同イベントでグッデル氏は語った。
「戦い方、指導方法、選手に求める試合への準備の仕方が変わっていくだろう」(グッデル氏)
この提携は、NFLとAWSがデータサービス「Next Gen Stats」(NGS)で進めてきた協業に基づいている。この協業は、NFLが選手のデータを収集、処理するのに役立ってきた。2017年に発表されたNGSにより、選手の肩パッドとボールに新たにセンサーが組み込まれ、選手とボールの位置、速度、加速度のデータをリアルタイムで収集できるようになった。
収集したデータはAWSのデータ分析および機械学習ツールに取り込まれ、ファンや放送局、NFLクラブに、画面で統計データや予測(予想されるキャッチ率やパス成功率など)をライブ配信するために使われる。
選手の「仮想レプリカ」で試合に潜む危険を発見
AI技術に関するNFLとAWSの新たな提携では、NGSを含む多くのソースから得られるNFLのデータセットを使って、選手の「デジタルツイン」(実世界に存在する人や機械を仮想世界に再現したもの)を構築する。このデータセットにはビデオ映像、選択した防具、フィールド表面、選手のけがに関する情報、プレーの種類、衝突の種類、環境要因などが含まれる。
NFLは、有用な情報が引き出せる、こうしたさまざまなデータセットでプロジェクトを開始した。こうしたデータはそのまま使うだけでなく、「選手が着けていた防具、衝突の頻度、選手の移動速度、衝突した角度といった情報も割り出し、活用する」と、クランダル氏は説明する。
デジタルツインは通常、製造業で機械の出力や故障の可能性を予測するために使用される。基本的に、大量のリアルタイムデータおよび過去データから構築される、人や機械の複雑な仮想レプリカだ。機械学習や予測分析を利用して、仮想世界でデジタルツインを無数のシナリオに適用することで、エンジニアやデータサイエンティストは、その実物が実世界での各シナリオでどのように振る舞うかが分かる。
NFLとAWSは新たな提携に基づく技術「Digital Athlete」を共同開発する。この技術は、実際の選手の健康や安全を危険にさらすことなく、試合環境の多種多様なシナリオに選手のデジタルツインを適用できる。こうして得たデータは、「試合のルールや選手の防具などの要素をどのように変更すれば、アメリカンフットボールをより安全な競技にすることができるか」についての洞察を提供すると、両者は期待している。「われわれの取り組みの強みは、われわれがこの10年程度に作成してきたデータを活用できることにある。これによって大きな可能性が開けると考えている」(グッデル氏)
安全向上に向けた最新の取り組み
近年の研究は、アメリカンフットボールの極めて高い健康リスクを浮き彫りにしている。米国の退役軍人省が運営する病院群「VA Boston Healthcare System」(とボストン大学医学部)の研究チームが2017年に、医学雑誌『Journal of the American Medical Association』(JAMA)に発表した研究結果は、「アメリカンフットボールの選手は、神経学的疾患が長期にわたって進行するリスクが高い」ことを示した。
この研究結果(対照群は設けられていない)は、元アメリカンフットボール選手を選手歴(中学校まで、高等学校まで、大学まで、セミプロまで、カナダのフットボールリーグ「CFL」まで、NFLまで)で区分し、脳疾患について調査したものだ。それによると、NFLでプレーした調査対象者111人のうち110人が、何らかの脳変性疾患を抱えていた。
NFLはこの数年、アメリカンフットボールを選手にとってより安全なものにしようとさまざまな変革を進めているAWSとの新たな提携はその最新例だ。最近の他の取り組みには、新ヘルメットルールの導入や、より安全なヘルメットの開発コンテスト(賞金や助成金は総額300万ドル)などがある。
AWSとNFLの提携は「選手の健康と安全を向上させる改革につながるはずだ」と、ジャシー氏は自信を示す。
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