F5調査で明らかになる導入格差
製造業と金融業で「AI導入」が進まない理由 それぞれが抱える“恐怖”とは
国内の製造業と金融業におけるAIツールの導入推進は、業界ごとに異なるリスク懸念によって足止めされている。F5の調査で示された、積極的な活用を進める企業と停滞する企業の違いとは。
企業におけるAIツールの活用は、業務の生産性向上や新規サービスの創出において重要な役割を果たすことが期待される一方で、知的財産や顧客データといった機密情報の漏えいリスクと常に隣り合わせにある。とりわけ製造業や金融業のような、厳格な規制要件と高度な機密性が求められる業界においては、適切なガバナンスとセキュリティインフラの確立が急務となっている。
こうした構造的課題の中、F5ネットワークスジャパンは、日本の製造業と金融業界を対象としたAIツールの導入状況とセキュリティ対策に関する調査レポートを発表した。本調査は2026年4月、製造業の63人、金融業の50人のテクノロジーおよびセキュリティ部門の上級幹部を対象に実施されたものだ。
調査結果によれば、国主導のAIガバナンス改革は両業界におけるAIツールの導入を加速させる要因として機能している。その一方で、調査対象企業の半数近くで従業員による未承認のAIツール利用(シャドーAI)が報告されているにもかかわらず、データ漏えい防止(DLP)やアクセス制御といった技術的対策を講じている企業は、製造業で6%、金融業で10%にとどまっていることが明らかになった。AIツールの安全な全社展開を阻む真のボトルネックはどこにあるのか。
リーダーシップの意識が導入速度を決定づける
本調査における最大の焦点は、AI導入のペースを決定づける要因が、もはや外部の規制ではなく「経営層のマインドセット」に移行しているという点だ。2025年に国内で実施されたAIガバナンス改革によって、製造業の回答者の48%、金融業の50%が「過去12カ月間で導入ペースが加速した」と回答した。ガバナンス強化が導入の足かせになったとする意見は、ほとんど見られなかった。
しかし、経営陣のAIツールに対するスタンスには業界内での分断が見られる。製造業では「慎重に進める」とする層が43%、「ガードレール(安全策)を設けて安全に活用する」とする層が41%と拮抗(きっこう)している。一方、金融業界では慎重派が58%を占めるのに対し、積極的活用を推進する層は34%にとどまった。この意識の差は実際の導入率に直結しており、推進派の企業は慎重派の企業と比較して、正式なAI導入率において製造業で1.3倍、金融業では4.3倍という圧倒的な差を生み出している。経営陣の姿勢の違いが、そのままAIツールの導入・展開規模の大きな格差になって現れている実態がデータから浮き彫りになった。
本格展開を阻むセキュリティ設計のギャップ
実際のAI活用フェーズにおいては、多くの企業が実証実験の域を出ていない。AIツールを全社規模で本格展開している企業は、製造業でわずか3%、金融業で10%にとどまり、多くの企業が複数のパイロットプロジェクトの実施や非公式な運用にとどまっているのが実態だ。期待される成果として、製造業の83%、金融業の68%が「生産性と効率性の向上」を挙げ、主にコンテンツ作成やRAG(検索拡張生成)を用いた社内ナレッジ検索に適用されている。
しかし、現場への浸透が進む一方でシャドーAIのリスクが急速に拡大している。従業員が未承認の一般向けAIツールを使用している状況を認知している企業は、製造業で43%、金融業で50%に上り、特にAIツールを正式に導入した企業ほどその割合が高まる傾向にある。
これに対する各企業のアプローチには、設計思想上の大きな偏りが存在する。未承認ツールの利用抑制に対し、多くの企業は利用ポリシーの周知や従業員トレーニングといったソフト面の対策を中心としている。従来のシステム構築においては、運用ルールとシステム制御によるフェイルセーフ機構を採用することが定石だったが、AIツールに対するDLPやプロンプトの監査ログ記録、入力コンテンツのフィルタリングといった技術的な管理策を実装している企業は1割に満たない。
安全な社内用AIツールを提供せずに一律で利用を禁止しても実効性は薄く、逆に技術的な安全対策のないままAIツールだけを配布すれば、無用な安心感を生むことになりかねない。
業界ごとに異なるリスク要因と解決へのアプローチ
AIツールを展開する上で保護すべき対象とリスクの性質は、両業界で明確に異なっている。
製造業界において最大のボトルネックとなっているのは、知的財産(IP)の流出リスクだ。回答者の37%が、製品設計データやCAD(コンピュータ支援設計)ファイル、詳細な技術仕様がAIモデルの学習データとして取り込まれることを危惧している。しかし、AI導入が最も先行すると見込まれるのは工場運営(27%)やエンジニアリング/R&D領域(21%)であり、企業の競争力の源泉をAIツールが直接読み取れる構造になっている。
これに対して金融業界では、顧客応対でAI技術を活用することに競争優位の機会が存在する。顧客応対業務にAIを本格展開している企業は現状10%に過ぎず、46%は未検討の状態にある。この停滞の最大の要因は、顧客の財務情報や個人情報の機密性確保にある(56%)。
これらを解決するには、業務要件の定義段階からデータアーキテクチャの再設計が求められる。公開データソースと社内の非公開データをどのように切り分けるかというデータ境界の定義や、個人情報のマスキング、アクセス制御システムなどのセキュリティインフラを先行して構築できた企業が、結果的にコンプライアンス要件を満たしたAIサービスを市場に迅速に投入できるという先駆者優位を得ることになる。
CIOとCISOが取り組むべき次の一手
現状では、AIツール固有のセキュリティ対策予算を確保できている企業は少なく、約42%の企業が場当たり的な投資にとどまっている。調査の結果を受けて、レポートが提示する企業のCIO(最高情報責任者)およびCISO(最高情報セキュリティ責任者)に向けた5つの行動指針は以下の通りだ。
- AIツール導入の必要性、投資対効果(ROI)の再定義
- 「導入のリスク」だけではなく、「導入しないことで生じる競争力の低下」を経営陣に提示し、投資の正当性を証明する。
- データの境界線の策定
- 基幹業務にAIツールを展開する前提として、外部のAIツールに投入可能なデータと不可能なデータの範囲を明確化する。
- 技術的制御を伴うツールの提供
- 承認済みのAIツールを整備するとともに、DLPやログ監査、利用権限制御などの技術的対策を組み込み、システムで強制力を持たせる。
- AIツールに特化したセキュリティの追加
- 既存のWAF(Webアプリケーションファイアウォール)やAPI保護機能を置き換えるのではなく、その上位にAIツール向けのポリシー管理やプロンプト監視機能を構築する。
- 専用のセキュリティ予算の確保
- 試験運用から本番運用に移行する前に、定量化したROIとユースケースに基づき、場当たり的ではないAI専用のセキュリティ予算枠を確保する。
AIガバナンスの第一フェーズはすでに完了したと言える。次の段階へのスケールアップを実現するためには、堅牢(けんろう)なセキュリティインフラの構築と、それに裏打ちされたリーダーシップの決断が強く求められている。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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