ランサムウェアが病院に及ぼす危機【第4回】
病院の業務停止を狙うランサムウェア攻撃、どのセキュリティ対策を優先するか?
最近のランサムウェア攻撃はデータの暗号化に満足せず、業務の停止を狙う。医療機関にとっては患者の生命に関わる問題だ。IT予算が限られている中、優先的に取り組むべきセキュリティ対策は何か。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)に立ち向かう医療機関にとって、ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃による業務停止は深刻なリスクにつながる。第3回「医療機関を狙うランサムウェア攻撃の手口 スタッフが休む週末は危険?」に続き、第4回となる本稿は医療機関が取り組むべきセキュリティ対策を紹介する。
医療機関が優先すべき“あの対策”
最近のランサムウェア攻撃はデータの暗号化だけにとどまらず、業務停止を狙うようになってきた。医療業界団体American Hospital Association(AHA)によると、ランサムウェア「WannaCry」の攻撃が相次いだ2017年以降、病院も業務停止を意図した攻撃を受けるようになっている。
英国政府機関National Audit Office(NAO)の調査によると、2017年のWannaCry攻撃によって国民保健サービス(NHS)加盟施設の医療機器1200台以上が感染した。マルウェアの拡散を防ぐために医療機器を一時的に停止せざるを得ず、5つの病院が救急部門を閉鎖して患者を転院させることになった。AHAでサイバーセキュリティのシニアアドバイザーを務めるジョン・リギ氏によると、英国ではNHS加盟施設236件のうち少なくとも80件の病院に加え、プライマリーケア(初期診療)を提供する603件の診療所が影響を受け、合計1万9千件以上の予約がキャンセルされたとみられる。
病院がランサムウェア攻撃を受ければ、その影響が長引く恐れがある。第2回「病院のシステムダウンで死者も? 医療機関が経験したランサムウェア攻撃の悲劇」で取り上げたデュッセルドルフ大学病院は2020年9月10日(現地時間、以下同じ)にランサムウェア攻撃を受け、1カ月以上経過して「ようやく通常の運営に戻った」という声明を2020年10月12日付で発表した。同院は2020年9月23日までは救急医療を提供できず、救急車の受け入れもできなかった。2020年9月23日時点の発表によると「救急医療の復旧は段階的に進めた」といい、その理由に「システム要件の違い」を挙げていた。例えば分娩(ぶんべん)室は一部の特殊な手術室とは異なるシステム要件だったためいち早く復旧できた。救急医療の復旧に重要な前提条件は、攻撃を受けたエックス線装置やコンピュータ断層撮影(CT)装置など画像診断のシステムを復旧することだった、と同院は説明する。
Dell傘下のセキュリティベンダーSecureworksでインテリジェンス部門のディレクターを務めるマイク・マクレラン氏は、医療機関はセキュリティへの投資が後回しになりがちだと指摘する。
医療機関の使命は当然、人々の命を救い、健康を支援することだ。医療機関はIT人員が限られ、何に取り組むべきかの優先順位を決めるのが難しい状況にある。システムと機密データのセキュリティの重要性を認識しつつも、十分な投資をしていない医療機関は少なからずある。「そのために脆弱(ぜいじゃく)性が放置され、攻撃者の格好の標的になる」とマクレラン氏は語る。
ランサムウェア攻撃を防ぐために、ネットワークセキュリティの対策に優先的に取り組む必要がある、とマクレラン氏は強調する。「データが暗号化された時点で攻撃を止めようとしても手遅れだ」と同氏は指摘する。同氏によると、攻撃者はランサムウェアを展開する数日前~数週間前からアクセス権を手に入れている。「ランサムウェアは今も変わらず『無差別で便乗的な攻撃』だ」(同)。病院だけでなく一般企業も、ネットワークセキュリティを強化し、IDS/IPS(不正侵入検知/防御システム)などで手遅れになる前に脅威を特定する対策を重視する必要がある。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー