AI向け半導体市場で苦境に立つIntelは、AIアクセラレーター「Falcon Shores」の開発中止に踏み切った。NVIDIAとAMDが席巻する市場での復活を目指し、Intelは失敗から何を学び、どのような方針を打ち出したのか。
Intelは2025年1月、2024年度第4四半期(10~12月)および通期の決算を発表した。AI(人工知能)向け半導体市場で主導権を握るNVIDIAとAMD(Advanced Micro Devices)に後れを取る中、同社は製品戦略の見直しを余儀なくされている。“肝いり”のAIアクセラレーター(AI関連処理を高速化するために特別に設計されたハードウェア)「Falcon Shores」の開発中止を決定し、別製品に注力する新たな方針を打ち出した。Intelが直面している苦境と、乗り越えるために打ち出した戦略を取り上げる。
2024年度第4四半期におけるIntelの売上高は、2023年度同期比7%減の143億ドルとなった。これはアナリストの予測を上回る数字だったものの、2025年度第1四半期(1~3月)の売上高見通しである117億~127億ドルはアナリストの予想を下回った。
それでもIntelの2024年度第4四半期決算は投資家を満足させたようだ。決算発表のタイミングで、同社の株価は時間外取引で約3%上昇した。
「2024年度第4四半期は、困難な年を締めくくる堅実な四半期となった」。Intelの暫定共同CEO(最高経営責任者)を務めるデービッド・ジンスナー氏は、同じく暫定共同CEOのミシェル・ジョンストン・ホルトハウス氏と共に臨んだ決算発表でそう述べた。同社の2024年度通期の売上高は3年連続の減収となり、株価は2024年の1年間で50%以上下落した。
Intelの業績不振は、大規模データセンターでAIモデルを実行するための半導体チップに対する市場の需要拡大に、的確に応えられていないことに起因している。同社は2024年8月、2024年末までに従業員の15%に当たる1万5000人を削減すると発表し、2025年の設備投資を100億ドル削減するという目標を設定した。同年12月には前CEOのパット・ゲルシンガー氏を解任し、ホルトハウス氏とジンスナー氏を暫定共同CEOに任命した。ホルトハウス氏とジンスナー氏は決算発表の際に、正式なCEOの人選には触れなかった。
決算報告の場において、IntelはAI技術用の計算処理を担うAIアクセラレーター「Falcon Shores」(開発コードネーム)の市場投入を中止することも発表した。今後は、データセンター向け市場でより高い競争力を発揮できると見込んだ、次世代チップ「Jaguar Shores」(開発コードネーム)に注力する計画だ。
AIモデルの推論とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC:高性能計算)向けGPU(グラフィックス処理装置)であるJaguar Shoresに、AI技術向け半導体開発の取り組みを集中させる方針をIntelは示す。同社は先進的な半導体製造プロセス「Intel 18A」を使用して、Jaguar Shoresを製造する可能性がある。
IntelはJaguar Shoresによって、AI向け半導体市場で競合しているNVIDIAとAMDを猛追したいと考えている。この市場への進出にまだ成功していないからだ。ホルトハウス氏によれば、Intelのデータセンター向けAIアクセラレーター「Intel Gaudi」は“期待外れ”の売れ行きだった。
「われわれがIntel Gaudiから学んだのは、半導体チップを提供するだけでは不十分であり、ラック単位で必要なものを全て備えた製品を提供すべきだということだ」とホルトハウス氏は説明する。Intel Gaudiの後継として開発していたFalcon Shoresはそのような製品ではなく、企業の需要がなかったとIntelは判断したというわけだ。
ホルトハウス氏は、Jaguar Shoresの提供開始時期には言及しなかった。アナリストは2026年以降になるとみる。Intelは、当初Falcon ShoresをCPU(中央処理装置)とGPUのハイブリッド製品として設計する計画だったが、GPUのみの製品に設計変更した。
AIアクセラレーターの提供を打ち切ることは「荒療治」だと調査会社Forrester Researchのアナリストであるアルビン・グエン氏は指摘する。グエン氏の見方では、急成長するAI向け半導体市場において、NVIDIAのように既に地位を確立したベンダーや、AMDのように勢いのある競合他社に、弱い製品で太刀打ちすることは困難だ。
Intelが収益を回復できるかどうかは、NVIDIAやAMDに対する巻き返しにかかっている。NVIDIAは、最先端のAIアクセラレーターでハイパースケールデータセンター(大規模なデータセンター)向け市場を牛耳っており、AMDはデータセンターとPC向けの市場で好調だ。
「当社はデータセンター向け市場でのシェア低下の流れを食い止めなければならず、そのためにAIアクセラレーター事業で半導体製品の拡販に尽力する」とホルトハウス氏は語る。
ホルトハウス氏によれば、Intelのデータセンター向けプロセッサ「Xeon」は、競合するAMD製品との売上成長率の差を縮めている。現行Xeonの後継機になる「Diamond Rapids」(開発コードネーム)でも、この傾向が続く見通しだという。
Intelの半導体受託製造(ファウンドリー)事業を担う独立子会社Intel Foundryも“金食い虫”になっている。Intelはこの事業で、競合他社を含むサードパーティーの半導体設計企業から製造委託を受ける方針だ。だがIntel幹部も、これらの企業との関係構築には時間がかかることを認めている。
今のところ、Intel Foundryは主にIntelの半導体製品を製造することで、2027年には損益の帳尻を合わせられる見通しだ。Intelの全製品を統括するホルトハウス氏は、Intel FoundryのIntel 18Aを使用して、ノートPC向けプロセッサ「Panther Lake」(開発コードネーム)を製造することを確約している。Intelは2025年後半にPanther Lakeを市場に投入する予定だ。
一方でホルトハウス氏は、Panther Lakeの後継の「Nova Lake」(開発コードネーム)については、Intel Foundryを通じて製造することを確約していない。Nova Lakeは2026年に提供開始の見込みだ。
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