ERPに迫るAIエージェントの波(後編)
SAPやOracleが警戒する「ERPの土管化」 汎用AIとの主導権争いが激化
AIを巡るERPベンダーの真の競合は、もはや同業他社ではなく「汎用LLMやフロンティアモデルを抱えるビッグテック」に変化した。ERPが単なるデータ保持用の「API」に成り下がるのを防ぐため、SAPやOracleが強調する独自のデータ精度とガバナンス、セキュリティ戦略を解説する。
主要ERPベンダーが相次いでAI機能を発表する中、生成AIやエージェント技術は不評だったERPのUXを改善しつつある。一方で、ユーザー自身がAIを使ってアプリを自作できるようになったことで、SaaS型ERPで封印されたはずの「過剰カスタマイズ」の復活の懸念も生じている。
本稿は前編に続き、ERPベンダーが警戒する汎用(はんよう)AIとの主導権争いの構図と、AIエージェントを企業で安全に運用するためのガバナンス・セキュリティ戦略について解説する。
ERPベンダーの真の競合はハイパースカラーや最先端モデル開発企業
ERPベンダーの幹部やアナリストが共通して口にしたテーマは、AIを巡る競争の主戦場はERPベンダー同士ではなく、ERP向けに「代替AI UX」を提供しようとする企業との間にシフトしている、ということだ。
彼らは、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudのようなハイパースケーラー、Palantir Technologies(以下、Palantir)やAnthropicのようなフロンティアモデルのベンダーは、ERP内のデータやビジネスロジックに完全にはアクセスできないため、求められる精度やガバナンスを提供できないと主張する。
調査会社Diginomicaの共同創業者でITアナリストのジョン・リード(Jon Reed)氏によると、SAPのCEOであるクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏はこの問題を強く意識しており、基調講演の冒頭で真っ先にフロンティアモデルについて言及したという。
「SAPは、ビジネスデータを扱える独自の強みを持っていることを証明しようとしている。同社が最も懸念しているのは、自社システムが他社のAIから呼び出されるだけのデータ保持用の『API』に成り下がり、単なる記帳システムとして扱われることだ」(リード氏)
リード氏は、フロンティアモデルのベンダーが「自社AIを使えば、面倒なデータ整備をスキップしてすぐにERPと連携して使い始められる」と顧客に吹き込むなど、無責任な振る舞いをしていると指摘する。実際の現場で、それがうまく機能しなかった事例を幾つか見てきたという。
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クリーンコアの重要性
コンサルティング会社Enterprise Applications Consultingのプリンシパル、ジョシュア・グリーンバウム(Joshua Greenbaum)氏はこれを「Palantirの気休め、あるいは幻想」と呼ぶ。「Palantirは『画面のスクレイピングを繰り返すだけで、顧客に次世代の自律型AIを提供できると思い込むような、見当違いの領域に入り込んでいる。しかし、企業システムの根底にあるメタデータの深いニュアンスまで読み取る能力はないため、成果は上げられないだろう」
同氏は、汎用(はんよう)的な大規模言語モデル(LLM)ベンダーとエンタープライズソフトウェア企業との間で「企業向け機能」に対する境界線が明確になりつつあると歓迎する。
「企業のニーズを深く理解して、要求仕様・機能・体験に応えられるのはどちらか賭けるなら、私はPalantirやAnthropicのような『企業の歴史的背景や動向を熟知していない企業』よりも、既存のERPベンダーを信用する」
エージェント型AIの「企業利用の安全性」の証明に躍起
OracleはFusion Clawのガバナンスとセキュリティ統制を強調したが、競合他社もエージェント型AIの展開において同様の姿勢を見せている。
「SAP Autonomous Suite」のプレジデント兼最高製品責任者(CPO)であり、基調講演に登壇したマノージ・スワミナサン(Manoj Swaminathan)氏によると、SAPの「Autonomous Enterprise」製品にはERP内で人間のユーザー向けに設定されている権限と認証が標準で組み込まれており、顧客ごとにカスタマイズも可能だという。
「エージェントのランタイムはSAPのプラットフォームにネイティブに組み込まれており、SAPが管理するソリューションとして提供される。つまり、プラットフォームとそこで稼働するライフサイクル全体をSAPがプロビジョニング・有効化・管理するということだ。SAPが提供するエージェントはもちろん、それを拡張したものも、パートナーや顧客がプラットフォーム上で開発したカスタムエージェントも、全て同じガバナンスが適用される」
アナリストらは、SAPのCSO(最高セキュリティ責任者)であるマリエル・アーマン(Marielle Ehrmann)氏がConnectの基調講演の最後に登壇したことで、セキュリティについてのメッセージが強調されたと指摘する。
「彼女のプレゼンは見事だった。悪意のある攻撃者だけでなく『適切なガバナンスを欠いたエージェントは、誰に悪意がなくとも多大な損害をもたらし得る』という点を明確に説明してくれた」とリード氏は振り返る。
企業側もこのメッセージをしっかりと受け止めているようだ。
グリーンバウム氏によると、同氏が対話する顧客の大半は、AI導入の基本を押さえるために慎重に動いているという。AIの導入やERPのアップグレードを円滑に進められるよう、データや業務プロセスを整理して組織変更管理の体制を事前に整えている。
市場でAIをはやし立てる声が絶えず、取締役会からのプレッシャーがあるにもかかわらず、こうした企業は強固な基盤を築くための地道な作業に取り組んでいると同氏は語る。
「その基盤によって、エージェント型AIを使った興味深い取り組みに踏み出せるのが明日になるのか、2年後、5年後になるのかは分からないが、どのようなタイムラインであれ、成功のかぎは基盤を正しく構築できるかどうかにかかっている」(グリーンバウム氏)
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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