Cisco Systemsは、量子ネットワーク戦略の一環として、新たな量子もつれチップの開発を発表した。量子ネットワーク用チップの仕組みと同社の量子ネットワーク戦略について解説する。
ネットワーク機器ベンダーCisco Systemsは、量子コンピューティング時代に対応するネットワークの構築に向けた計画を公表した。カリフォルニア州サンタモニカに「Quantum Labs」を正式に開設したのに合わせて、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UC Santa Barbara)との共同研究により、量子ネットワーク用のエンタングルメント(量子もつれ)チップのプロトタイプを開発したことを明らかにした。
Cisco Systemsによると、このエンタングルメントチップは量子もつれ状態にある光子ペアを生成し、距離にかかわらず量子状態を即時に伝送する「量子テレポーテーション」を実現する。この現象は、アルベルト・アインシュタインによって「不気味な遠隔作用」と呼ばれていたものだ。
このプロトタイプチップの開発に携わったUCサンタバーバラ校の電気・コンピュータ工学の准教授ギャラン・ムーディ氏は、次のように述べる。「フォトニック集積回路(PIC)によって、多数の光源を1つのチップ上に統合することができる。これらを光ファイバーや電子制御と共にパッケージ化することで、単一のデバイスが量子ネットワーク上の多くのユーザーの量子もつれ率を向上させることができる」
このチップは、Cisco Systemsが量子コンピューティング時代に向けて構築するデータセンターの基盤的要素だ。Cisco Systemsの量子研究部門の責任者レザ・ネジャバティ氏とCisco Researchの責任者ラマナ・コンペラ氏は、データセンターにおける量子コンピューティングの課題について、ブログ投稿で次のように説明している。「量子データセンターに求められるネットワークファブリックの要件は、従来のものとは根本的に異なる。量子データセンターは、脆弱(ぜいじゃく)な量子状態を保持し、量子もつれリソースを分散させ、プロセッサ間のテレポーテーションを容易にし、ナノ秒以下の精度で操作を同期させる必要がある」
Cisco Systemsの量子データセンターは、以下の3つの層から構成されている。
ネジャバティ氏とコンペラ氏によると、この構成により、複数の小規模量子プロセッサを統合して単一のシステムとして機能させることが可能になり、量子アプリケーションの実用化を数年単位で加速できる可能性がある。
Cisco SystemsのOutshift部門シニアバイスプレジデントであるビジョイ・パンディ氏は、次のように述べている。「われわれは、量子プロセッサを大規模に接続するためのインフラを構築しており、分散型量子コンピューティングや量子センシング、最適化アルゴリズムの実行が可能になる。これらは創薬、材料科学、複雑な物流問題といった重要分野を変革し得る。エンタングルメントチップは、まさにこの構想の基盤となるものだ」
パンディ氏によれば、Cisco Systemsは以下のような他の重要コンポーネントの研究プロトタイプも進めている。
「Cisco Systemsの量子ネットワーク戦略の強みは、ハードウェアとソフトウェアの両面に焦点を当てている点にある。自社でチップのようなネットワークハードウェアを開発すると同時に、ソフトウェアスタック全体も構築することで、両者がどのように連携して完全な量子ネットワークインフラを構築するかについて深く理解できる」(パンディ氏)
一部の企業が特定の量子コンピューティング技術に特化するのに対し、Cisco Systemsのアプローチは技術的に中立であり、どの量子技術とも連携可能であるという。「われわれは特定の勝者を選ぶ必要がない。なぜなら、全ての量子技術のスケールを支えるネットワークファブリックを構築しているからだ」。パンディ氏はそう説明する。
Cisco Systemsは今後、量子ネットワークスタックの詳細や、量子データセンター基盤に関するロードマップを順次公開していく予定だ。同社は、量子時代を見据えて、自社製品全体において「ポスト量子暗号」(PQC:Post-Quantum Cryptography)の米国国立標準技術研究所(NIST)標準を実装しており、これにより従来のネットワークがポスト量子時代においても安全であることを保証するという。(パンディ氏)
<翻訳・編集協力:雨輝(リーフレイン)>
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