SSDによる「HDD代替」をリアルな話に変えた“QLCの進化”とは?駆逐するSSD、生き残るHDD【第2回】

HDDの役割は今後、ある特性を持ったSSDに置き換えられていく可能性がある。背景にあるのは、NAND型フラッシュメモリの技術進化だ。鍵を握る「クアッドレベルセル」(QLC)を解説する。

2024年02月26日 08時00分 公開
[Antony AdsheadTechTarget]

 「HDDがストレージ市場から消える」という見方は、今はもう“ただの誇張”とは言えなくなった。その背景には、後述する多値化をはじめとした「SSD」の技術進化がある。中でも、HDDの役割を侵食していくと考えられるが「クアッドレベルセル」(QLC)だ。QLCがSSDにもたらしものと、HDD代替を現実的にしたQLCの進化を探る。

HDD代替を現実的にする“QLCの進化”とは

 SSDが搭載するNAND型フラッシュメモリには幾つかの記録方式があり、QLCは商用化している記録方式としては最新世代となる。QLCは1つのメモリセル(メモリ素子)に1bitではなく、それよりも多くのbit数を格納する多値化技術の一つだ。多値化する目的は、NAND型フラッシュメモリにおけるデータの記録密度を向上させることにある。

 QLCのQは、「4」を意味するクアッドの頭文字を取っている。つまりQLCは、1つのメモリセルに4bitを格納することを意味する。同じように、QLCよりも前に実用化した多値化技術に、「トリプルレベルセル」(TLC)がある。これは1つのメモリセルに3bitを格納する。

 1つのメモリセルに1bitしか記憶しない「シングルレベルセル」(SLC)の場合、読み書きの制御に用いる「しきい値電圧」は2通りとなる。これに対してQLCは、16通りのしきい値電圧を使い分けることによって、1つのメモリセルに4bitを格納することを実現している。

 NAND型フラッシュメモリは多値化が進むことで、同じ面積でより多くのデータを保存できるようになる。つまりQLCは、TLCよりも多くのデータを記録できる仕組みだ。以前はSLCや、2bitを格納する「マルチレベルセル」(MLC)がより広く使われていた。

HDDの役割をも代替するSSDの進化

 TLC、さらにはQLCのNAND型フラッシュメモリを搭載したSSDが出てきたことで、大容量を重視するSSDにはこれらの技術が一般的に使われるようになっている。特にQLCは、記録密度が向上することで容量単価の抑制にもつながるため、HDDが担ってきたデータ保存の役割を担えるSSDの技術だと目されるようになった。SSDは読み書き速度の高速性が求められる用途だけではなく、データ保存における“経済性”を重視する分野でも勢力を伸ばそうとしている。

 2024年現在、企業向けフラッシュストレージとしてはTLCのSSDを使用することが一般的になっている。これは重要なシステムを含むミッションクリティカルな用途においても同様だ。ただし主要なストレージベンダー各社が、QLCのSSDを拡充する動きが強まっており、今後はTLCの用途がQLCに置き換わると考えられる。特に、 構造化されていない、あるいは形式が定まっていないデータである非構造化データを保存する用途向けでQLCの採用が進みつつある。

 ストレージベンダーが多値化技術の開発を進めることで、SSDの記録密度は向上し、容量単価は下がる傾向にある。ただし多値化は、何の問題もなく進められるわけではない。例えば書き換え可能な回数が減少し、耐久性が下がってしまうことが懸念点の一つだ。


 次回は、フラッシュストレージ専用に開発されたストレージプロトコル「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)を解説する。

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