失敗から31秒で攻撃を再開
必要なのは「24時間監視」ではなく「24時間即応」 AIランサムに勝つための対策は
Sysdigは2026年7月、AIエージェントを使って侵入から暗号化、ランサムノート作成までを自律的に進める脅威アクター「JADEPUFFER」の攻撃を報告した。企業がこれから強化すべき領域は。
AIエージェントが一連のランサムウェア攻撃を自律的に実行する事例が確認された。これは企業のサイバー防御を根本から見直す必要があることを意味するのか。それとも、改めて浮かび上がったのは従来からあるセキュリティ対策の重要性なのか。
Sysdigの脅威リサーチチーム「Sysdig Threat Research Team」は2026年7月、「JADEPUFFER」と呼ばれる脅威アクターに関する情報を公開した。JADEPUFFERは、AIエージェントやRAG(検索拡張生成)アプリケーション向けのローコードAIビルダ「Langflow」の脆弱(ぜいじゃく)性を悪用して、侵入、認証情報の収集、横展開、暗号化、ランサムノート作成までを一気通貫で実行した。Sysdigによると、攻撃は状況に応じて手順を変更しながら、自動で進行したという。
必要なのは「24時間即応」
Sysdigで脅威調査ディレクターを務めるマイケル・クラーク氏は2026年7月1日、同社の公式ブログで「攻撃に使われた個々の手法そのものは新しくも高度でもなかった」と述べている。特徴的だったのは、AIモデルがそれらの手法を組み合わせ、インターネットに公開されたまま十分に管理されていないシステムに対して、一連のランサムウェア攻撃を完結させたことだ。
今回の攻撃で注目すべきなのは、高度な未知の攻撃技術が使われたことではない。
Sysdigによると、JADEPUFFERは途中で攻撃が失敗しても別の方法を試すことができたという。例えばログインに失敗した場面では、31秒後には問題を解消して次の手順に進んだという。この挙動が示唆するのは、人間の攻撃者が一つ一つ状況を確認して対応する場合と比べ、攻撃サイクルを短縮できる可能性があるということだ。
一方、AIによる攻撃ならではの不完全さも見られた。身代金要求文に記載されたビットコインの支払い先アドレスは、開発者向け文書で例として使われるアドレスだった。さらに、暗号化したデータを元に戻すために必要なAES(共通鍵暗号方式)の鍵が保存されておらず、被害者が身代金を支払ったとしてもファイルを復旧できない状態だったという。
AIで変わるのは「攻撃方法」よりも速度と規模
では、AIエージェントによる攻撃に対して、企業はこれまでとは全く異なる防御策を準備する必要があるのか。
Sophosでディレクター兼グローバルフィールドCTOを務めるチェスター・ウィズニウスキー氏は、AIによって攻撃者の行動が根本的に変化するわけではないと指摘する。一方で大きく変わるのが「速度」と「規模」だという。
Sysdigによると、JADEPUFFERはある方法を試して失敗すると別の方法をすぐに試した。失敗と再試行を繰り返すため、攻撃は検知につながる“ノイズ”を生じさせる。一方で、攻撃の進行速度も速い。人間が異常な挙動を検知できたとしても、防御側が迅速に対処できなければ被害拡大を防ぐことは困難だ。
それでも、「防御の基本原則が大きく変わるわけではない」とウィズニウスキー氏は強調する。外部に公開されているシステムを把握し、脆弱性を迅速に修正すること、認証情報を保護すること、攻撃が重要システムに到達する前に検知して対応できる体制を整えることが引き続き重要になる。
AIが「古い脆弱性」を大量に攻撃する可能性
サイバー攻撃に詳しいBambenek Consultingのジョン・バンベネック氏も、JADEPUFFERの事例で重要なのはAIを使ったこと自体ではなく、新しい技術を使って既知の脆弱性を悪用していることだとみる。
JADEPUFFERが悪用した脆弱性は既知のものであり、攻撃手法を作成するために十分な情報も公開されていた可能性がある。AIは攻撃を高速化できるものの、実際に悪用されているのは、未修正の脆弱性など企業のIT環境に以前から残っている弱点だ。
Sysdigは、AIエージェント関連技術が成熟するに連れて、こうした攻撃は増えると予想している。狙われやすいのは、インターネットに公開されたアプリケーション、不適切な設定のシステム、管理者権限へのアクセスポイントなど、従来から攻撃者が狙ってきた場所だ。
問題は、AIエージェントによって既知の脆弱性を大量に試すコストが下がる可能性があることだ。過去に発見された脆弱性を広範囲のシステムに機械的に試せるようになれば、長期間パッチが適用されていないシステムはこれまで以上に狙われやすくなる。
情シスに必要なのは「24時間監視」だけではない
企業はこれまでも、未修正の脆弱性やインターネットに公開されたサービスを狙う攻撃に対応してきた。ただしAIが攻撃手順を自動化すれば、防御側が対応できる時間はさらに短くなる。
そのため情報システム部門(情シス)やセキュリティ部門に求められるのは、単に24時間システムを監視することだけではない。異常を検知した後、遮断や認証情報の無効化、脆弱なシステムの隔離といった対応を、時間帯を問わず迅速に実行できる体制が重要になる。
ウィズニウスキー氏は、「24時間の監視は不可欠だが、それだけでは不十分だ」と指摘する。必要なのは「24時間、素早く対応できる能力」だという。
AIエージェントによってランサムウェア攻撃が高度化するというよりも、従来からある攻撃手法がAIによって高速かつ大規模に自動化される。今回の事例が示しているのは、その可能性だ。企業にとってAI時代のランサムウェア対策とは、新しい対AI防御製品を導入することだけではない。インターネット公開資産の把握、パッチ適用、認証情報の管理、検知後の即応体制といった基本策を、これまで以上の速度で実行できるようにすることが重要になる。
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