「いつものシステム」で使えないAIツール
「コピペ運用の限界」に直面するAI活用 7割超が“別画面”のまま使う理由は?
企業がAI活用を推し進める一方、既存の業務システムと連携できず、手作業でコピー&ペーストをする「別画面運用」にとどまる大企業が7割を超えている。業務プロセスとAIをシームレスにつなぐ手法とは。
AIツールの業務利用が定着する中、実際の業務プロセスへの統合には大きな壁が存在する。現場の担当者は汎用(はんよう)的なチャットインタフェースを通じてAIツールを利用しているものの、本来の業務システムとは分断されているケースが少なくない。このようなシステム構成では、データの転記に手作業が介在し、業務効率の向上に限界が生じてしまう。
操作ナビゲーションシステムを手掛けるテックタッチは2026年8月27日、従業員1000人以上の企業においてAIツールの活用・推進に携わる責任者および担当者319人を対象に実施した「生成AIの業務定着の実態と課題に関する調査」の結果を発表した。
調査によると、AIツールが最も定着している業務であっても、多くのエンドユーザーが既存の業務システムとは異なる画面を開き、手作業によるコピー&ペーストでAIツールを運用している実態が浮き彫りになった。利用が広がる一方で、システムへの直接的な組み込みには至っていない現状がある。
現場がAIツールを前向きに利用している一方で、なぜシステム間の連携が進まないのか。定着を阻む構造的な要因と、それを打開するための技術的アプローチを解説する。
UIの断絶が引き起こす「属人化」と「習熟度の差」
調査結果の詳細な数値を見ると、企業におけるAI活用の実態と限界が明確になる。最も定着している業務におけるAIツールの利用形態を見ると、自社専用に構築されたセキュアな社内版チャットなどの「社内ツールや専用AI環境」を利用している層が41.1%、「外部AIツールを別で開き、手作業でコピペして使っている」層が30.4%を占めた。合計71.5%のエンドユーザーが、既存の業務インフラとは切り離されたツールとしてAIツールを利用していることになる。一方、「いつもの業務システムの画面内で、そのまま使っている」と回答した割合は20.6%にとどまった。
企業全体の利用状況として「現場が前向きに使えている」との回答が61.4%に上り、「AIツールだけでは処理し切れない場面で、人がスムーズに引き継げている」も50.2%となるなど、エンドユーザーのAIツールに対する期待値や現場での受け入れ態勢は決して低くない。しかし、システム連携が未成熟な「別画面運用」においては、必然的にエンドユーザー自身によるデータの転記や、適切なプロンプトの作成能力が求められる。
これがボトルネックになり、活用の課題として「使い方の理解や習熟度に差がある」が48.3%と最多の要因に挙げられた。個人のITリテラシーやプロンプトエンジニアリングのスキルに依存するアーキテクチャのままでは、組織全体での均質な生産性向上は望めないという構造的制約が明らかになっている。
推進体制の偏りとデータガバナンスの壁
技術的な統合が進まない背景には、システムアーキテクチャの課題だけでなく、組織構造やセキュリティへの懸念も絡んでいる。AI活用を主導している部門を見ると、「DX・AI推進の専門部署」が43.9%、「情報システム部門」が24.5%を占める一方で、「各業務部門・現場」主導は17.2%にとどまった。
専門組織によるセキュアなインフラ構築やツール導入が先行するのは自然な流れではあるものの、現場の具体的な業務フローやシステム要件が初期段階から十分に組み込まれていない場合、汎用的なチャットツールの提供に終始しがちだ。
既存システムと直接連携させる上では、「情報漏えいや機密情報の取り扱い(セキュリティ)に不安がある」(33.5%)という声が示すように、データガバナンスの確保が大きなハードルとなっている。社内システムと外部のLLM(大規模言語モデル)をAPIで連携させる際、個人情報や機密データが学習に利用されない設定を担保しつつ、どの範囲のデータをプロンプトに含めてよいかをアクセス権限に応じて動的に制御する仕組みの構築が、技術部門に求められる課題である。
システム統合に向けた技術的アプローチ
こうした属人化やシステム分断の課題を解消するため、企業側も新たなアプローチを模索している。今後の定着を高めるうえで重視したい取り組みとして、「いつもの業務システムの中でAIツールを使えるようにする」が48.0%でトップとなった。続いて「AIツールを前提に、業務のやり方そのものを見直す」が46.7%、「AIツールが自動で処理し、人は最終確認を中心にする」が45.1%となっている。
エンジニアやIT担当者にとって、この結果は明確な指針となる。AIツールを「独立したツール」としてユーザーに使わせる段階は終わり、CRM(顧客関係管理)、ERP(統合基幹業務システム)、社内ワークフローなどの業務システムのUI(ユーザーインタフェース)にAI機能を直接組み込むフェーズに移行しつつあるということだ。
具体的な技術アプローチとしては、システムの入力フォームの横にAI機能による自動処理ボタンを配置し、エンドユーザーが手動で実施していたデータ抽出や要約をシステム内で完結させることが挙げられる。あるいは、バックエンドでRAG(検索拡張生成)技術を組み合わせ、エンドユーザーがプロンプトを意識することなく、システムのコンテキストを含めた精度の高い回答やデータ処理を行わせるようなアーキテクチャ設計が必要になる。
システムのソースコードに手を加えることなく統合を実現する手法として、ユーザーの操作をナビゲートするDAP(デジタルアダプションプラットフォーム)などを介し、既存システムの画面上にAIエージェントをオーバーレイする仕組みも有効な選択肢として浮上している。
自動化の効果の二極化と今後の展望
業務システムへの組み込みを推進することは、AI活用の投資対効果を明確にすることにも直結する。調査時点で、AIツールの効果測定について「測定できている」は18.8%、「ある程度は測定できている」が48.6%を占める一方、「あまり測定できていない」が24.1%、「まったく測定できていない」が4.7%となり、約3割の企業が効果の可視化に苦慮している。
しかし、業務で定着したAIツールの導入前後での作業時間の変化を見ると、「2〜3割程度減った」が30.7%、「1割程度減った」が25.6%と、着実な工数削減が報告されている。一方で、「増えた」(17.4%)、「ほとんど変わらない」(16.5%)との回答も一定割合存在し、使い方やシステム設計次第で成果が大きく分かれることが示唆されている。
大企業におけるAIツールの本格展開は、PoC(概念実証)や汎用ツールの導入を終え、いかに業務のフロントエンドにAIをシームレスに溶け込ませるかという実装のフェーズに入った。エンドユーザーがAIツールを特別な存在として意識せず、自然な業務フローの中でその恩恵を受けられるインフラをどう構築するか。IT部門には、業務プロセスの再設計とセキュアなシステム間連携を前提とした、より高度なアーキテクチャの立案と実行が求められている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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