散在する知的資産をどうAIに読み込ませるか
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
AIツールを一括導入しても、組織内のデータが各所に分散した状態では文脈を参照できない。約1.1万人に「Notion」と「Notion AI」を展開した慶應義塾の事例から、情報集約システムの選定と運用の勘所を解き明かす。
企業の生産性向上の切り札として、AIツールを全社導入する動きが加速している。しかし単純にAIツールのアカウントを配布するだけでは、期待したような業務効率化は実現しない。「自社の業務に沿った回答が出ない」「一部のリテラシーが高い従業員しか使いこなせない」といった課題に直面するからだ。
非常勤を含む全教職員約1万1000人を抱える慶應義塾も、AI活用に向けたシステム構成の課題を抱えていた。同校には大学運営に関する規定や文書、研究記録といった膨大な知的資産が蓄積されている一方で、それらが個人の手元や部署ごとのシステムに分散していたからだ。AIツールが組織独自のコンテキスト(文脈)を参照できない状態のままでは、人とAIの協働は成り立たない。
AIツールの価値を最大化するためには、AIツールが組織内のルールや過去の経緯といったコンテキストを正しく読み取れるシステム構成が不可欠だ。どれほど優秀なAIツールでも、参照元となるデータがサイロ化されたままでは、実務に即したアウトプットは生成できない。
そこで慶應義塾は、単にAIツールを教職員に配布するのではなく、168年にわたって蓄積した資産や日々の業務情報を集約し、AIツールが参照できる「信頼できるコンテキスト」を組織として整備する道を選んだ。どのような手法を採用したのか。
「AIを配るだけ」の運用に潜むリスクと、見落としがちな情報のサイロ化
慶應義塾は、Notion Labs Japanのワークスペースツール「Notion」およびAIアシスタント「Notion AI」を、非常勤を含む全教職員約1万1000人に展開する取り組みを共同で始動した。2026年9月28日、Notion Labs Japanが発表した。同校が掲げる「AIキャンパス構想」の共通基盤として位置付け、非常勤を含む全教職員約1万1000人を対象に展開した。
慶應義塾は2026年2月にNotion Labs Japanと包括的連携覚書を締結し、3年以内に「世界最高峰のAIキャンパス」を形作る目標を掲げている。大学運営においては規定や文書、研究記録といった膨大な知的資産が蓄積されているものの、個人の手元や部署ごとのシステムに分散しており、AIツールが参照できる組織文脈の整備が課題となっていた。AIツールを個人用のツールとして配布するだけではなく、168年にわたって蓄積した資産や業務情報を集約し、人とAIが協働できる環境を構築するため共通基盤としての採用を決めた。
今回の取り組みでは、単なるツールの提供にとどまらず、慶應義塾の担当者とNotion Labs Japanの導入支援チームが合同チームを編成。システムの設計から研修プログラムの共同開発、部門展開の支援までを一体となって推進している。2026年5月27日に全教職員に対してNotionを展開し、全キャンパスを対象にオンラインと対面で開催した習熟度別研修には、延べ1000人以上が参加した。
2026年8月時点の直近90日間では、利用者の約8割がNotion AIを利用し、AI機能の実行回数は25万回を超えた。実務適用段階の研修では、参加者の9割以上が自らの業務に合わせた仕組みを作成し、8割以上が実際の業務での活用イメージを持てたと回答した。
2026年度下期(2026年10月~2027年3月)には部門やプロジェクト単位で共同利用できるチームスペースを順次提供する。2026年中をめどに教職員ポータルをNotionに移行し、学内のニュースや手続きを集約する計画だ。今後は学生向けの学習・創造の場におけるAI活用も段階的に検討する他、共同構築で得られた知見やテンプレートを国内外の教育機関に発信する。
慶應義塾塾長の伊藤公平氏は次のように述べる。「AIを単なる効率化の手段としてではなく、教職員や学生、研究者が知識を共有し新たな価値を生み出すための知的基盤として位置付けている。Notion Labs Japanとの協働を通じ、必要な情報により速く自然にたどり着き、組織の知見を次の活動につなげられる環境を構築する」
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「慶應義塾、Notionを全教職員約1.1万人に展開 「AIキャンパス構想」の共通基盤に」(2026年9月29日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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