無線LANが“いつも正解”じゃない あえて「LTE」を使う理由はこれだ企業向け無線ネットワークの選択肢【前編】

無線のプライベートネットワークとしては無線LAN(Wi-Fi)が一般的だが、プライベートLTEも企業にとって現実的な選択肢となっている。プライベートLTEの特徴を解説する。

2024年04月19日 08時00分 公開
[David JacobsTechTarget]

関連キーワード

Wi-Fi | IEEE | ネットワーク


 企業が利用するプライベートネットワークに、新しい選択肢が出てきた。従来は無線LAN(Wi-Fi)以外のプライベートネットワークの導入は、専門性が求められることから現実的な選択肢ではなかった。しかし「LTE」(Long Term Evolution)を自社で運用する「プライベートLTE」といったプライベートネックワークを導入する方法が台頭し、一部の業界で普及し始めている。プライベートLTEと無線LANと比較しつつ、プライベートLTEの特徴を確認しよう。

無線LANではなく「LTE」を使う理由はこれだ

会員登録(無料)が必要です

 プライベートLTEのメリットは、他のユーザーからの干渉がほとんどないことだ。携帯電話網でも使われるLTEを、企業や官公庁などが自前で基地局装置を設置して、自組織用に運用する。そのため、さまざまな端末が利用する無線LANと違って通信の安定性が向上し、遅延を抑えることが可能だ。

 日本では、プライベートLTEは2種類の方式がある。1つ目は1.9GHz帯を免許不要で利用する「sXGP」(shared Xtended Global Platform)だ。下りの最高速度は約10Mbpsで、1つの基地局から半径を30~200メートル程度カバーする。企業や病院などの利用に適している。

 2つ目は免許が必要な2.5GHz帯を利用する「BWA」(Broadband Wireless Access:広帯域移動無線アクセス)だ。下りの最高速度は200Mbps程度で、1つの基地局で半径2~3キロ程度をカバーする。地域や大学などでの利用に適している。

米国のプライベートLTE事情

 米国ではプライベートLTEの帯域は、連邦政府から購入するか、通信事業者からレンタルすることで利用できる。この時、プライベートLTEに必要な機器を販売またはレンタルで提供する通信事業者も存在する。

 米国政府は軍が利用していた3.5GHzの周波数帯のうち150MHzの帯域幅を「市民ブロードバンド無線サービス」(CBRS)として2020年から民間に開放している。

 ただし、CBRSを利用するプライベートLTEには制約がある。具体的にはアクセスのレベル(周波数帯を使うための優先順位)を3つに分類しており、数字が低いほど優先される。

  • 1.既存ユーザー
    • もともとの利用者である米海軍や固定衛星などが利用する。このユーザーは150MHzの帯域を全て利用可能で、最も優先的に利用できる。
  • 2.優先アクセスライセンス(PAL)
    • 電波オークションで周波数の使用権を購入したユーザーによる利用。3550~3650MHzの100MHzの帯域幅から10MHz単位で購入する。
  • 3.一般認可アクセス(GAA)
    • ライセンスを取得していない企業や個人が無料で利用できる。3550~3650MHzからPALが未使用の帯域と、GAA専用帯域として割り当てられた3650~3700MHz(50MHz幅)が利用できる。

 PAL及びGAAへのチャネル(データ送受信用の周波数帯)は、「スペクトラムアクセスシステム」(SAS)によって動的に割り当てられる。SASはCBRS帯域内の帯域幅を管理するために生まれたデータベースだ。CBRSの電波を利用するシステムは、アクティブになる前にSASと通信してアクセスを要求する必要がある。SASは、全てのアクティブなシステムと連絡を取り続け、使用中の全ての回線を監視して、アクセスを要求するシステムに帯域幅を割り当てる。このプロセスは、他のアクティブなシステムからの干渉を防ぐのに役立つ。

 デバイスがネットワークを利用する場合、無線LANはパスワードでアクセスを管理するが、LTEはユーザーの情報を保存したSIMカードが必要になる。SIMカードによってデバイスのなりすましを防ぎやすくなる一方で、利用できる端末は限られる。


 次回は無線LANの特徴をプライベートLTEと比較させながら解説する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VPNが「もはや時代遅れ」であるこれだけの理由

VPN(仮想プライベートネットワーク)は、セキュリティの観点から見ると、もはや「安全なツール」とは言い切れない。VPNが抱えるリスクと、その代替として注目されるリモートアクセス技術について解説する。

製品資料 アルテリア・ネットワークス株式会社

VPNの3つの課題を一掃する、次世代インターネットVPNサービスの実力

インターネットVPNサービスの市場規模は増加傾向にあるが、パフォーマンスやセキュリティなどの課題が顕在化している。VPNの利用状況などのデータを基にこれらの課題を考察し、次世代インターネットVPNサービスの利点と可能性を探る。

製品資料 株式会社インターネットイニシアティブ

自治体がMicrosoft 365を利用する際に検討したい、専用回線の導入という選択肢

企業だけではなく自治体でもクラウド活用が進んでいる昨今。中でも業務利用が多いMicrosoft 365には、Microsoft Teamsなど高速かつ安定した回線を必要とするサービスがある。それらを快適に利用するにはどうすればよいのか。

市場調査・トレンド ゼットスケーラー株式会社

ファイアウォールとVPN中心のセキュリティアプローチは危険? 4つの理由を解説

代表的なセキュリティツールとして活用されてきたファイアウォールとVPNだが、今では、サイバー攻撃の被害を拡大させる要因となってしまった。その4つの理由を解説するとともに、現状のセキュリティ課題を一掃する方法を解説する。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

複雑化したネットワークシステム、クラウド並みのアジリティを確保するには?

顧客や従業員のエクスペリエンスを向上させるとともに、インベーションを促進するには「アジリティ」の強化が鍵となる。しかし昨今、組織のネットワークは複雑化が著しく、アジリティの確保すら難しい。そこで求められるのが「簡素化」だ。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...