ソブリンAI導入を阻む「3つの壁」とは
経営層の半数以上が説明に苦戦 500人調査から分かった「ソブリンAI」の現在地
企業向けAIモデルを開発するCohereは、規制の厳しい業界のリーダーを対象に「ソブリンAI」の調査を実施した。重要性への認識は広がっているものの、経営層の認知不足と導入を阻む「3つの壁」が明らかになった。
AIを業務の中核に据える企業が増える中、「どのAIを使うか」だけでなく、「AIを誰が管理し、どこまで自社で制御できるか」が新たな論点となりつつある。AIベンダーへの依存が強ければ、サービス停止や規制変更、サイバー攻撃など、自社では制御できない要因によってAIを利用できなくなる恐れがあるためだ。
企業向けAIモデルを開発するCohereは2026年8月25日(米国時間)、規制の厳しい業界の企業幹部を対象に「ソブリンAI」(Sovereign AI)の導入状況を調査した結果を公開した。調査は、調査会社IDCが実施した。
2026年4~5月に実施した調査からは、経営層の半数以上がソブリンAIを重要課題と捉える一方、その意味や実現方法について十分な共通認識が形成されていない実態が浮かび上がった。ソブリンAIを導入する上で、企業はどのような場面でつまずいているのか。
経営層における“ソブリンAI”の現在地は
IDCはソブリンAIを、AIシステムやアプリケーション、その基盤技術について、設計、開発、導入、アクセス、運用、保守、ガバナンスを組織自身が自由に選択し、制御できる能力と定義している。
ところが調査によると、経営層の3人に1人がソブリンAIについて自分の言葉で説明することに苦労したという。自ら定義できた回答者のうち52%は、「地域または国家による管理」という観点から説明し、35%は「デジタル上の独立性」を挙げた。
役職によって捉え方にも違いがあることが分かった。事業部門の責任者は、データセキュリティやプライバシー、コスト管理といった「事業リスクを管理する手段」としてソブリンAIを見る傾向があったという。
これに対してIT部門の責任者は、各国・地域の規制要件を満たすための「コンプライアンス」の観点を重視していることが示唆された。IT担当者のソブリンAIに関する認知度は、事業部門の責任者の約2倍だったという。
導入を阻む「3つの壁」
IDCの調査を基にCohereが整理したところ、ソブリンAIの導入が企業によってばらつく背景には、大きく3つの課題があるという。
第1は、「AIの自律性や主権を具体的にどう実現するか」が明確になっていないことだ。
ユーザー企業は、特定ベンダーへのロックインや、AIシステムの移植性が十分でないことをリスクとして認識し始めている。一方、ソブリンAIを実際のITアーキテクチャや運用に落とし込むための明確な設計図を持っているとは限らない。
サイバー攻撃や地政学的リスクへの対応に加え、データを特定地域に保存する「データレジデンシー」や、GDPR(一般データ保護規則)、欧州連合(EU)の「AI法」(EU AI Act)などの規制への対応も必要だ。
第2は、組織内での認知度の低さだ。
調査によると、ソブリンAIについて「非常に広く認識している」と回答した経営層は13%にとどまった。つまり、AIへの投資判断に関与する担当者であっても、ソブリンAIについて十分な知識を持たないまま意思決定している可能性がある。
第3は、「認識」から「実行」への移行だ。
ソブリンAIが重要だと理解するだけでは十分ではない。どのAI資産を自社で管理するのか、どの責任を誰が担うのかを決め、測定可能な目標を設定する必要がある。経営層の間で方針をそろえることが求められる。
最大の懸念は「データ漏えいと規制対応」
調査では、ソブリンAIの取り組みによって対処できる重要な課題についても尋ねた。回答者からは、業界を問わずデータ漏えいやプライバシー、コンプライアンス、規制に関するリスクに対する強い懸念が示された。業界別では、金融サービスが82%と最も高かった。製造業は77%、通信業は75%、医療は74%、エネルギーは70%だった。
ソブリンAIの定義そのものには組織や役職によって違いがある一方、データのプライバシーやセキュリティを確保し、規制リスクに対処することの重要性については、共通認識が形成されていることが分かる。特に、売上高200億ドル規模の大企業は、小規模な企業よりもこうしたリスクへの意識が高かった。
「守り」だけではない 競争力向上にも期待
ソブリンAIを検討する理由は、セキュリティや規制対応だけとは限らない。AI活用を実験段階から本格運用へ移行させる過程で、セキュリティの強化や外部事業者への依存低減、他社との差別化を競争力につなげようとする企業の動きもある。
調査では、ソブリンAIを検討する要因について尋ねた。その際、「競争優位性」を挙げた割合を地域別に見ると、カナダが35%、米国が28%、ドイツが23%、英国が18%だった。
業界別では通信業が37%と最も高く、製造業が32%、医療が28%、金融サービスとエネルギーがそれぞれ21%だった。
外部のAIサービスを必要なときに利用するだけでなく、自社が選択したインフラや法域の中でAIを運用し、データやシステムへの制御権を確保することが、事業継続性やサービスの差別化につながるとの見方は広がりつつある。
IDCが2025年10月に公開した調査「IDC FutureScape:Worldwide CIO Agenda 2026 Predictions」によると、2028年までに多国籍企業のCIOが、モジュール化された「ソブリン対応」のクラウドやデータローカライゼーション環境への投資を65%増やすとIDCは予測している。
ソブリンAIを巡る課題は、単に「データを国内に置けばよい」というものではない。AIモデルやインフラを誰が管理するのか、外部事業者への依存をどこまで許容するのか、障害や政治的・規制上の変化が起きても業務を継続できるかまで含めて考える必要がある。
本稿は、Cohereが2026年8月25日に公開したThe state of sovereign AI adoption in 2026を基に作成しました。
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