Googleは「Gemini 2.0 Pro」をはじめとする新モデル群を発表し、AI市場における攻勢を一段と強めている。Geminiアップデートによるユーザーへのメリットと、GoogleのAI戦略を解説する。
Googleが2025年2月に発表した、大規模言語モデル(LLM)「Gemini 2.0 Pro」をはじめとするGeminiシリーズの進化からは、同社がAI市場において攻勢を強めている状況がうかがえる。本稿は「Gemini 2.0」の注目ポイントを整理するとともに、AI市場におけるGoogleの戦略とその背景を読み解く。
Googleが発表したLLMは以下の通りだ。
Gemini 2.0の後継モデルであり、2025年2月時点で試験運用版が公開されている。特にコーディング性能と複雑なプロンプト(AIに対する指示や質問)の処理能力が強化されており、従来のGoogle製LLMと比較して、現実世界に関する知識や理解力、推論能力が向上しているという。
Gemini 2.0 Proは、GoogleのAIアプリケーション開発ツール「Google AI Studio」「Vertex AI」に加え、AIチャットbot「Gemini Advanced」ユーザーのWebアプリケーションおよびモバイルアプリケーションから利用できる。
Googleは、軽量モデル「Gemini 2.0 Flash-Lite」を発表し、Google AI StudioおよびVertex AIでパブリックプレビューを開始している。前世代の「Google 1.5 Flash」と同等の速度とコストを実現しつつ、性能を強化している点が特徴だ。
Gemini 2.0 Flash-Liteは100万トークン(注)のコンテキストウィンドウ(生成AIがやりとりの中で保持する情報量)を備える。Google AI Studioの有料プランでは、約4万枚の写真に対し、1枚当たり1行のキャプションを1ドル未満で生成できるという。
※注:テキストデータを処理する際の基本的な単位で、英語であれば1トークンは4文字程度と考えられる。
Googleは「Gemini 2.0 Flash Thinking Experimental」の一般提供を開始。開発者がGoogle AI StudioとVertex AIでGemini APIを通じて本番アプリケーションを構築できるようにしたことも発表した。
今回発表されたLLMは全てマルチモーダル(テキストや音声など複数種類のデータ)入力およびテキスト出力が可能。近日中にマルチモーダル出力機能も提供が開始される見込みだという。
Gemini 2.0 ProおよびGemini 2.0 Flashシリーズの発表に当たり、Googleは推論モデルを用途別に最適化する戦略を打ち出している。「例えば、Geminiでは特にコーディング機能を強化しており、開発者が本番環境で実際に使えるアプリケーションを開発しやすくしている」とチャンドラセカラン氏は説明する。「Geminiが登場した当初は、汎用(はんよう)的な推論モデルとして提供されていたが、今ではその用途が明確になりつつある」(同氏)
コスト面の競争力も向上している。軽量モデルGemini 2.0 Flash-Liteは、テキスト、画像、動画、音声の入力100万トークン当たり0.075ドル、テキスト出力100万トークン当たり0.30ドルの価格で提供されており、無料枠も用意されている。
これに対し、OpenAIの軽量モデルo3-miniは、キャッシュ(一時保存)された入力100万トークン当たり0.55ドル、出力100万トークン当たり4.40ドルと、Gemini 2.0 Flash-Liteと比較して割高な設定だ。
Informa TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)でアナリストを務めるマーク・ベキュー氏は、「生成AIの普及には低コストかつ高性能という条件が欠かせない。モデル価格の引き下げは業界全体の成長に直結する」と強調した。
Googleの価格戦略は、企業が生成AI導入に際して直面する最大の課題――費用対効果の不透明さに応えるものだ。生成AIを導入しても十分な成果が得られず、PoC(概念実証)や実験段階にとどまっているケースは往々にしてある。各ベンダーはAIモデルのコストを引き下げることで、より多くの企業のAI導入を後押ししている。
「Googleにとって今後の課題は、各モデルの違いや使い分け方を、どれだけ明確にユーザーに伝えられるかだ」とチャンドラセカラン氏は指摘する。低価格帯のAIモデルもそろえる中で、プレミアムモデルをどのように位置付け、訴求していくかは大きな課題だ。「顧客が用途に応じて適切なモデルを選択できるような、明確な指針と選定プロセスの提供が不可欠だ」(同氏)
一連の発表は、競合各社によるAIモデル発表の流れに続くものだ。2025年1月下旬には、OpenAIが推論モデル「OpenAI o3-mini」の一般提供を開始。同時期には、中国のAIスタートアップDeepSeekがオープンソースLLM「DeepSeek-R1」を公開し、瞬く間に世間の注目を集めた。GoogleがGemini 2.0 Flashの一般提供を開始したのは、DeepSeekの登場からわずか10日後のことだった。
調査会社Gartnerでアナリストを務めるアルン・チャンドラセカラン氏は、「Googleはこの1年間で、2023年や2024年初頭には見られなかったほどの意欲と積極性を市場で示している」と評価する。Googleは従来のAIモデル「PaLM」シリーズからGeminiシリーズへの移行を通じて、AI領域での成功を確実なものにしている。2024年12月には企業向けの生成AI要約ツール「NotebookLM Plus」をリリースし、特にエンタープライズ市場で一定の成果を上げている。
他にもGoogleは、地政学的緊張やAI軍拡競争について戦略に取り込んでいるようだ。2025年2月には、AI技術の軍事利用を自主的に制限していたガイドライン「AI Principles」(AI原則)を更新し、武器開発など、人に危害を加える可能性のある用途への技術提供を容認する姿勢を示した。
経済誌「Wall Street Journal」の報道によると、Googleは人材採用における多様性目標も廃止する。これは、米国内で再び台頭するトランプ政権の保守的イデオロギーに一定の歩調を合わせる動きと解釈されている。
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