立ちはだかる技術的制約
SAPの手探り“クラウド間移行” 丸紅グループが業務停止を1営業日に抑えた方法
将来のAI活用を見据え、「RISE with SAP」のインフラを別のクラウドサービスに移行することを決めた丸紅情報システムズ。稼働中の「SAP S/4HANA Cloud」の停止期間を最低限にとどめ、難題を乗り越えた手法とは。
企業の基幹業務を支えるSAP製ERP(統合基幹業務システム)。近年は「RISE with SAP」などの移行・運用支援サービスを活用したクラウドインフラでの稼働が一般的になりつつある。その中で、将来的なAI機能の活用や高度なデータ分析システムとの連携を見据え、稼働中のクラウドインフラを自社の戦略に合うものに見直すことが選択肢になっている。
しかし、稼働中の「SAP S/4HANA Cloud, private edition」(以下、SAP S/4HANA Cloud)を異なるクラウドサービスに移行する作業はハードルが高い。異なるクラウドサービス間でデータを直接転送できないといった技術的制約が存在する上、インフラやミドルウェア「SAP BASIS」での作業をSAPにサービス依頼(SR)として起票するタイミングや手順の管理が複雑になるからだ。
こうした異種クラウド間移行の公開事例が乏しい状況下で、丸紅傘下のIT事業を担う丸紅I-DIGIOグループは、SAP S/4HANA Cloudを従来の「Amazon Web Services」(AWS)から「Google Cloud」に移行する決断を下した。さまざまな制約や技術的課題をどう乗り越えたのか。
「異種クラウド移行」を阻む制約と打開策
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クラウド移行を成功させるには
移行の対象は、SAPが提供するSAP S/4HANA Cloudを中核とするサブスクリプション型サービスRISE with SAPで稼働する基幹システムだ。業務システムそのものは変更せず、稼働インフラだけをAWSからGoogle Cloudに移した。移行後のシステムは、2026年9月時点ですでに安定稼働している。
丸紅I-DIGIOグループは、AI・データ活用の分野でパートナー各社との協業を通じた高度化を方針に掲げる。その一環として、基幹システムの稼働インフラをGoogle Cloudへ移し、将来のデータ分析システムや生成AIサービスとの連携を、より自由度高く、かつ効率的に進めるためのシステム構成を整えた。
ただ、稼働中のSAP S/4HANA Cloudを異なるクラウドサービスに移す公開事例は限られる。RISE with SAPでは、インフラやSAP BASISでの作業をSAPにSRとして起票する必要があり、依頼する時期や内容、手順を適切に管理しなければならない。クラウドサービス間でデータを直接転送できない制約もある。移行に必要な準備や体制、業務停止時間を見極めるための判断材料が乏しいことが、インフラの見直しを検討する企業の課題になっていた。
プロジェクトでは、丸紅ITソリューションズがSAPと連携し、要件整理から本番切り替えまでを一貫して担った。移行方式には、実績があり、切り戻し手順も確立しているSAP標準ツール「Software Provisioning Manager」(SWPM)を用いたシステムコピーを採用した。バックアップ/リストア方式でデータを移行する方法だ。
契約の範囲、システム構成、外部インタフェース、運用監視、データ量など9領域で現行インフラを可視化し、影響範囲を洗い出した。開発機と検証機で2回のリハーサルを実施して業務停止時間を実測し、本番切り替えは秋の連休に合わせて実施した。移行作業は3日間、後処理は1日間で完了し、業務を止めたのは1営業日にとどめた。
SAPアプリケーションとデータベースのバージョンは維持し、OSとデータ分析システムのバージョン更新にとどめることで、既存業務への影響を抑えた。SRの起票・進行管理はSAPの窓口担当と連携して進めた。回線とファイアウォールの切り替えはグループ会社が担い、SAP、丸紅ITソリューションズ、グループ会社による三者連携の体制で実施した。
丸紅I-DIGIOグループは、今回整備した移行計画や手順書、SAPとの連携ノウハウを、インフラの刷新やマルチクラウド化を検討する顧客の支援に生かす。Google CloudのAI・データ活用サービスと基幹データの連携にもグループ内で先行して取り組み、得られた知見をソリューションとして提供する計画だ。
丸紅I-DIGIOホールディングス 情報システム部の古塩英之部長は、次のようにコメントする。「稼働インフラをGoogle Cloudに移行したことで、将来的なデータ分析や生成AI活用に向けた確固たる基盤を構築できた。異種ハイパースケーラー間の移行という高難度の挑戦だったが、影響範囲の徹底的な可視化や事前リハーサルを重ね、業務停止時間をわずか1営業日に抑え、通常業務に支障なくスムーズに切り替えられた」
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「丸紅情報システムズ、RISE with SAPをGoogle Cloudへ移行」(2026年10月1日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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