ダークWebで「犯罪用AI」が急増
元FBI高官が明かすサイバー攻撃×AIの裏側 「兵器化されたLLM」の脅威とは
Halcyonのシンシア・カイザー氏は講演で、ダークWebにおける犯罪用AIの急増を報告した。AI関連投稿は2025年12月の38件から2026年2月には約1500件に増え、企業には多層的な防御が必要だと訴える。
ランサムウェア対策を手掛けるHalcyonのランサムウェア研究センターでシニアバイスプレジデントを務めるシンシア・カイザー氏は同職に就任する前、米連邦捜査局(FBI)に20年間勤務し、サイバー部門の副部長を務めた経歴を持つ。
2026年6月、カイザー氏は、情報セキュリティ、サイバーセキュリティ分野のカンファレンス「Infosecurity Europe」に登壇。進化するランサムウェアの性質について講演した。同氏が描いたダークWeb上の脅威アクターの現状は、極めて厳しいものだった。
元FBI高官が明かすランサムウェアとAI悪用の最新動向
技術の相互接続性が高まったことで、攻撃者が脆弱(ぜいじゃく)性を悪用して現実世界に被害をもたらす機会はかつてないほど増えている。カイザー氏は、サイバー脅威が国家安全保障上の主要な脅威になったと指摘する。
サイバー攻撃はもはや技術コラムの領域にとどまらず、一般紙の一面を飾るニュースとなっている。カイザー氏は、アクションコメディー映画『ザ・インタビュー』の公開に対抗して北朝鮮の脅威アクターがソニーを攻撃したとされる事例や、選挙を妨害し地政学に影響を与えるためにロシアが実行した攻撃事例を挙げた。
同氏の観察によると、2023年以降、中堅・中小企業(SME)へのサイバー攻撃は20%増加しており、大企業と比べて攻撃を受ける可能性が4倍に上る。サイバー攻撃を支える技術も高度化しており、典型的なケースでは、サイバー攻撃はわずか4時間で完了するという。
カイザー氏によると、一部の攻撃グループはカスタマーサービス窓口や独自のブランドを備え、一般的な企業のように活動している。同様にアンダーグラウンドフォーラムも消費者向けプラットフォームに近づいており、侵害されたネットワークへのアクセス権を含む認証情報が販売されている。こうしたフォーラムはダークWeb上の活動全体の60%を占める。ダークWebのフォーラムからインフラを購入できるため、攻撃グループはサービスをゼロから構築する必要がなくなった。
近年のダークWebの活動の大きな変化は、AIの利用だ。カイザー氏によると、以前はダークWebのフォーラムでAIハッキングツールについての言及はほとんどなかった。その後、AIツールが爆発的に増加した。ダークWebフォーラムのAIについての投稿数は、2025年12月の38件から2026年2月には約1500件へと急増した。
カイザー氏は、これらのAIハッキングツールが「兵器化された大規模言語モデル(LLM)」だと説明する。安全上の制限を取り除いたAIツールであり、攻撃者が悪意ある目的で利用できるようになっている。兵器化されたLLMは通常、犯罪者を支援する攻撃用AIシステムとして登場する。
兵器化されたLLMの代表格が、2023年に初めて登場した「WormGPT」だ。開発者が特定された数週間後、同ツールのオリジナル版は閉鎖された。しかしその名称はブランド化し、複数のサプライヤーが異なるバージョンのWormGPTコードを運用している。WormGPTの公式チャンネルを名乗るTelegramのチャンネルは、1万5000人以上のメンバーを抱えており、最新バージョン「Kriminal.AI」を無償提供すると発表した。
カイザー氏は、成り済まし詐欺が兵器化されたAIツールの主要な用途の1つだと指摘した。AIによる音声クローンを使うことで、ソーシャルエンジニアリングを実行しやすくなったためだ。こうしたディープフェイクの成功率は90%を超え、わずか3秒の音声データから生成できる。AIによる成り済まし詐欺には、文書偽造やディープフェイク動画も含まれる。一般的なディープフェイク動画の価格は約800ドル(約600ポンド)であり、サプライヤーは季節ごとのプロモーション割引も提供している。
AIは、インフラを攻撃するマルウェアの機能強化にも悪用されている。AIツールは、周囲の話し声やキーボードのタイピング音を交えたコールセンターからの電話を模倣できるようになった。こうしたAI模倣コールセンターは15万件以上の顧客通話を学習しており、25以上の言語に対応する。料金は1000件の通話につき最大7ドル(約5ポンド強)で、最大120件の同時通話をサポートできると主張している。
カイザー氏は、脱獄(ジェイルブレイク)されたAIサービスや盗まれたAIサービスもオンラインで購入可能だと説明する。複数のハッカーフォーラムでは関連スレッドが活発に更新され、AIサービスに関する情報や入手先を蓄積する場になっている。
ダークWebフォーラムで提供される幅広いサービスと競争力のある価格設定により、サイバー犯罪に参入する上での金銭的なハードルは少なくなっている。カイザー氏は、WormGPTが基本機能を無料とし、高度な機能を有料とする「フリーミアム」のビジネスモデルを採用している点を強調した。
大規模なダークWebサプライヤーは、販売拠点やサービスの配信を自動化している。プラットフォームの高度化も進んでおり、サービス停止に対処するための冗長化措置も講じられている。
カイザー氏によると、ダークWebの運用者には2段階の行動パターンがある。新しいダークWeb技術を開発・テストし、検証が済んだツールをTelegramチャンネルで共有して広く配布する。フォーラムがサービスを育て、各チャンネルが相互に支援し合う仕組みになっている。
ダークWeb運用者にとって最大の脆弱性は、法執行機関ではなく、競合する犯罪者同士の存在だ。AIツールが同業の競合を標的にし始めている。そのため、サイバー犯罪に対価を支払う者自身の詳細情報がオンライン上で共有されるリスクがある。犯罪用AI市場は、本質的に内部脅威の問題を抱えている。
効果的な防御は依然として可能
攻撃グループによる重大なリスクがあるものの、これらのツールに対抗する防御は依然として可能だとカイザー氏は強調する。ただし、技術を悪用しようとする脅威から身を守るためには迅速に適応する必要がある。
同氏は、効果的な対策手法を共有した。初期アクセスの阻止は、サイバー攻撃に対する中核的な防御策であり続ける。攻撃者の侵入を防げば、データは安全に保たれる。カイザー氏は、フィッシング耐性のある多要素認証(MFA)の導入やパッチ適用の迅速化を推奨した。加えて、役員や従業員、取引先に成り済ましたAI生成音声による電話への対策を従業員に教育することを勧めている。
組織が直面するサイバー脅威の多様性を踏まえると、サイバー攻撃を受けるかどうかではなく「いつ受けるか」の問題となる。その点を考慮し、カイザー氏は、ネットワーク内で攻撃者が横方向に移動する「ラテラルムーブメント」を検知することが重要だと指摘した。エンドポイントやネットワークのテレメトリーを収集し、ネットワーク監視ツールを使って正常なユーザー行動のベースラインを設定することで、潜在的な脅威を検知しやすくなる。最小権限の原則を適用し、特に組織内で役割が変更された際に、ユーザーが業務上必要な領域にのみアクセスできるよう権限を制限することも有効だ。
カイザー氏によると、データの持ち出しや暗号化を阻止することも重要だ。異常なユーザー行動や不正な暗号化の試みを検知し、機密情報の送信トラフィックを監視することで対処できる。不変バックアップ(イミュータブルバックアップ)を確保しておけば、最悪の事態が発生してデータが侵害された場合でも、安全な状態からシステムを復旧できる。これらの技術はネットワークにレジリエンスをもたらし、悪意ある脅威アクターの活動を妨害してデータ侵害を防ぐ。
カイザー氏は、机上演習を活用してさまざまな最悪のシナリオを想定し、インシデント対応方針を整備する有効性も強調した。演習を実施することで、インシデント発生時に従業員が何をすべきか、どこを確認すべきかを把握できるようになる。サイバーセキュリティには、ネットワーク全体に多層的かつ重複したセキュリティ制御を配置する多層防御のアプローチが求められる。1つの仕組みが突破された場合でも、攻撃者を遅らせて脅威を封じ込め、価値あるデータを保護するための冗長な対策が機能する。
AIによる音声クローニングの進展を踏まえ、カイザー氏はセキュリティチームに対し、電話を主要な攻撃経路の1つとして捉え直すよう推奨する。AIによって音声通話のスカラビリティが向上し、コールセンターを使わずに数百人へ電話を自動発信できるようになった。
悪意あるアクターがAIツールを採用する一方で、サイバーセキュリティチームも脅威の検知や特定を自動化することで対抗できる。侵入者をより迅速に検知し、効果的に対処できるようになるからだ。
カイザー氏は、サイバー犯罪の増加に対抗するため、社会全体で連携を強化する必要があると述べた。この点は技術的な問題ではなく、政策とパートナーシップの課題だ。セキュリティチームが効果的な防御を準備できるよう、政府は新たなサイバー脅威についての組織とセキュリティ機関の間の情報共有を促進する必要がある。
ダークWebフォーラムのAIツールの普及は、ハッキングをより容易で身近なものにした。サイバー攻撃はもはや大規模な犯罪組織や国家主導のハッキンググループだけの専売特許ではなく、一定の予算さえあれば誰でも実行できるようになっている。
ダークWebの動向分析からは、サイバー犯罪者自身も、自らが利用する技術によって脅かされている実態が見えてくる。法執行機関による摘発や資金の流れの遮断は一定の効果を上げるが、ダークWebのプラットフォームが持つ固有の冗長性により、一定の耐性を備えている。新たな脅威に対抗するためには、セキュリティ機関と企業組織のさらなる連携が求められている。
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