生物学的デジタルカメラの激震
「DNAストレージ」がデータ保存の“限界”を超えるのか
データの使用量が増え続ける中、各種ストレージ新技術の開発に期待がかかっている。新たに発表された、DNAとデジタル技術の組み合わせるシステムがストレージ業界に革新をもたらす可能性がある。
「SSD」や「HDD」の記録容量を増やすさまざまな技術開発が進んでいる。そうした既存技術は、当面のデータ容量増大に対処するには十分なだけの進歩になると考えられるが、将来的に必要になるデータ保存量を確保するには不十分だという見方が強い。
遺伝情報を保存する「DNA」(デオキシリボ核酸)による生物学的なメカニズムをストレージに活用する「DNAストレージ」は、ストレージの既存技術の限界を突破する可能性のある新技術だと見なされている。新たに開発されたのは、DNAストレージの活用に現実味を帯びさせる、業界を揺るがす新システムだ。
ストレージ業界を揺るがす「DNA」の応用
併せて読みたいお薦め記事
ストレージのさまざまな新技術
シンガポール国立大学(NUS)の研究者チームは2023年、DNAを使ったデータ保存の制約を回避するシステムの開発に成功したことを発表した。画像のデータを生細胞に保存し、生細胞固有の生物学的メカニズムを利用してデータをエンコード(データを他の形式に変換すること)し、保存する方法だ。
DNAのデータ保存に関する従来の研究では、DNAの二重らせん構造を構成する鎖である「DNA鎖」を細胞外で合成する方法が注目されてきた。だが、その合成プロセスには費用がかかる上、エラーが起きやすいという課題があった。
NUSの研究者チームは、豊富なDNAを含む生細胞を、データを蓄積するデータバンクとして機能させる方法に着目。生物学的なさまざまな技法とデジタル技法を融合することで、細胞外でDNA鎖を合成する必要性を軽減した。同研究チームはその手法を使い、デジタルカメラの機能のエミュレーション(模倣)をする画期的なシステムを開発した。
「細胞内のDNAが、未現像の写真フィルムになると考えてほしい」。そう語るのは、NUSのデザイン工学部建築学科(CDE:College of Design and Engineering)の準教授で、今回の開発と連携する同大学の研究プログラムを率いるポー・チュエ・ルー氏だ。
光を使って細胞の活動を制御する「光遺伝学」(オプトジェネティクス)という技術がある。これは「カメラのシャッターのメカニズムに似ている」とルー氏は語る。同氏の説明によれば、研究チームは光遺伝学を使って光信号をDNAの「薄膜」に焼き付け、画像を記録することに成功した。
次に、研究者チームは写真へのラベル付け(情報の付与)に似た手法を用いて、記録した画像に識別情報を付けた。画像の整理や並べ替え、再構築には機械学習アルゴリズムを使った。これらの手法によって、デジタルカメラがデータを撮影し、保存し、その画像を取り出すプロセスを模倣する「生物学的カメラ」を構成した。
重要な点は、NUS研究チームによる新システムの手法が、容易に再現可能であり、拡張性を備えていることだ。これは、DNAをストレージに使う従来の研究開発とは異なる点だと言っていい。
NUSの研究チームが今回の新システム開発に成功したことは、ストレージ分野に大きな影響を与える可能性がある。「当チームがDNAストレージの限界を押し上げたことで、生物学的システムとデジタルシステムの橋渡しをするインタフェースへの関心が高まっている」とポー氏は話す。
生物学的システムをデジタルデバイスに取り入れる研究開発において、NUS研究チームの今回の成果は重要なマイルストーンになるものだとポー氏は強調する。同チームはDNAと光遺伝学の回路を利用することで費用対効果の良いDNAストレージの手法を生み出し、「生きたデジタルカメラ」を作成することに成功したのだ。
これから同チームは、DNAストレージのさらなる応用や、技術改良の方法を探る。「この研究が、データの記録と保存における継続的イノベーションの礎となることを願っている」(ポー氏)
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製
品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソミック石川に学ぶ、ICT浸透後に直面した「工数管理」の課題と解決策
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
2
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
3
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
4
膨らむAIコストに歯止め GitHubのマルチモデルルーターは何が違うのか
-
5
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
-
6
HDDではもう限界? AIのGPU待機時間を解消する「大容量SSD」の条件
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
-
9
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
10
Anthropicが明かす AIは入力データを「どこまで覚えているのか」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
-
9
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
10
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー