せっかく採用プロセスを突破できたのに
期待の若手エンジニアを入社初日に解雇 どのように”ある国の脅威アクター”を見抜いた?
セキュリティベンダーExabeamは、採用したエンジニアを入社当日に解雇した。ある国にひも付く脅威アクターだったことを同社が迅速に見極めたからだ。発見の経緯は。
2025年夏、若手エンジニアトレバー・ロス氏は、セキュリティベンダーExabeamに採用された。テレワークのポジションだった。
実は、「トレバー・ロス」は架空の人物だった。北朝鮮の脅威アクターが、盗み出したある人物の個人情報と偽造した書類を使って採用に臨んでいた。努力のかいあって、同アクターはExabeamに採用され、社内ネットワークに侵入できることになった。
ロス氏は技術面接とコーディング試験で高い評価を得た。無事Web面接を通過したロス氏だったが、採用チーム側は試験中に生成AI(AI:人工知能)を使った可能性を疑っていた。それでもExabeamは内定を提示した。バックグラウンドチェックやフォームI-9(米国の企業に米国内で雇用された従業員や雇用主が、従業員の身元と就労許可の有無を証明するための書類)の確認など、通常の事前審査を経て、同氏はIT部門からノートPCを受け取り、すぐに業務を開始した。
北朝鮮の脅威アクターは、経済誌Fortuneが発表する企業の売上高ランキング「Fortune 500」に名を連ねる企業にとって深刻な脅威だ。米財務省は、北朝鮮出身の脅威アクター数千人が米企業から給与を受け取り、社内システムにアクセスしていると推定している。彼らの目的は2つだ。1つは自国政権の資金確保。もう1つは、不正侵入の足掛かりを得ることだ。近年では、暗号資産の窃取や機密データの盗難、データ恐喝などの被害が発生している。
こうした攻撃の検知を難しくしている要因もある。北朝鮮の脅威アクターのような存在は数カ月から数年にわたり潜伏する。ExabeamのAIおよびセキュリティ研究担当バイスプレジデントであるスティーブ・ポボルニー氏は、セキュリティカンファレンスRSA Conference(RSAC)2026の講演で次のように述べる。「一般的に、こうした攻撃はゆっくりとした速度で進行する。既存の環境を悪用し、目立たない。気付かないうちは検知されないが、ある時点で露見する」
だが、ロス氏の勤務1日目は勤務最終日になった。ExabeamのSOC(Security Operations Center)が、ロス氏の初回ログイン時に脅威インテリジェンスを検出したのだ。その結果、北朝鮮の脅威アクターとの関連が指摘されたロス氏のユーザー名は、高リスクとしてフラグ付けされた。この情報を受け、インシデント対応チームはひそかにロス氏の端末へアクセスし、ネットワークから隔離した。
検出当初、チームは誤検知の可能性も考慮した。ExabeamのCISO、ケビン・カークウッド氏は「新規ユーザーだったため、誤認の可能性もあると考えた」と述べた。
一方で、SIEM(Security Information and Event Management)は、同ユーザーの行動に関する断片的なアラートを生成していた。具体的には、Web会議ツールZoom関連のWebサイトに見せかけた偽のWebサイトの利用やファイルダウンロード、サードパーティーVPNへの接続試行、リモートデスクトップアプリケーションJump Desktopのインストール、ストリーミングサービスの利用が検出されたのだ。
これらのアラートは、単独では誤検知にすぎない可能性がある。だが、ここでAIが活用された。
Exabeamの「Exabeam Nova」はSOCに搭載されている調査用AIエージェントだ。エンドユーザーの行動を分析、評価することで、攻撃者の不審な行動を特定し、認証といったセキュリティ対策を回避するのを阻止するツールであるUEBA(ユーザーとエンティティ行動分析)のデータを自動収集し、新入社員というコンテキストでロス氏の挙動を評価した。その結果、詳細な調査が必要と判断した。さらに行動と意図を分析し、次の結論を提示した。
「この一連の行動は『悪意あるソフトウェア』の脅威ベクトルと一致する。これは内部不正の前兆である」加えて、SOCアナリストに以下の対応を提案した。
- 端末を隔離し、さらなる侵害や横展開を防ぐ。
- 端末のフォレンジック分析を実施し、感染経路と影響範囲を特定する。
- メールやブラウザ履歴を確認し、フィッシングや不正ダウンロードの有無を調査する。
- スケジュールタスクやレジストリ変更など、永続化の仕組みを確認する。
- 不審な外部IPやドメインへの通信を分析する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] 「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
5
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
6
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
7
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
8
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
9
【基本情報技術者試験】なぜ複数アプリが同時に動く? OSの「マルチタスク」の仕組み
-
10
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー