量子力学を利用した「量子インターネット」は、従来型のインターネットとは何が違うのか。さまざまな視点で比較する。
量子力学の特性を利用したインターネットである「量子インターネット」に関する研究が進んでいる。量子インターネットは、従来型のインターネットとは何が異なるのか。仕組みや通信速度、セキュリティなど各種の視点で比較する。
インターネットは、世界各国の小さなノード(コンピュータなどの機器)を結ぶネットワークを相互に接続することで成り立つ。インターネットを通じて、何十億ものユーザーが日々情報を交換し、コミュニケーションを取っている。
それに対して量子インターネットはまだ研究段階だ。2つ以上の量子が相互に密接に関連付けられた「量子もつれ状態」が可能な距離を長くするための研究が進んでいる。ファイバーを用いたP2P(ピアツーピア)による量子ネットワークで約100キロを実現しており、量子中継装置によってその距離を伸ばす研究がなされている。
インターネットでは、「IPsec」や「SSL」(Secure Sockets Layer)、「TLS」(Transport Layer Security)なさまざまなネットワークセキュリティプロトコルによってセキュリティが確保されている。
量子インターネットは量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)というセキュリティ技術を採用する。QKDは量子インターネットに接続された装置間で複製不可能な秘密鍵を共有する技術だ。量子には何かに触れると必ず状態が変化するという性質がある。誰かが通信を盗み聞きするために量子ビットに触れると、その量子ビットの状態が変わってしまい、不正アクセスがあったことが分かるため、情報の窃取を困難にする。
プロトコルに関しては、量子物理的な性質を利用する「量子暗号プロトコル」の研究が進んでいる。
従来型インターネットは、パケット(伝送するデータを小分けにした単位)を確実に転送できるとは限らない。回線の混雑やハードウェアの故障など、様々な要因によりパケットロスが生じ、データ転送の障害や遅延の原因となることがある。
量子インターネットにおいても、「量子ビットロス」という、パケットロスと同様の問題が発生する可能性がある。量子ビットロスは、量子環境内の構成要素が相互作用する際にしばしば起こり、光の損失を引き起こす。量子ビットロスの防止や修正の方法はまだ完全には理解されていないが、研究は続けられている。
初期理論では量子通信が光速を超える速度で可能とされていたが、進行中の研究はそれを否定している。量子ネットワークは、量子ビット間でどれだけ離れていても発生する量子もつれに基づいている。しかし、この量子もつれでは、光速を超えて情報を伝達することはできないと考えられている。
以下の表は、量子インターネットと従来型インターネットの主な違いをまとめたものだ。
■表1 量子インターネットと従来型インターネットの比較
特徴 | 従来型インターネット | 量子インターネット |
---|---|---|
データの単位 | ビット | 量子ビット |
仕様 | TCP/IP | 量子力学の原理 |
セキュリティプロトコル | IPsecやTLSなど | 量子鍵配送(QKD)や量子暗号プロトコル |
信頼性 | 高いがパケットロスあり | 低く、誤り訂正符号が頻繁に必要 |
速度 | MbpsからGbps | 理論上非常に高速 |
実装状況 | 世界各国に普及 | 研究中 |
次回は量子インターネットと従来型インターネットがどのように連携するのかを解説する。
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