菓子卸売の老舗が挑む営業改革
営業300人の“暗黙知”をAIで可視化 山星屋「自律型エージェント」の正体
深刻な労働力不足とコスト高騰に喘ぐ山星屋は営業担当者300人を単純作業から解放し、提案の質を底上げするAIエージェントを投入した。その具体的な仕組みとは。
山星屋は、営業担当者300人を支援する「営業支援AIエージェント」の開発を完了し、実証実験を開始した。システム基盤にはDATAFLUCTのデータ分析自動化AIエージェント「Airlake BI Agent」を採用した。2026年3月9日、DATAFLUCTが発表した。深刻な労働力不足とコスト高騰に直面する卸売業界において、営業担当者を定型業務から解放し、人ならではの感性を生かした提案活動への注力することを目指す。2027年春までに全営業担当者への展開を予定しており、中期経営計画で掲げる売上高4200億円の達成をAIとの協働によって加速させる。
菓子卸売の老舗が挑む営業改革とは
丸紅グループの菓子専門商社である山星屋は、日本の菓子卸売業界が市場縮小とコスト高騰という構造的危機に直面する中、2027年度に向けて極めて高い成長目標を掲げている。今回のAIエージェント導入は、単なる業務の自動化にとどまらず、AIとの協働を通じて組織全体のナレッジを形式知化し、顧客への提案品質を飛躍的に高めることが狙いだ。変化に対応できる事業体質への転換を目的としている。
これまで営業担当者の時間を奪っていたのは、膨大な商品データベースからの検索や提案資料のドラフト作成、市場・競合情報の収集、複雑な販売データの分析といった「周辺業務」だった。これらのルーチンワークをAIエージェントが肩代わりすることで、営業担当者は得意先との関係深化や、より顧客に寄り添った本質的な価値提供に専念できる体制を構築する。
今回導入した「自律型営業AIエージェント」には、提案の質を向上させる三つの主要機能が実装されている。一つ目は、自然言語による対話型検索機能だ。「月次売上金額の推移をグラフで表示して」といった指示だけでAIがデータを解析し、最適なグラフを即座に生成する。これにより、資料作成の手作業が不要になり、意思決定が高速化される。
二つ目は、AIデータ基盤「Airlake platform」上に蓄積された膨大な社内資料から、必要な情報をチャット形式で抽出する資料抜粋機能だ。回答の根拠となるスライドのリンクなども即座に表示されるため、情報の裏取りが容易になる。経験の浅い社員が抱える属人化の課題を解消し、組織全体の提案レベルを底上げする。三つ目は、得意先の企業分析や販売実績データを多角的に解析するAI企業分析機能だ。AIが数値とテキストの両面からインサイトを自動生成することで、営業担当者は分析業務の工数を削減し、質の高い提案が可能となる。
山星屋営業DX戦略部部長の江内田氏は、人財を最大の資産とする同社において、本プロジェクトは社員の可能性を解き放つ挑戦だと位置付けている。AIが膨大なデータを武器に変え、営業担当者は人間にしかできない心通う提案に注力する。人AIの「営業1+1」体制により、経験の差を超えたチーム力を実現し、菓子卸売業界の新しいスタンダードを創り出したいと述べている。
また、同部課長の新名氏は、現場での検証において、これまで時間がかかっていたデータ集計や資料作成がチャット感覚で瞬時に終わることに手応えを感じているという。AIエージェントの導入により作業が楽になるだけでなく、空いた時間をお得意先様との対話や魅力的な売り場づくりといった、泥臭い営業活動にフル活用できると期待を寄せている。
山星屋は2026年3月から一部エリアで初期導入版の運用を開始し、2027年春には全社展開を完了させる。今後の開発では、顧客ごとの売れ筋新商品を瞬時に照合する機能や、アナログな情報の構造化も予定している。過去の実績にとらわれず、組織の集合知を武器に顧客の課題解決に直結する提案を再現できる、卸売業の次世代モデルの確立を目指す。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「山星屋、営業AIで暗黙知をデータ化 提案力の強化と高付加価値業務へのシフト加速」(2026年3月9日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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