経営不振に陥っているIntelの新CEOリプブー・タン氏が、同社の基調講演で事業立て直しの見通しについて語った。だが、専門家はその内容に懸念を示している。
2025年3月31日、半導体ベンダーIntelはカンファレンス「Intel Vision 2025」を開催した。同年3月18日付でCEOに就任したリプブー・タン氏は基調講演で、米国を代表する半導体メーカーであるIntelを、設計や製造のイノベーターとしての原点に立ち返らせると約束した。業績不振のIntelの立て直しを目指す同氏が語った具体的な内容とは。
基調講演でタン氏は、半導体設計に人工知能(AI)を活用する計画を発表した。これは、エンジニアが訓練したAIモデルを使って複雑なタスクを自動化し、AIの処理に特化したチップの設計を加速させるといったものだ。
タン氏は「AI駆動のシステム設計を通じて、新しいアーキテクチャの設計と開発を迅速化する」とし、続けて「この変革を開始するための詳細な検討をエンジニアリングチームとともに始めている。まずはポートフォリオの再構築に着手する予定だ」と説明した。
Intelは、急成長するAIタスクの処理のために使われるプロセッサ(AI半導体)市場で後れを取っている。NVIDIAは2025年2月、同年会計年度のデータセンター部門の売上高が1152億ドルに達したと報告した。一方、2024年12月に会計年度を終了したIntelの総売上高は531億ドルだった。競争力のある製品を提供できなかったことが一因だとタン氏は説明している。
PC市場でIntelのライバルだったAMDは、AI向けGPU(グラフィックス処理装置)分野で成功を収めた結果、時価総額でIntelを上回っている。
タン氏は基調講演で、AI戦略を進めるためのリソースを確保すべく、中核事業以外の資産を整理する計画についても言及した。例えば、Intelが2015年に167億ドルで買収したプログラマブルロジックデバイス(PLD:Programmable Logic Device)メーカーAltera Corporationは、IPO(新規株式公開)もしくは完全売却のプロセスを進めている。
「私の指揮の下、Intelはエンジニアリング重視の企業となる」。タン氏が挙げた計画の3つ目だ。「イノベーションと成長を推進するエンジニアリング人材の確保と採用が、最優先事項の一つだ」と同氏は強調した。
就任から約2週間後の基調講演となったタン氏は、Intelの保守的な企業文化を「創業1日目のスタートアップ企業」のような文化に変革する意向について述べた。「社内でイノベーションを生み出す自由をエンジニアに与えることで、新しいアイデアを推進していく」と同氏は説明し、創造性を阻害する官僚主義的な組織体制を減らしていく考えを示した。タン氏は2024年、Intelの取締役を辞任した。辞任の一因には、2024年12月に同社CEOを退任したパット・ゲルシンガー氏の下にあったリスク回避的な企業文化に対する不満があった。
タン氏は、Intelのファウンドリー(半導体の受託製造)事業を、自身が「非常に高い基準」と呼ぶ水準に見合うものに再構築する意向を示した。同氏は2009~2021年まで、半導体開発ソフトウェアベンダーCadence Design SystemsでCEOを務めた経験を持つ。
タン氏によると、半導体の設計と製造の両方を手掛けるIntelは、米国のファウンドリー業界の復活に不可欠な存在だ。米国の半導体産業の強化を目的にした法律「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)により、同社は2024年、78.6億ドルの補助金と110億ドルの融資を受けている。同法は、同法が成立した2022年からの5~10年間で半導体製造や研究、人材育成に527億ドルを投じることを定めている。
タン氏は、米国のファウンドリー事業の再活性化に向けたトランプ政権との協力にも期待を示し、「共通の目標を前進させるため、緊密に連携していきたい」と述べた。
イノベーションの復活、エンジニアリングや人材確保の強化は好意的な内容だ。しかし、製造施設の開設遅れ、NVIDIAやファウンドリー企業であるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)といった資金力のある競合他社からのシェア獲得など、重要な課題への具体的な取り組み方は示されていない。
「事業の立て直しに向けた具体的な計画が示されなかったために、投資家や顧客、従業員の懸念は解消されていない」。調査会社Forrester Researchのシニアアナリスト、アルビン・グエン氏はこう指摘する。
タン氏は聴衆に対し、「この会社を愛しており、苦境に立たされているのを見るのが辛かった」という理由でCEOの職務を引き受けたと説明し、Intelの立て直しへの決意を示した。
「私は、自分に助けられる可能性があるのに傍観者でいることはできない」と述べ、「これが容易な道のりではないことも十分承知している」と付け加えた。
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