「AIが読める台帳」の整備
SaaS台帳の“サイロ化”に悩むクラシル 1カ月のシステム刷新で費用を24%削減
SaaSや貸与端末の台帳が分散すると、情報システム部門の負担が増すだけではなく、将来的なAI活用や内部監査の妨げにもなる。わずか1カ月で台帳の集約を実現したクラシルの事例を紹介する。
SaaS(Software as a Service)の利用拡大に伴って、IT運用管理の現場では「誰がどのSaaSを使っているか」「誰にどの端末を貸与しているか」といった管理対象ごとに異なるツールが導入され、台帳が分散するケースが後を絶たない。こうした台帳の「サイロ化」は、日々の管理にかかる人手やライセンス費用を肥大化させるだけではなく、情報システム部門の業務でのAI活用で致命的なボトルネックにもなる。
このような課題に直面していたクラシルは、2022年ごろから情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)関連認証の取得や上場準備を見据え、従業員のSaaS利用状況の可視化と管理を進めていた。しかし、管理対象が在籍者情報や貸与端末、退職時のアカウント停止へと広がるにつれ、それぞれ異なるツールで管理する状態に陥っていた。こうした中、同社はAIツールを前提とした業務を視野に入れて、「AIツールが読みやすい一元的な台帳をどこに置くか」という課題に直面することになる。
クラシルはいかにして分散した管理台帳を集約し、AI前提のIT資産管理システムを約1カ月という短期間で構築したのか。
「台帳分散」の限界と一元化へのハードル
クラシルは、複数のツールに分散していたSaaSと従業員、IT資産の台帳を、情報システム部門向けAIエージェント「zooba」のSaaS・IT資産管理機能に集約した。2026年8月に本番運用を始めた。同年10月6日、zooba社が事例を公開した。台帳は3つから2つになり、SaaS管理ツールの費用は24%減った。クラシルは2024年ごろからzoobaのAIヘルプデスクを使っており、同じシステム内に資産情報を載せた。
クラシルは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得や上場の準備のため、2022年ごろに「誰がどのSaaSを使っているか」の管理を始めた。その後、管理する対象は従業員の情報や貸与する端末、退職時のアカウント停止にまで広がり、それぞれ別のツールで管理していた。AIツールを前提に仕事を進めるようになり、台帳の置き場所が重要だと考えた。AIツールが読みやすい台帳を作る必要があり、すでにzoobaのAIヘルプデスク機能を使っていたため、同じシステムに資産情報も載せることにした。
移行で最も不安だったのは、今までできていたことができなくなることだった。特に、「Google Workspace」のマルチテナント管理は必須で、契約中のSaaSがAPI連携の対象に含まれるかどうかも確認が必要だった。管理中のSaaSの一覧をzooba社のカスタマーサクセス担当に共有したところ、翌日ごろには対応の可否が返ってきた。ほとんどが対応可能で、不安はなくなった。
移行では、既存環境の機能と自動化している処理、ツール間の連携を洗い出し、zoobaの機能と1つずつ照らし合わせた。作業をタスクに分けて進め、トライアルを含めて2026年4月から6月の数カ月を使い、zooba社での構築作業はほぼ1人が担当して約1カ月で終えた。一方で詰まった点もある。Figmaとの連携は、ヘルプセンターの説明だけでは分からず、ミーティングを設けて進めた。内製の管理ツールが複数あり、本番と検証など複数のデータをCSVファイル経由で手動で連携していたため、最初の型を決めるのに時間がかかった。退職者のデバイス情報をCSVファイルで更新した際、想定通りにならないケースがあったが、zooba社に伝えると約2時間で修正された。開発とサポートの速さも、zoobaを選んだ理由だ。
2026年8月に本番運用に切り替えた。事例の取材時点では、切り替えから約20日が経過し、問題なく運用できている。SaaS管理ツールの費用は24%減り、3つに分かれていた台帳は2つになった。社内の決裁では「似た用途のツールごとに取っていた予算をまとめ、費用も抑えられる」と説明すると、ほとんど苦労せずに進んだ。
利用は情報システム部門の外にも広がった。内部監査の部長に画面を見せると「以前より見やすい」と評価され、自分からアカウントを求めた。内部監査には読み取り権限を付与した。誰がどのSaaSを使い、どの権限を持つかを内部監査の担当者が確認できるようになり、これまで情報システム部門に依頼していた証憑(しょうひょう)やエンドユーザー一覧も、自分たちで確認できる場面が出てきた。その場で、総務が使う業務システムとの連携にも話が及び、約10分後には接続して確認した。退職者のアカウント削除の効率化につなげる。
AIヘルプデスクも資産情報を参照する。検証では、「自分は『Zoom Workplace』のアカウントを持っているか」と尋ねると保有状況を回答した一方、他の従業員について尋ねても、その人の情報は回答しなかった。この挙動を検証した上で運用している。今後は、アカウントの変更権限や参照権限をさらに細かく制御できる機能を求めており、設定をカスタマイズして使い込む段階に入る。
クラシル 経営管理本部情報システム部の山田裕貴セクションマネージャーは「最低限、今までやっていたことができないと困る。契約中のSaaSを一覧にして共有し、対応の可否を事前に確認できたので、安心して移行を進められた。本番へ切り替えた後も、特に問題なく運用できている」と話す。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「クラシル、SaaS・IT資産の台帳を集約 管理ツール費用24%減、構築は約1カ月」(2026年10月7日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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