「Intel敗北」の原因はやはりあれ? なぜ王者は転落したのかIntel衰退への道のり【前編】

近代のコンピューティング市場において支配的な地位を保っていたはずのIntelは、なぜこれほどまでに衰退したのか。歴史を振り返りながら、衰退の理由を考える。

2025年02月04日 07時15分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

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 Intelはコンピュータ発展の歴史において非常に重要な役割を果たしてきた半導体ベンダーだ。その同社の市場価値は、今やNVIDIAやAdvanced Micro Devices(AMD)といった同業を大きく下回っている。Intelはなぜこれほどまで劇的に衰退したのか。同社の台頭の歴史を振り返りつつ、衰退が始まった理由を考える。

「Intelの敗北」はどこから始まったのか

 1968年、ゴードン・ムーア氏とロバート・ノイス氏がIntelを創設した。社名は「integrated electronics」(統合エレクトロニクス)を由来とする。同社は1980年代にCPUアーキテクチャ「x86」を開発し、このアーキテクチャは数十年にわたりコンシューマー向けアプリケーションや、多数のビジネス向けアプリケーションを支える標準となった。

 同社のハードウェアポートフォリオはコンシューマー向けと企業向けのCPUを中心に、メモリやストレージ、ネットワーク分野にまで及ぶ。自社ハードウェアをサポートするソフトウェアの開発や、オープンソースソフトウェアの開発にも貢献している。

 近年、Intelは厳しい競争に直面し、衰退への道のりが始まった。ライバルの半導体企業Advanced Micro Devices(AMD)もx86アーキテクチャのCPUを製造し、処理性能の高さによってIntelのシェアを積極的に奪おうとしている。

 Armをはじめとする他の半導体アーキテクチャが勢力を増していることもIntelの弱体化に拍車を掛けている。GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーのNVIDIAが人工知能(AI)分野で支配的な地位を獲得したことも、Intelにとっては大きな痛手となっている。

 市場の厳しさがIntelに打撃を与えている。同社の株価はじりじりと下がり続け、2024年単年でも50%以上の下落を記録している。2024年11月、ダウ平均株価の対象からIntelが除外され、代わりにNVIDIAが採用された。NVIDIAは株価がIntelよりも高く、半導体業界の代表としてよりふさわしいと信用格付け企業S&P Globalの幹部が判断した結果だ。その後の同年12月、Intelの取締役会が業績不振の方向性のリセットを求め、CEOのパット・ゲルシンガー氏が退任に追い込まれた。

Intelの台頭

 Intelは瞬く間にトップへ躍り出たわけではない。数十年の間に重要な出来事やイノベーションを経験した結果が同社の成功につながっている。

1971年

 初のCPU「Intel 4004」を開発するも、当初成功を収めたのは半導体メモリSRAM(Static Random Access Memory、静的RAM)とDRAM(Dynamic Random Access Memory、動的RAM)だった。

1981年

 IBMが自社PCのプロセッサとしてIntelの「Intel 8088」を選んだことで、初期最大の成功体験を得る。

1982年

 独立したデータバスとメモリ管理機能を持つ「Intel 80286」(通称「286」)プロセッサを発表。

1985年

 「Intel 80386」(通称「386」)を発表。これはIntel初の32bitアーキテクチャのマイクロプロセッサで、管理可能なメモリは4GBだった。

1989年

 「Intel 80486」(通称「i486」)をリリースし、CPUの処理性能がさらに強化された。統合機能やオンチップキャッシュを特徴とし、100万個以上のトランジスタを集積する初のx86プロセッサとなる。

1991年

 Intelプロセッサ搭載PCを宣伝するマーケティングキャンペーン「Intel Inside」を展開し、テレビCMが社会現象となり、このキャンペーンがきっかけとなりCPUの存在やPC内部についての理解が進む。

1993年

 自社プロセッサのブランド名を「Pentium」に変更。

1998年

 サーバ向けのプロセッサライン「Xeon」を発表。

1999年

 IntelとMicrosoft(通称「Wintel」)がダウ平均株価に追加される。

2005年

 Macintosh(Mac)にRISC(Reduced Instruction Set Computing)アーキテクチャのプロセッサ「PowerPC」を使用していたAppleが、Intelのx86プロセッサに乗り換え、IntelとAppleとの15年にわたるパートナーシップが始まる。

Intel衰退の始まり

 Intelは初期のPC市場において成功を収めたものの、成長分野と新たな有望市場を素早く判断できなかったことで衰退が始まった。

 モバイルコンピューティングの黎明(れいめい)期である2000年代初頭、Intelは他社より優位に立つ絶好のチャンスがあった。2007年、スマートフォン「iPhone」用のCPUの供給をAppleから求められたが、当時のCEOポール・オッテリーニ氏はiPhoneの大成功を予測できずこの要求を断ってしまった。結局、AppleはArmのCPUを採用したため、現在のモバイルデバイス分野ではArmが支配力を高めている。

 Intelの衰退は、市場での競争が激化していることの証左でもあり、競合する半導体企業はさまざまな分野でIntelを追い抜こうと奮闘している。2017年、AMDはプロセッサ新ブランド「Ryzen」を発表し、当時において同等のIntelプロセッサに匹敵するか、それを上回る処理性能をより安価に提供した。

 加えて、Intelは半導体製造において小型化と効率化に苦戦し、強さを発揮できずにいた。その結果、台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)や韓国のSamsung Electronicsなどの競合企業が半導体製品の製造能力でIntelに挑戦することを許してしまった。


 次回はIntelの衰退が決定的になった理由を考える。

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