押さえておきたい「AIエージェント」の実力と限界は?AIエージェントの活用が本格始動【後編】

AIエージェントの活用が進む中で、企業はその「実力」と「限界」を正しく見極めることが需要だ。導入前に押さえておきたいAIエージェントの動向を、4つの視点で読み解く。

2025年04月30日 05時00分 公開
[Esther ShittuTechTarget]

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 2024年後半から「AIエージェント」(AI:人工知能)が世間の関心を集めるようになり、2025年は本格的にAIエージェントがビジネスの現場に浸透するとの期待感が高まっている。AIエージェント関連の技術はどこまで進化しており、人間の業務をどの程度支援できるのか。その活用に当たっての障壁として何があるのか。AIエージェントについて押さえておきたい4つの動向を解説する。

1.AIエージェントの“頭脳”を強化する技術とは?

 AIエージェントに関する期待の一つは、今後も大規模言語モデル(LLM)がその“頭脳”として機能するという点だ。AIエージェントがより適切にタスクを遂行するためには、LLMの推論能力をさらに向上させる必要がある。

 LLMの思考能力を高めるアプローチの一つとして注目されているのが、Chain-of-Thought(CoT:思考の連鎖)プロンプティングだ。CoTプロンプティングは、1つの問いから答えを求めるのではなく、複数の思考ステップを経て最終的な結論を導き出すアプローチを採用する。このアプローチは一定の計算コストを要するものの、その分LLMがより深く思考するようになり、結果として推論能力が向上するという。

 AI技術を活用した動画生成ツールを開発するColossyanのリサーチディレクターを務めるシャーザイブ・アスラム氏は、「2025年にはCoTプロンプティングがAI業界および学術界で注目され、より研究が進展する」と予測する。LLMに解釈性を持たせるアプローチは非常に理にかなっているとアスラム氏は指摘。その上で「今後は推論プロセスの計算リソースをスケール(拡張)させることで、論理的かつ体系的に結論を導く仕組みづくりが活発になるだろう」と語る。

2.AIエージェントがカバーできる業務範囲と限界は?

 2025年には、AIエージェントの活用が広がると見込まれているが、人間の関与が完全に不要になるわけではない。とはいえ、「AIエージェントに仕事が奪われるのではないか」という懸念は依然として残る。

 AI業界内では「2025年のAIエージェントは一定の自律性を備えるようになるが、完全な自律性を持つまでには至らない」という見方がある。AIエージェントは人間の業務を全て肩代わりするのではなく、あくまで業務の一部を担う存在になるということだ。例えば、AIエージェントが旅行代理店の連絡先を調べることはできても、旅行の予約まで完了させる段階には至らない可能性が高い。

 RPAツールベンダーUiPathでシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるマーク・グリーン氏は、「AIエージェントは、業務の一部を担う存在となり、既存の自動化ツールや人間、さらには他のAIエージェントと連携しながら働くことになるだろう」と話す。

 こうした業務の一部を担うAIエージェントは、特定のタスクに特化して設計されるため、特定のタスクに集中して効果的に作業を遂行できる。「作業の範囲が狭ければ狭いほど、AIエージェントの成果を測定しやすくなる」(グリーン氏)

3.AIエージェントの土台となるインフラでは何が重要?

 調査会社Futurumでリサーチディレクターを務めるオリバー・ブランチャード氏は、2025年を「AIエージェント向けのインフラ構築」が本格化する年になると予測する。

 AIエージェント同士が連携したり、人間と協調したりしてタスクを遂行するためには「オーケストレーション」(連携の仕組み)が不可欠だ。「2025年は万能なAIエージェントが実現するのではなく、その土台となるインフラの構築が進む」とブランチャード氏は話す。

 このインフラ構築において重要な役割を果たすのが、Qualcomm Technologies(以下、Qualcomm)やNVIDIA、Intel、Advanced Micro Devices(AMD)といった半導体ベンダーだ。

 NVIDIAは主にクラウド向けAIエージェントの開発に注力する他、Qualcommはオンデバイス型AIエージェントに注力している。

 一方、AppleやSamsung Electronicsなどのデバイスベンダーは、アプリケーションやOS、デバイス間を横断してAIエージェントを動作させるオーケストレーション層の構築に取り組んでいる。ブランシャール氏によると、「基礎技術は既に存在するものの、全てを連携する仕組みはまだ確立されていない」という。

 AIベンダーOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」のようなツールは、テキストの入出力には優れているものの、人間のように複数のアプリケーションをまたいで操作することはできない。しかし、テキスト以外にも音声や画像など複数のデータ形式を扱うことのできる「マルチモーダルAI」の進化により、こうした課題を克服できると期待されている。

 ここでも課題になるのが「オーケストレーション層の共通化」だ。「AIエージェントが異なるプラットフォームやデバイス間をまたいで機能するには、共通のオーケストレーション層が不可欠だ」とブランチャード氏は話す。もしQualcommやAMDなどのチップメーカーが、それぞれ独自のオーケストレーション層を開発した場合、AIエージェント間の相互運用性が損なわれてしまう恐れがある。

4.企業が直面するAIエージェント実装の課題とは?

 他のAI技術と同様、AIエージェントも2025年に向けて幾つかの課題に直面すると予測されている。

 1つ目の課題に「データのサイロ化」がある。AIエージェントがタスクを正確に遂行するには、必要な情報に適切にアクセスする必要がある。しかし現実には、業務プロセスやシステムごとにデータが分散しているため、情報の取得や統合が困難になるケースが珍しくない。

 2つ目の課題に「AIエージェントの設計に関する知識不足」がある。例えば、人間とAIエージェントがどのタイミングで関わるべきか、どのチャネルを介して連携すべきかといった設計上の基本的な指針が、業界全体としてまだ十分に確立されていないのが現状だ。

 3つ目の課題に「信頼性」がある。AIエージェントの大半はLLMを基盤とするが、LLMはハルシネーション(事実に基づかない出力)などの課題を抱えており、AIエージェントの信頼性を損なうリスクがある。

 「こうした障壁があるものの、2025年はAIエージェントにとって前進の年になる」とサンダー氏は期待を寄せる。どのような業務においてAIエージェントが有効か、どう導入すれば効果的か、そしてどうすればユーザーとの信頼関係を築けるか――。こうした問いを試行錯誤しながら解き明かしていくフェーズに入るだろう。「AIエージェントが完全な自律性を持つ未来はいずれ到来するはずだが、それが2025年になるとは言えない」(同氏)

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