無限労働日の功罪【前編】
「22時のメール連絡」が常態化? いつまでも働ける「無限労働日」の代償
平均的な勤務時間は「午前9時~午後5時」の枠にとらわれなくなり、早朝から深夜まで働く「無限労働日」とも呼ぶべき状況が広がりつつある。柔軟な働き方の表れとする見方もあるが、危険性もある。
従業員がオフィスでも自宅でもメールやチャットを通じて絶え間なく連絡が取れるようになったことで、平均的な勤務時間はもはや「午前9時~午後5時まで」という枠にとらわれなくなった。従業員はますます早く仕事を始め、通常よりも遅く仕事を終えるようになり、「無限労働日」とも呼ぶべき状態に陥っている。
Microsoftは2025年6月、従業員が従来の勤務時間の枠を超えて業務に取り組んでいることを示すデータを発表した。それによると、午前6時にオンラインになっている人の40%がメールをチェックしている。午後8時以降の会議件数は前年比で16%増加した。さらに午後10時までにオンラインになった従業員の29%が受信トレイを再び閲覧し、勤務時間外に平均50件以上のメッセージを送受信している。
こうした変化によって「トリプルピークデー」と呼ばれる日が増えた。「トリプルピーク」とは、業務の生産性が高まるピークが昼食前、昼食後、そして夕方に発生することを意味する。「夕方」という時間帯が新たにピークに加わったことで、ワークライフバランスに関する疑問が生じている。どのような危険性があるのか。
いつまでも働ける「無限労働日」の危険性とは?
データだけでは、従業員が仕事に費やす時間が増えていることを示すことはできず、むしろ労働時間の幅が広がっているといえる。しかし、米国の雇用統計を発表しているADP Research Instituteの2023年の報告書によると、特に18~34歳の従業員は、週平均8時間半のサービス残業をしている。労働時間が無制限になると、働き方の柔軟性が高まる一方、燃え尽き症候群をもたらす恐れもある。
「懸念されるのは、柔軟な働き方が重視されるあまり過剰労働が意識されなくなることだ」。コンサルティング会社West Monroeの人事・変革担当パートナー、キム・シールズ氏はそのように述べる。同氏は「多くの従業員は勤務時間を調整しているのではなく、むしろ延長している」と指摘する。
従業員はしばしばフレックスタイム制を優先事項に挙げている。前述のADP Research Instituteのレポートによると、回答者の29%が就職活動の際、フレックスタイム制を重要視している。午前6時や午後10時にメールをチェックするのは柔軟な働き方の表れとは思えないかもしれないが、一部の従業員にとって有益な選択肢にもなり得る。フレックスタイム制を活用すれば、業務の生産性を向上させたり、仕事と育児を両立したりできる場合もある。
コンサルティング会社Hu-Xの創業者兼CEO、ティア・カッツ氏は「人によって業務に集中できる時間帯は異なる。午前9時や午後3時に誰もが同じように生産的であるべきだという考えは時代遅れだ」と語る。
フレックスタイム制は、通常1日8時間勤務し、都合の良い時間帯に分割して働くことを意味する。仕事と育児を両立させる場合でも、タイムゾーンの異なるパートナーと協働する場合でも、そのメリットは明らかだ。柔軟な勤務時間は、生産性やワークライフバランスの向上に寄与する。場合によっては、生産性が向上するため、総労働時間を減らすことも可能だ。
しかし一部の専門家は、フレックスタイム制が残業の強制をもたらす危険性を繰り返し強調する。業界や企業によっては、従業員に対し、正規の勤務時間前後も働くことを期待している。一方、午前9時~午後5時の勤務体制から逸脱することに抵抗感を抱く企業もある。その場合、従業員が早朝や深夜も働くことを選択した場合でも、従来の勤務時間にも出勤することが求められる。これは一時的な生産性の向上につながるかもしれないが、過重労働が続き、問題を引き起こすだけだ。
「夜遅くまで働いた分、日中に休憩しないと生産性の低下を招く」とシールズ氏は述べる。「疲労は集中力、意思決定力、記憶力といった認知機能の低下をもたらす。脳には回復の時間が必要だ。回復の時間がなければ、たとえ優秀な人材であっても成果は減少してしまう」(同氏)
「無限労働日」という考え方が広がる背景には、テレワークの普及以外にも要因がある。次回はそのような要因を解説する。
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