「プライベート5G」をユーザーが選ばない本当の理由プライベートネットワーク市場の半分以下

移動体通信システムをプライベートネットワークとして運用する「プライベート無線ネットワーク」の導入が進んでいるが、「5G」を使った「プライベート5G」の割合が想定よりも低いという。どういうことなのか。

2025年04月14日 05時00分 公開
[Joe O’HalloranTechTarget]

関連キーワード

IT投資 | ネットワーク


 区画ごとに基地局を設置する「セルラー方式」による移動体通信システムをユーザー組織が自営網として運用するプライベートネットワークを、「プライベート無線ネットワーク」(自営無線網)と呼ぶ。代表例が「5G」(第5世代移動体通信システム)を使用する「プライベート5G」や、「LTE」(Long Term Evolution)などの「4G」(第4世代移動体通信システム)を使う「プライベート4G」だ。

 調査会社Juniper Researchが2025年3月に公開した調査レポート「Global Private Cellular Networks Market: 2025-2030」によると、現在のプライベート無線ネットワークの世界の市場規模は57億ドルだが、2028年には122億ドルと、2倍以上に増加する見通しだ。しかし意外なことに、Juniper Researchは同レポートで、プライベート5Gが占める割合は全体の半分以下の56億ドルにとどまると予測する。それはなぜか。

「プライベート4G」で十分?

会員登録(無料)が必要です

併せて読みたいお薦め記事

連載:自営無線が企業にもたらした変化

連載:企業向け無線ネットワークの選択肢


 プライベート無線ネットワークの普及が進む主要な要因は、産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進だ。

 以下の用途では、無線LAN(Wi-Fi)よりもプライベート無線ネットワークの方が向いているという見方が存在する。

  • IoT(モノのインターネット)デバイスの導入
  • ビッグデータやAI(人工知能)技術の活用
  • 自動運搬装置(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)といった自律型移動体の利用

 近年、プライベート無線ネットワークの市場規模の拡大は緩やかだったが、さまざまな企業が導入を検討しており、今後の大幅な拡大が期待できる。具体的な数字として、過去4年間で約2500局のプライベート無線ネットワークが新規導入されたが、Juniper Researchは今後2年間で約3000局が新設されると予測する。レポートではこの動きが移動体通信事業者(MNO)やネットワーク事業者にとってプライベート5Gサービスを収益化するチャンスになると指摘している。

 しかし、企業が導入するプライベート無線ネットワーク全体の内訳として、プライベート5Gが占める割合は高くない。前述の通り、Juniper Researchは2028年のプライベート無線ネットワーク市場において、プライベート5Gのシェアは全体の半分以下と予測する。

 プライベート4Gと比較して、プライベート5Gには以下の優位性がある。

  • 通信速度が速い
  • 通信容量が大きい
  • 通信遅延が少ない
  • 信頼性が高い

 しかしあるアナリストは「現状はプライベート4Gはほとんどのユーザー組織の需要を満たしているため、プライベート5Gは不要と判断されるケースが多く、今後の成長もあまり期待できない」と分析する。プライベート4Gは運用コストが低い上に、製造や物流などの多くの現場において、必要な接続性を十分に確保でき、引き続きの成長が見込まれる。

NaaSの台頭

 この調査では、プライベート無線ネットワークの成長の要因として、ネットワークやそのインフラをサブスクリプション形式で利用する「NaaS」(Network as a Service)を挙げる。NaaSモデルで提供されるプライベート無線ネットワークは、迅速な拡張性に優れ、コスト効率も高い。NaaS型のプライベート無線ネットワークなら、ユーザー企業は、初期投資や運用コストを抑えつつ容易に利用できる可能性がある。

 レポートの著者であるミシェル・ジョインソン氏は「市場拡大に伴い、ベンダーはプライベート無線ネットワークを導入したい企業を引き付けるために、NaaSなどの柔軟な提供モデルを用意すべきだ」と語る。

(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国Informa TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VPNが「もはや時代遅れ」であるこれだけの理由

VPN(仮想プライベートネットワーク)は、セキュリティの観点から見ると、もはや「安全なツール」とは言い切れない。VPNが抱えるリスクと、その代替として注目されるリモートアクセス技術について解説する。

製品資料 アルテリア・ネットワークス株式会社

VPNの3つの課題を一掃する、次世代インターネットVPNサービスの実力

インターネットVPNサービスの市場規模は増加傾向にあるが、パフォーマンスやセキュリティなどの課題が顕在化している。VPNの利用状況などのデータを基にこれらの課題を考察し、次世代インターネットVPNサービスの利点と可能性を探る。

製品資料 株式会社インターネットイニシアティブ

自治体がMicrosoft 365を利用する際に検討したい、専用回線の導入という選択肢

企業だけではなく自治体でもクラウド活用が進んでいる昨今。中でも業務利用が多いMicrosoft 365には、Microsoft Teamsなど高速かつ安定した回線を必要とするサービスがある。それらを快適に利用するにはどうすればよいのか。

市場調査・トレンド ゼットスケーラー株式会社

ファイアウォールとVPN中心のセキュリティアプローチは危険? 4つの理由を解説

代表的なセキュリティツールとして活用されてきたファイアウォールとVPNだが、今では、サイバー攻撃の被害を拡大させる要因となってしまった。その4つの理由を解説するとともに、現状のセキュリティ課題を一掃する方法を解説する。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

複雑化したネットワークシステム、クラウド並みのアジリティを確保するには?

顧客や従業員のエクスペリエンスを向上させるとともに、インベーションを促進するには「アジリティ」の強化が鍵となる。しかし昨今、組織のネットワークは複雑化が著しく、アジリティの確保すら難しい。そこで求められるのが「簡素化」だ。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...