AI活用に必要な「1次情報の整備」
「紙とExcel」ではAIは育たない 製造業DXの鍵を握る“構造化データ”への移行
製造業の帳票管理ではAI活用への意欲が高まる一方、紙やMicrosoft Excelへの依存が依然として強い。現場が抱える構造的な制約と、AI活用に向けたデータ整備の課題を読み解く。
製造業におけるAI活用が進む中、現場の1次情報をどのようにデータ化し、運用するかが課題となっている。現場帳票システム「i-Reporter」を手掛けるシムトップスが2026年7月に実施した調査では、従業員数50人以上の製造業者で現場帳票を管理している112人から回答を得た。それによると、製造業で現場帳票を管理する担当者の91.9%が「現場帳票データをAIツールの活用に役立てたい」と回答した。しかし、実際の現場帳票の管理方法は「紙」「Microsoft Excel」が69.7%を占めており、旧来の管理手法が定着しているという構造的な課題が存在する。
紙やMicrosoft Excelでの管理は、データの抽出や分析を困難にし、高度なAIシステムを導入しても、その真価を発揮しにくい。現場が直面する具体的な障壁と、AI活用に向けて整備すべきデータの要件を解説する。
人手不足とデータ活用のジレンマ
製造業の現場においてデジタル化の必要性が認識されているにもかかわらず、実態が伴っていない背景には、根深い構造的な課題がある。
調査結果によると、現場帳票の管理方法として紙を利用している割合は16.1%、Microsoft Excelは53.6%であり、合計69.7%の現場がアナログな管理手法にとどまっている。紙で管理を継続している理由として、61.1%が「紙での記録・報告が慣例になっている」と回答。長年培われてきた業務プロセスや、現場作業者のITツールに対する抵抗感が、新たなシステム導入の壁になっていることがうかがえる。
一方、Microsoft Excelでの管理を続ける理由としては、「クラウド化が進んでいないから」が48.3%で最多となった。セキュリティへの懸念や既存のオンプレミスシステムへの依存から、クラウドサービスの整備が遅れており、結果として個人のPC内にファイルが散在する「データのサイロ化」が生じている。
データのサイロ化が招く活用不全と現場の危機感
このような管理体制やサイロ化されたデータ管理インフラに対して、現場の管理者は強い危機感を抱いている。紙やMicrosoft Excelでの運用に関する不満として、52.6%が「データの抽出・分析がしにくい」と回答し、「他ツールと連携ができない」という不満も37.2%に上る。
Microsoft Excel形式のファイルは人間にとって閲覧しやすい形式であっても、システム間で自動的にデータを連携させたり、時系列で傾向を分析したりする用途には適していない。また、紙の帳票に至っては、データ化するだけで膨大な転記工数が発生し、人的ミスの温床になりやすい。
こうした制約を背景に、紙・Excel管理者の98.7%が「電子帳票への移行を進めたい」と回答している。具体的な契機としては、「人手不足で、記録業務の負担を減らす必要があったから」が56.2%でトップとなり、慢性的な人手不足がデジタル化を後押ししている状況が分かる。注目すべきは、「AI活用を見据えて、現場のデータを整備する必要があると感じたから」という回答が40.2%に達している点だ。単なる工数削減を超えて、蓄積したデータをAIで解析し、品質向上や歩留まり改善につなげようとする戦略的な意図が見て取れる。
AI活用を成立させる「構造化データ」の要件
AIツールを現場業務に効果的に組み込むためには、学習および推論の前提条件になるデータの品質が極めて重要だ。調査において、現場帳票データをAI活用に役立てるための必要条件として、56.3%が「記録の形式や項目が統一されていること」を挙げている。次いで「記録がリアルタイムで蓄積されること」が51.5%、「いつ、どこで、誰が記録したかが明確であること」が49.5%となった。
これらの条件は、情報システムにおける「データの構造化」と「トレーサビリティーの確保」そのものである。手書きの帳票や、担当者ごとにフォーマットが異なるExcelファイルでは、表記の揺れや欠損値が多発し、AIツールに入力する前段階でのデータクレンジングに多くの工数が掛かる。
自由回答でも「ヒューマンエラーが起こりにくい、データを活用しやすいから」といった声が挙がっており、入力段階でデータの品質を統制する仕組みが現場から求められている。選択式入力の徹底、センサーや計測機器からのデータ自動取得機能などを実装し、人間が自由記述する項目を最小限に抑えることが、質の高いデータセットを構築する鍵になる。
今後の展望:入力インタフェースの変革とデータガバナンス
今後の製造業におけるIT投資は、単なるペーパーレス化から、AIツールが解釈可能な「構造化データ収集インフラの構築」へとフェーズを移行する。
現場の作業負荷を上げずにこれを実現するためには、使い慣れた帳票のレイアウトを維持しつつ、裏側でデータを正規化してデータベースに格納する仕組みが必要だ。まずは特定のラインや工程において、入力項目の標準化と電子化をスモールスタートさせ、成功体験を積み重ねることが推奨される。
蓄積された一次情報は、製造プロセスのボトルネック特定や、設備故障の予兆検知といった分析の源泉となる。企業は、現場の慣習に配慮したインタフェースを提供すると同時に、全社的なデータガバナンスのルールを再整備することが求められている。
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