生成AIで激変するOSINT
個人のSNS投稿が「会社への攻撃」に 情シスが教育に組み込むべき対策
ESETは、生成AIにより個人情報の収集が高速化していると指摘。企業の一般従業員の公開情報まで企業攻撃の材料になり得るとして注意を呼び掛けた。具体的な対策は。
サイバー犯罪者が標的について調べるためのコストが、生成AIによって下がりつつある。かつては専門知識や時間が必要だった「OSINT」(Open Source Intelligence:公開情報を使った情報収集)にAIを使えるようになったからだ。その結果、攻撃者は一般従業員の情報までも大量かつ短時間に集められるようになった。
セキュリティベンダーESETのフィル・マンカスター氏は2026年8月27日、同社の公式ブログ「WeLiveSecurity」で公開した記事で、AIを使ったOSINTが詐欺やソーシャルエンジニアリングにどのような影響を与えるのかを解説した。
SNSの投稿が企業の侵入口に?
OSINTとは、WebサイトやSNSなど、一般に公開されている情報を収集、分析する手法だ。もともとは軍事や情報機関などで使われてきた言葉であり、サイバーセキュリティの分野でも調査や攻撃対象の偵察に利用されている。
従来、攻撃者が特定人物を詳しく調べるには相応の手間がかかった。対象者のSNSアカウントを探し、勤務先や趣味、家族、友人、同僚などに関する情報を複数のWebサイトや投稿から収集する必要がある。それらを照合して人物同士の関係を把握し、攻撃に利用できる情報を選び出す作業も必要だった。
AIは、この工程を大幅に効率化できる。Web上の公開情報を短時間で処理し、特定人物と関連付けたり、人間関係を整理したりできるためだ。文章だけでなく、画像や動画などの非構造化データから情報を見つける用途にも利用できる。
マンカスター氏は、こうした作業をするのは「OSINTの専門家である必要はなくなった」と指摘する。AIによって攻撃者側の参入障壁が下がれば、従来なら調査コストに見合わなかった一般のユーザーや従業員まで、標的になる可能性が高まる。
SNSの断片的な情報を、AIが攻撃材料に変える
AIを使ったOSINTが危険なのは、公開情報を単に収集するだけではない。複数の情報を組み合わせることで、説得力の高いソーシャルエンジニアリング攻撃を作りやすくなる。
例えばフィッシングメールの場合、勤務先や子どもの学校、最近参加したイベント、誕生日、旅行先といった情報を盛り込めば、受信者にとって自然な内容に見えやすくなる。こうした情報がSNSなどで公開されていれば、AIを使って大量の標的から自動的に収集、整理できる可能性がある。
画像や動画、音声も悪用対象になる。公開されている素材を基に、本人の声や顔を模倣したディープフェイクを作成し、家族や知人に金銭を要求するといった詐欺が考えられる。
攻撃者は、本人を装って「事故に遭った」「危険な状況にいる」などと伝え、送金を要求することもできる。本人を誘拐したかのように見せ掛けて身代金を要求する「バーチャル誘拐」や、偽造した性的画像や動画を材料に金銭を要求する性的脅迫にも悪用される恐れがある。
LLM(大規模言語モデル)を、こうした詐欺に必要な断片情報を整理する用途にも利用できる。標的候補を多数分析し、仕事、趣味、家族や友人などに関する情報をまとめるだけでなく、その情報に合わせたメールやメッセージ、会話用の台本を作成することも可能だ。
攻撃者が標的と異なる言語を母語としていたとしても、AIを使えば自然な文章を作成しやすい。つまりAIは、「標的を調べる」「攻撃内容を考える」「自然な文章を作る」といった一連の詐欺プロセスを効率化する手段になり得る。
個人のSNS情報が「会社への攻撃」に使われる
情報システム部門やセキュリティ担当者にとって特に注意が必要なのは、個人生活と仕事の情報を攻撃者が容易に結び付けられる点だ。
ハイブリッドワークの普及によって、私物のデバイスや自宅のネットワークを仕事に使ったり、SNSで勤務先を公開したりする従業員は珍しくない。個人用SNSとLinkedInなどの業務向けプロフィールを関連付けることも、AIを使えば難しくない。
そこで得た情報を基に、攻撃者が従業員向けのフィッシングメールを作り、業務アカウントの認証情報を盗むことが考えられる。
休暇に関する投稿もリスクになり得る。例えば管理職がSNSで旅行中であることを公開していた場合、攻撃者は「本人に確認しにくいタイミング」だと判断できる。管理職を装って部下に送金や機密情報の提供を求めるBEC(ビジネスメール詐欺)を仕掛ける材料になる。
個人情報の公開は、もはや個人だけの問題とは言い切れない。従業員のデジタル上の足跡が、企業への侵入口として利用される可能性があるからだ。
情シスが見直すべき「公開情報」の考え方
では、AIによるOSINTを前提とした場合、企業や従業員はどのような対策を取ればいいのか。
マンカスター氏が挙げる基本的な対策の1つは、SNSアカウントの公開範囲を限定することだ。誰でもプロフィールや投稿、画像、動画を閲覧できる状態を避ければ、AIが自動的に情報を収集する機会を減らせる。
投稿する内容自体の見直しも重要だ。誕生日、子どもの学校、旅行予定などは、本人確認や詐欺のシナリオ作成に利用される可能性がある。写真の場合も、自宅周辺の風景、住所が分かる表示、車両情報などが写り込んでいないか確認する必要がある。
個人情報と勤務先を容易に関連付けられる投稿を避けることも重要だ。
アカウント側では、MFA(多要素認証)を有効にし、サービスごとに異なる強力なパスワードを使う。知らない人物からの友達申請やフォロー申請を安易に承認しないことも基本的な対策になる。
ただし企業側が「SNSに何も書くな」と従業員に求めるだけでは現実的ではない。情シスやセキュリティ部門には、公開情報がどのように攻撃へ転用されるのかを具体的に説明し、標的型攻撃やBEC対策の教育に組み込むことが求められる。
AI時代には、単独では価値が低そうに見える情報でも、他の公開情報と組み合わせることで攻撃材料になり得る。「公開した情報はAIにも読み取られ、別の情報と結び付けられる可能性がある」という前提で、従業員自身と企業の双方が情報公開の仕方を見直す必要がある。
本稿は、セキュリティベンダーのESETが2026年8月27日(米国時間)に公式ブログ「WeLiveSecurity」で公開したAI-driven OSINT in the wrong hands – and why everyone could be a target for fraudを基に作成しました。
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