IDCの調査によると、アジア太平洋地域の政府機関で「ソブリンAI」への関心が急速に高まっている。AIを国家デジタルインフラとして位置付ける動きが広がる一方、課題が浮き彫りになった。
「ソブリンAI」が、アジア太平洋地域の政府におけるAI戦略の中心に浮上している。IDCが2026年5月に公開した調査結果によると、アジア太平洋地域の政府機関では、ソブリンAIが投資優先順位で前年の7位から2位へ急上昇した。背景には、AIを単なる業務効率化ツールではなく、「国家を支えるデジタルインフラ」として捉える動きがある。
同調査は、Dell TechnologiesとNVIDIAの委託で2025年12月に実施されたものだ。調査では、8カ国(オーストラリア、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国)の政府IT意思決定者360人が回答した。
ソブリンAIとは、自国のインフラ、データ、アルゴリズム、人材、法制度の下でAIを運用・統制する考え方だ。IDCはレポートの中で、「国家が自らのインフラ、データ、アルゴリズム、労働力、ビジネスネットワークを用いてAIを生産・保護する能力」と定義している。
調査によると、政府機関の46.1%がソブリンAI技術を積極的に評価しており、36.1%は既にPoC(概念実証)を進めている。一方で、「大規模投資を実施済み」と回答したのは3.1%にとどまった。
IDCは、各国政府が目指しているのは「技術的な独立」ではなく、「選択的主権」だと説明する。つまり、機密データや重要システムは自国内で厳格に管理しつつ、グローバルクラウドや海外テクノロジーも必要に応じて活用する「ハイブリッド主権モデル」が主流になりつつある。
実際、レポートでは「完全なフルスタックソブリンAIは現実的でも望ましいものでもない」と指摘する。各国政府は、重要データや規制対象ワークロードを自国管理下に置きながら、グローバルなAIエコシステムによるイノベーションやスケールメリットも取り込もうとしている。
今回の調査で特徴的なのが、エージェンティックAI(自律型AIエージェント)への強い期待感だ。政府リーダーの99%が、エージェンティックAIは公共部門のAI導入を加速させると回答した。うち36.9%は「主要な役割を果たす」と回答し、62.1%は「強力なガバナンスと監視体制があれば導入を進められる」としている。
IDCは、各国政府がエージェンティックAIに慎重なのではなく、「安全に大規模展開するための統制基盤」を整備しようとしている点が重要だと分析する。レポートでは、ソブリンAIを「AI導入を加速させるための“信頼レイヤー”」と表現している。
背景には、公共部門における深刻な人材不足もある。約9割の政府機関がデジタルスキル不足を抱えており、エージェンティックAIを「労働力を増幅する存在」と見なしている。複雑な行政業務や分析作業をAIで自動化することで、限られた人材でもより多くの成果を出せることが期待されている。
一方、AI導入を阻む最大の課題として浮上したのがスキル不足だ。
調査では、約9割の政府機関がデジタル人材不足を報告しており、半数以上が「デジタル施策へ重大な影響を与えている」と回答した。
特に不足している職種として、調査では例えば以下が挙がった。
IDCは、全てのAI能力を政府内部だけで確保するのは現実的ではないと指摘する。政策・ガバナンス・データ統制は政府が直接保有しつつ、高度なAIエンジニアリングやインフラ運用については、外部パートナーと協業する「4層モデル」を推奨している。
「AI主権の導入により国民が最も大きな恩恵を受けられる領域」を尋ねた質問では、「国家安全保障とサイバー回復力」(45.6%)、司法・公共安全(37.5%)、金融・税務(37.5%)、公衆衛生(34.4%)が並んだ。
政府がAI主権の技術に投資するに当たっての最重要判断基準を尋ねた結果、「国家安全保障や主権との整合性」を最重要視する政府は53.3%に達した。IDCは、「コストやROIだけではなく、“信頼できる供給網”や“地政学リスク”がAI調達の重要要素になっている」と分析している。
レポートは、今後のソブリンAIの方向性として、「オンプレミス」「主権クラウド」「グローバルクラウド」を組み合わせたハイブリッド構成が主流になると予測する。その上で、ソブリンAIを単なる技術導入ではなく、「政府全体の長期的な能力」として整備できるかが、各国の競争力を左右するとしている。
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