日本のIT人材が抱える“静かな葛藤”
「世界一給与にハングリー」な日本のエンジニアが“雇用の安定”を求める理由
ランスタッドの調査から、日本のITエンジニアが抱える「報酬へのこだわり」と「特有の防衛本能」が見えてきた。彼らの本音と、それに応えられない企業が直面する危機とは。
企業の事業戦略においてITシステムの重要性が高まる一方で、開発現場や運用体制を支える専門人材の不足は依然として解消されていない。特に、従来の日本型雇用制度に基づく一律の評価や配属では、専門性の高いIT人材のモチベーションを維持し切れず、離職を招きやすいという業務上の制約が存在している。
こうした課題の背景にある人材の志向について、総合人材サービスを手掛けるランスタッドは調査レポート「ランスタッド エンプロイヤーブランドリサーチ 2026(IT)」を発表した。それによると、日本のIT人材はグローバル水準と比較して報酬をより重視する傾向があることが分かった。同時に、自らの専門性を磨くための最先端の技術環境を強く求める一方で、雇用の安定も重視するという特徴的な傾向が確認されている。
高い成長意欲と安定への欲求という複雑な条件を抱えるIT人材を定着させるため、企業はどのようなシステムや人事評価の仕組みを構築すべきなのか。
グローバルを上回る報酬重視と「雇用の安定」への欲求
本レポートは、雇用主としての企業ブランドや労働者が求める価値を分析したレポートだ。調査は2026年1月に、日本国内の18歳から65歳までの学生、就業者、非就業者4464人(うちIT人材61人)を対象として、オンラインアンケート形式で実施された。
調査結果から浮き彫りになったのは、日本のIT人材が持つ「報酬」への強いこだわりだ。勤務先を選ぶ際の条件として給与を重視する割合は、日本のIT人材で63.9%に上った。これはグローバルのIT人材が示す54.1%や、日本の全職種平均である59.2%を明確に上回る数値だ。IT分野における専門スキルは個人の資産に直結するため、報酬は単なる生活費としてだけではなく、自身の客観的な市場価値を測る指標として機能している。そのため、グローバル水準の報酬体系を提示できない企業は、人材獲得競争において選択肢から外れるリスクが高まる。
日本のIT人材は従来の日本的な「職場の雰囲気」を重視しない傾向もある。日本平均では職場の雰囲気を重視する割合が49.4%(2位)であるのに対し、IT人材においては45.9%(5位)にとどまった。快適な人間関係よりも、自身の専門性という武器を磨き、市場価値を高められる企業を優先して選択していることが読み取れる。
興味深いのは、グローバルとの優先順位の違いだ。グローバルのIT人材は重視する項目の2位に「キャリア成長」(51.3%)を挙げているが、日本のIT人材の2位は「雇用の安定」(49.2%)だった。専門性を追求して最先端の成長を志向しつつも、足元の安定を求めざるを得ないこの状況は、スキルベースの評価や報酬制度が日本企業において未成熟であることに起因する、プロフェッショナル人材の防衛本能を示していると言える。
業務を遂行する上でのシステム構成やインフラも、人材定着を左右する重要な判断軸になっている。「最新技術の導入・活用」に対する関心度は、日本平均が10.8%であるのに対し、日本のIT人材は29.5%と約2.7倍の高い数値を示した。IT分野において技術の陳腐化は、エンジニア自身の市場価値の低下に直結する。そのため、先端技術に触れられる開発環境が整備されていることは、自身のキャリアを維持・向上させるための絶対的な条件として認識されている。「優れた企業の評価」を気にする割合も、日本平均の22.9%に対してIT人材は31.1%と高く、社会的に先進的なプロジェクトに関われるかどうかを働く場として選別している事実が裏付けられている。
「市場連動型報酬」と「次世代EVP」による人材定着戦略
こうした構造的課題に対し、企業は従来のアプローチをどう変革すべきか。ランスタッドのリチャードソン・アレクサンダー氏(デジタルタレントソリューション事業本部プロフェッショナル事業部 アソシエイトディレクター)は、従来の雇用慣行を超えた次世代の従業員価値提案(EVP)を構築する必要性を指摘する。
具体的には、曖昧な人事評価制度を改め、個人のスキルと市場価値を直結させる「市場連動型」の報酬体系に転換することが求められる。開発環境の整備を人材定着のための重要な施策として再定義し、最新技術に投資し続けることが必要だ。IT人材が自らの市場価値を磨くことができると確信できるインフラは、高い報酬と同等かそれ以上に人材を引きつける要因となる。
ランスタッドは、優秀なIT人材を確保、定着させるための戦略として、以下の5点を提言する。
- 給与やインセンティブ制度を労働市場の実態に適合させること
- 明確な成長ステップや昇進機会を提示し、キャリアパスを可視化すること
- 自由な働き方や適切な業務量管理など、ワークライフバランスを実運用として確立させること
- 選考プロセスの効率性と、候補者との丁寧な対面対話を両立させること
- 全社一律の制度ではなく、多様な世代やキャリアに応じて個別に価値を提案すること
企業への依存を前提とした従来の終身雇用モデルから、個人のスキルを軸とした評価体制への移行が急務となっている。「いつでも他社へ移れる実力を持ちながら、あえて現在所属している企業を選ぶ」という自律的な納得感を従業員に提供できるかどうかが、今後のIT人材戦略における焦点になる。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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