SSDを「あえてSLC式に使う」のが“お得”なのはなぜ?「疑似SLCフラッシュ」を解説【後編】

SSDの記録媒体であるNAND型フラッシュメモリの記録方式には幾つかの種類がある。その一つであるTLCやQLCを、あえてSLC式に使う手法がある。どのような利点が見込めるのか。

2024年05月11日 08時30分 公開
[Robert SheldonTechTarget]

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 SSDの利点は、NAND型フラッシュメモリのデータ記録方式に応じて異なる。例えば、より多くのデータをより低コストで保管するのであれば、メモリセル1つに4bitを格納するクアッドレベルセル(QLC)よりも、1bitを格納するシングルレベルセル(SLC)の方が利点を見いだしやすい。ただし、QLCでも疑似的にSLCの手法を取り入れることで、また異なる利点が見込める。どういうことなのか。その仕組みを踏まえて解説する。

SSDを“SLC式”にする利点とは

 「疑似SLC」(pSLC:pseudo SLC)は、1つのメモリセルに3bitを格納する「TLC」(トリプルレベルセル)や先述のQLCを、SLCのように機能させる手法だ。疑似SLCの考え方は新しいものではないが、その他の関連する技術の登場と相まって、疑似SLCの考え方が大きく前進している。関連する技術には、NAND型フラッシュメモリの3次元(3D)積層や、TLCやQLCのようなマルチビット(メモリセルに複数bitを格納する方式)の記録方式などがある。

 メモリセルの設計や製造工程に変更を加えることなく、疑似SLCを各種のマルチビットのNAND型フラッシュメモリに実装できる。コントローラーのファームウェアで変更を加えることで、SLCの仕組みに対応できるようになる。

 疑似SLCの導入を検討する場合は、そのメリットとデメリットを慎重に評価して、ストレージに取り込むかどうかを検討する必要がある。疑似SLCには、次の3つのメリットがある。

  1. メモリセル1つ当たりに複数のビットを読み書きする必要がないため、マルチビットのドライブよりも読み書きのパフォーマンスが高くなる。1つのメモリセル内のビット数が増えるほど、データを読み書きする時間は長くなる。
  2. 疑似SLCでは1つのメモリセルに1bitしか収容されないため、マルチビットのメモリセルよりも摩耗もエラーの発生も少なくなる。その結果、耐久性と信頼性が高まる。
  3. TLCやQLCのドライブは、3DのNAND型フラッシュメモリと組み合わせられることで、かつてなく高密度化している。疑似SLCではこの高密度の利点があるので、通常のSLCのドライブよりも1GB当たりのコストを抑えることができる。

 疑似SLCにはデメリットと注意点もある。

  • 疑似SLCは、標準のSLCよりも容量が多くなるものの、マルチビットのドライブよりは容量が少なくなる。そのため、1GB当たりのコストはTLCよりも高くなる。
  • 疑似SLCは、パフォーマンス、耐久性、信頼性の点で優れてはいるが、ベンチマークではSLCほど高い結果は得られていない。
  • 疑似SLCのメモリセルとデバイスを構築している設計は、標準のSLCとは異なる。そのため、疑似SLCでは、マルチビットのドライブに伴うのと同じ問題が幾つか生じる可能性がある。
    • 例えば、マルチビットのドライブはメモリセルが小さく、密集しているため、セルの消耗が速く、エラー率は高い。
    • 疑似SLCでは、コントローラーとファームウェアを変えているだけで、メモリセルの構造は変えていない。そのため、1つのメモリセルに1bitしか収容しないとしても、マルチビットの設計のデメリットが引き継がれる可能性がある。

主な用途

 企業における通常のアプリケーションが疑似SLCを必要とすることはほとんどない。ただし、特にSLCの代わりになるストレージを必要とする場合は、疑似SLCが適している可能性がある。例えば、標準的なSLCのドライブではデータをほとんど保持していない場合や、マルチビットのドライブでは読み書きパフォーマンスや耐久性、信頼性の要件を満たせない場合だ。用途の例としては、医療機器の他、航空機や船舶、自動車、トラックといった車両に疑似SLCを使用する使い方が考えられる。

 書き込みパフォーマンスの向上や書き込みが集中するアプリケーション用に、疑似SLCのメモリセルを含むマルチビットのSSDを提供しているベンダーもある。特定の用途に応じて、疑似SLCを再構成できることが一般的だ。

 疑似SLCを組み込むストレージを提供するベンダーは多様になっている。ATP Electronics、Hyperstone、Sabrent、Silicon Power、Silicon Power Computer & Communications、Smart Modular Technologies、Toradex Groupなどがその例だ。

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