他のIT技術分野に比べてネットワークエンジニアリングに興味を持つ人が減少傾向にある。なぜネットワークエンジニアリングの人気は落ちているのか。先輩エンジニアはなぜネットワークエンジニアリングを始めたのか。
ネットワークエンジニアリングはクールな、イケてる技術分野だ。しかし、近年の求人情報などを見ると、ネットワークエンジニアリングの分野を志すエンジニアが減少している可能性がある。
一部のSNSでは「#MakeNetworkingCoolAgain」(ネットワークエンジニアリングを再びクールに)というハッシュタグを目にするようになった。これらは、ネットワークエンジニアがこうした現状に危機感をもっていることから発した投稿だ。ネットワークエンジニアリングの面白さとは何か。先輩ネットワークエンジニアたちはなぜこの道を選んだのか。
IT技術支援ベンダーTechSalesCraftの創設者でCTO(最高技術責任者)のスコット・ロボフン氏は、1980年代にRochester Institute of Technology(ロチェスター工科大学)で産業工学と製造工学を学んだ。当時、ネットワークエンジニアリングを教える大学はほとんどなかったが、同氏は最終的にPennsylvania State University(ペンシルベニア州立大学)でコンピューターモデリングについて学ぶことになり、そこでネットワークエンジニアリングの面白さに気付いた。
ロボフン氏は最初、Asynchronous Transfer Mode(非同期転送モード)のようなネットワークプロトコル技術を学び、そして通信技術の分野に進んだ。インターネットが普及し始め、同氏はWebブラウザ「Netscape Navigator」(注1)によって情報にアクセスし、人とコミュニケーションできることに夢中になった。
注1:IT企業Netscape Communications(現在は通信サービスプロパイダーAOL(America Online)が買収した)が開発していたWebブラウザ。現在は開発を終了している。
それ以降、ロボフン氏は業界団体Network Automation Forumを共同設立し、ポッドキャスト「Total Network Operations」を運営している。ネットワークエンジニアリングをより身近なものにし、新人ネットワークエンジニアを指導することが目的だ。
最初にインターネットを構築したネットワークエンジニアの多くは、まだネットワーク業界で活躍している。彼らは、モデムを使ってダイヤルアップ接続でインターネットにアクセスしたり、光ファイバーケーブルが大陸をまたいで世界のコミュニケーションを変革したりといった、インターネットが熱い時代のまさに一部だった。
「2000年代初頭、IT業界に入り、ネットワークエンジニアになり、インターネットを構築することは、とてもクールでエキサイティングな経験だった」とネットワークエンジニアのアレクシス・バーソルフ氏は語る。「彼らはインターネットの未来を、文字通り”作って”いた」
しかし、インターネットの目新しさは薄れ、若い世代はネットワークエンジニアリングが実現してきた今の状況を当たり前のものと捉えている。「子供や若者にとってスマートフォン、無線LAN、ストリーミング配信はあって当然で、それら全てをネットワークエンジニアが支えているという事実に気付いてもいない」とバーソルフ氏は語る。バーソルフ氏もロボフン氏も、熟練したネットワークエンジニアから次世代のエンジニアへと知見や技術を継承する必要があると力説する。
では、インターネットを作った人たちの知見や技術をどうデジタルネイティブ世代に伝えるのか。「この点でネットワーク業界は成功していない」とロボフン氏は語る。ロボフン氏によれば、原因の1つは、テレワークだ。同じ空間での共同作業や、ちょっとした会話の機会が減少している。
「以前はネットワーク運用チームのメンバーで一緒にランチを食べたり、酒の席を共にしたりと、お互いに質問し合う機会があった」とロボフン氏は語る。「今では簡単に、ビジネスチャットツール『Slack』でメッセージを送れる。だが、Slackで会話が弾むだろうか」
同氏が語るもう一つの原因として、ベテランネットワークエンジニアの多くが、「自分たちが独学で学んだのだから、今の世代も同じようにすべきだ」と決め付ける、昔ながらの職人気質が挙げられる。
こういう考え方と、広範なコミュニティーへの働き掛けの不足が、若年層などをネットワークエンジニアリングから遠ざけていると航空宇宙企業Blue Originのネットワークエンジニアであるレキシー・クーパー氏は分析している。「現在、ネットワークエンジニアは、ほとんど男性で、高齢化が進んでいる」と同氏は語る。
この状況を変えるには、女性識者を呼んで会議をするだけでは不十分だ。女性やマイノリティーにネットワークエンジニアリング分野に進む機会を提供し、その成長を支えることが必要だ。
アクセシビリティー(利用のしやすさ)の向上も重要だ。ナイジェリアを拠点とするネットワークエンジニアのエマニュエル・モルディ氏は、システム管理者をしていた姉の影響でネットワークエンジニアリングに興味を持った。幾つかの進路を調べ、コンピューターエンジニアリングを大学で専攻した。現在、同氏はナイジェリアでネットワークエンジニアリングを教えている。
「学生時代、半年間のインターンシップに参加し、Cisco Systemsの認証資格プログラム『CCNA』(Cisco Certified Network Associate)を受験したのが大きい」とモルディ氏は語る。「学校に戻った後、得た経験と知識をみんなに教えるようになった」
同氏はさまざまな技術分野の人々にネットワークエンジニアリングの基礎を教え、ルーター、ネットワークスイッチ、ネットワーク構成シミュレーションツール『Cisco Packet Tracer』を使った実践の機会を提供している。しかし、ネットワークエンジニアリングの学習に不可欠な実験や実践が可能な施設や機器が不足しているという。
「ここアフリカ、特にナイジェリアでは、ほとんどの人がPCを持っていない」とモルディ氏は語る。「ネットワークエンジニアリングを学び、実際にシミュレーションするには、PCが不可欠だ」
同氏によると、大半のIT技術分野で、学習者はスマートフォンやタブレットでオンライントレーニングを探し、コース修了後に認定資格を取得することが可能だ。しかし、ネットワークエンジニアリング分野の場合、技術的に高度過ぎず、基本的かつ質の高い、手頃な料金のオンラインコースが少ない。さらに、ナイジェリアでは、セキュリティ系のブートキャンプは受講の際の費用の補助があるのに対し、ネットワークエンジニアリング系ではこうしたサポートが足りないという。
結果、ネットワークエンジニアリングについての認知を広める取り組みは、モルディ氏のような個人での活動に依存しているという。
15年間Cisco Systemsの教育プログラム「Cisco Networking Academy」のインストラクターを務め、動画クリエイターでもあるペドロ・カセレス氏は、「言語の壁もある」と指摘する。パナマを拠点とするカセレス氏は、中米諸国では、母国語でネットワークエンジニアリングについての情報を見つけることが難しいと語る。
「私のチャンネル登録者からネットワークエンジニアリングについて、スペイン語の良質な教育コンテンツや実践動画が少ない、英語しかない、との声が寄せられる」とカセレス氏は語る。約7カ月前から同氏は「YouTube」の自分のチャンネルに、Cisco Systemsの認証資格の取得に役立つ、ネットワークエンジニアリングについての動画を全てスペイン語で掲載している。同氏は動画で、「自分の経験をシェアし、アドバイスすることでネットワークエンジニアリングを再びクールにしたい」と語る。
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