AIによる代替ではなく再編
AI導入で「首切り」は逆効果? 先進企業がかじを切る組織再編とリスキリング
AIによる人員削減は短期的な愚策にすぎない。先進企業のCIOは単純な首切りではなく、組織構造のフラット化やリスキリングによる「AIとの共存・再編」へかじを切る。IT部門の価値を再構築する具体策に迫る。
現在の雇用市場では、人員削減の鈍化と採用の増加が同時に起きている。再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasの7月の報告によると、2026年7月の米国の雇用者による人員削減数は3万3429件だった。これは2026年6月比で27%減、2025年7月比で46%減だ。同年7月に雇用者が発表した採用計画は1万6095件で、6月と比べて47%増加した。
人員削減の影響が最も大きいのはテクノロジー分野だ。同レポートによると、2026年のテック分野の人員削減数はこれまでに14万9023件に達した。人員を削減する企業にとってAIは今も削減理由の中心にある。
AIが長期的に雇用へどのような影響を与えるかについて、結論は出ていない。だが足元の市場動向を見ると、AIによる人材の一律的な代替から離れる動きがうかがえる。企業は、AI時代の要請に合わせて人材構造を再編することに関心を寄せている。
CIOはかつてないほど事業運営に深く関与している。AIの取り組みを主導する中で、CIOは組織の業務フローやチーム構造の再設計に影響を与えられる立場にある。本記事では、組織構造のフラット化やリスキリングによる「AIとの共存・再編」へかじを切る先進企業の取り組みからIT部門の価値を再構築する具体策に迫る。
ノイズとシグナル:何が変わりつつあるのか
テック企業の人員削減には大きな注目が集まる。特にMetaやAmazonのような大企業の幹部がAIの主導権を握るために数千人規模の人員削減を実施するとその傾向は強まる。削減の勢いは鈍化しつつあるものの、米労働省労働統計局(BLS)の最新データは労働市場の軟調さを示している。
データ分析・コンサルティング企業GlobalDataのレポートによると、世界の雇用市場の求人件数は第2四半期に前四半期比で2.3%減少した。同レポートは、雇用者が「より慎重な採用姿勢」を取り、「外部からの採用と人員配置の最適化のバランスを取っている」と指摘している。
人員配置の最適化は、AI時代の組織再編で核となる要素だ。AIへの対応として、チーム構造が単に縮小するのではなく、質的に変化していることを示している。
データ整合性ソリューションを手掛けるPreciselyは、よりAIを中心とした運用モデルへの再定義を進めている。同社のCIOであるジョエル・チャップリン氏はTechTargetの取材に、現在のチームの働き方を変え、採用プロセスを見直すことだと説明した。
「運用モデルについて私たちが最も重視しているのはリスキリングだ」とチャップリン氏は語る。「採用時には、システム管理者やデータアナリストといった従来の職種ではなく、より幅広いスキルを求めている」
こうした移行には時間がかかる。AIの活用に必要な人材変革について大半の企業はまだ初期段階にある。Deloitteが実施した調査では、経営層の74%が4年以内に自社プロセスの半数以上がAIエージェントを中心に再設計されると回答した。そうした再設計には人材の再編が伴う。回答者の43%は、今後12~18カ月以内にAIエージェントの導入に関連して雇用に「大きな」、または「極めて大きな」混乱が生じると見込んでいる。
AIによる再編とは何か、AIによる代替とどう違うのか
AIによる再編とは、既存の業務フローの上にAIを重ねて人をエージェントに置き換えるのではなく、人々の働き方自体を変える長期的な戦略を指す。
再編に向けた取り組みは、組織構造を変える可能性がある。人事コンサルティング企業McLean & Companyで人事トレンドとAIのプラクティスリードを務めるウィリアム・ハワード氏によると、AIによって意思決定の権限が現場へ委譲されれば、組織はフラット化し得るという。
「成果物に最も近い立場にいる人間が、行動を起こすのに最も適している」とハワード氏は説明する。「これは承認階層の削減を意味する。構造に大きな影響を与え、組織のフラット化につながることがある」
不要になった承認階層で働いていた人が排除されるとは限らない。そうした人材を新しい役割に配置転換すれば、社内の知識を維持して継承できる。
Preciselyのチャップリン氏は、従来のITのサイロ化を解消することを目指している。「私たちはAI開発やAI活用推進など、AIに特化した役割を増やしている」と同氏は語る。「AIによって業務時間や生産性を創出できたとき、どのような役割へシフトできるかを考えている」
再編によって従業員が異なる役割へ移行すると、新規採用のペースは鈍化する可能性がある。
保険業界向けのエージェンティックAIプラットフォームを提供するPatraでCISOを務めるショーン・ケネディ氏は次のように述べる。「人材のスキルを高めつつ、顧客に優れた価値を提供したい。事業の成長によって人員削減を避け、既存の人材を維持できる状態が理想だ。そのぶん、新規採用を控えることになる」
一方で、AIによる代替は、人間の作業を拡張したり責任範囲を変更したりするのではなく、職務全体を自動化して人員を削減することに重点を置く。
「代替に過度に依存するのは、短期的な対症療法だ」とハワード氏は指摘する。「再編にはより多くの労力を要する。構造や役割、責任範囲の変更が必要になるが、組織にとってもたらされる長期的なメリットは格段に大きい」
CIOが主導できるAI運用モデルの転換
CIOには、AIによる再編を支える運用モデルの形成を後押しする責務がある。その第一歩は、AIをビジネスの業務フローに組み込むことだ。企業の主要なバリューストリームは何で、AIがそれにどう貢献できるかを明確にする必要がある。
そのためには、個別のAI施策から事業の中核機能に合致した規律あるアプローチへと移行する必要がある。例えばPatraは保険業界に特化している。ケネディ氏は、同社がAIの取り組みを保険分野に集中させる方針をとっている。
「保険とは関係のないソフトウェアの開発や、顧客への価値提供につながらない活動は避けたい。そうした動きは抑制する必要がある」とケネディ氏は語る。「事業の最終的な目標を見据え、全員の足並みをそろえることの方が重要だ」
財務面での規律も企業の価値を高める運用モデルを構築する上で必要な要素だ。Patraは最先端の大規模モデルから離れ、自社のクラウド環境内で運用できる一元化されたローカルシステムへ移行しているという。
「最も重要なのは、従業員をその環境に慣れさせることだ。財務的な観点からそれを実現する唯一の方法は、自社のクラウド環境で業務に直結したローカルLLMを動かすことだ」と同氏は語る。
規律があり価値に直結したAIを業務に定着させるため、企業は新しい人材構造を採用できる。「AIネイティブポッド」はその一例だ。少人数のチームがAIエージェントと協働し、成果の迅速な達成を目指す体制である。
「私たちはポッドというアプローチを採用している。ポッド内に製品チームを置き、開発者、ビジネスアナリスト、事業部門の担当者で構成する。要件を正しく理解し、迅速に実行できる体制だ」とチャップリン氏は説明する。
ポッド構造を採用するかどうかにかかわらず、再編が進むと多くの職種で働き方の変化が求められる。
ケネディ氏は次のように述べる。「これまでの従業員は、一連の業務フローで特定のタスクをこなす訓練を受けてきた。AIの活用により、従業員はスキルを高め、業務フロー全体を理解できるようになる。個別のタスクはAIに任せ、人間は全体を監督する形を目指している」
CIOが取るべきアクション
AIによる再編は、企業の最も重要なバリューストリームへ技術を統合していく長期的なプロセスだ。AI再編の一環としてITの価値再構築を検討するCIOに向けて、導入時に取るべきステップを幾つか挙げる。
他の経営層との連携
「AIがもたらす価値を制限している要因は、ITやテクノロジーだけの問題ではない。仕事がどのように組織化され、設計されているかという問題だ」とハワード氏は語る。
CIOは他のリーダー層と連携し、企業のAI戦略に変革をもたらす必要がある。Preciselyでは、チャップリン氏が最高人事責任者(CHRO)と協力してAI変革プログラムを進めている。
「AIや技術面での取り組みが、社内の人員計画を確実に支えるよう緊密に連携している」(チャップリン氏)
AIガバナンスの推進
CIOはビジネス部門の関係者と密接に連携し、AIガバナンス、リスク管理、シャドーAI対策の要件について各部門やチーム間で認識を統一する必要がある。
「各部門やそのリーダーと対話し、協力体制を築くことに時間を費やしている。ガバナンスの枠組みを置き去りにして暴走しないよう、スピード感を適切に保つことが重要だ」とチャップリン氏は述べる。
指標の設定と追跡
現時点で、AIの価値測定は科学というよりも手探りの要素が強い。
ハワード氏は「個人レベル、チームレベル、組織レベルで、AIによる成功をどのように測定するかが問われている。多くの企業が今、その課題に直面している」と話す。
CIOは、効率性、生産性、投資対効果(ROI)についての指標を特定する役割を担う。再編されたチームや再設計された業務フローが、企業にどのような価値をもたらしているかを測る。
再編に向けたストーリーの構築
「投資しなければ取り残される」という焦燥感から、企業は性急に動き、再編よりも人員の代替に目を向けがちになる。再編の戦略的重要性を認識しているCIOには、その意義を社内に説く責任がある。
最新のAIモデルやツールの宣伝に惑わされるのではなく、社内の人材に目を向けるべきだとハワード氏は主張する。「リーダーシップの体制やスキルから見て、従業員と組織の準備を整えることに注力すべきだ。そうすれば、次に何が起きても組織は対応できる」
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