無線LAN規格「Wi-Fi 7」に関心が集まらないこれだけの理由Wi-Fi 7の光と影【後編】

Wi-Fi 7の製品は既に市場に出回っている。だがその導入はまだ広がっていない。企業はなぜWi-Fi 7を導入しないのか。調査会社ESGによると、企業のWi-Fi 7移行にはさまざまな課題がある。

2024年12月03日 05時00分 公開
[Deanna DarahTechTarget]

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 無線LAN規格の「IEEE 802.11be」(Wi-Fi Allianceの認証規格では「Wi-Fi 7」)に準拠した無線LANアクセスポイント(AP)やクライアントデバイスは、市場に出回っている。Wi-Fi 7は既に利用できるにもかかわらず、企業が直ちにWi-Fi 7に移行する様子は見受けられない。米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のプリンシパルネットワーキングアナリストであるジム・フレイ氏は、「企業のWi-Fi 7への移行を遅らせるさまざまな課題が存在する」と指摘する。企業がWi-Fi 7に移行しない理由とは何か。

なぜ企業はWi-Fi 7に興味を持てないのか

 標準化団体IEEE(米電気電子技術者協会)によるIEEE 802.11beの標準化はまだ完了していない。しかし、「2022年前半に策定したWi-Fi 7のドラフト版の仕様に基づいて、Wi-Fi 7に準拠した製品が市場に出回っている」とフレイ氏は語る。

 各無線LANベンダーは、Wi-Fi 7の機能や特長を活用できる以下の製品を出荷している。

  • ルーター
  • アダプター
  • AP
  • チップセット(集積回路の集まり)

 しかし、企業によるWi-Fi 7の導入は限られている。ESGの調査によると、「IEEE 802.11ac」(Wi-Fi 5)や「IEEE 802.11ax」(Wi-Fi 6)などの無線LANを利用している企業は、あくまで自社が保有している各ハードウェアの更新サイクルに合わせて無線LANの変更を計画している。

 2023年5月、無線LANの業界団体Wi-Fi Allianceは同年出荷されるWi-Fi を利用できるクライアントデバイスのうち、Wi-Fi 7に準拠したクライアントデバイスが全体の0.4%になると予測した。2024年5月には、2024年末までにWi-Fi 7準拠クライアントデバイスの割合が5.7%に増加し、総出荷量が2億3140万台になるとの予測を公表した。同団体の予測では、無線LAN機器ベンダーは2024年中に2300万台以上のWi-Fi 7準拠APを出荷する。

 これらの数字を一見すると、Wi-Fi 7は順調に普及している。だが、他のWi-Fi 規格に比べると少ない。Wi-Fi 6および拡張版の「Wi-Fi 6E」が依然として無線LAN市場では主役だ。

Wi-Fi 7の導入を阻むもの

 Wi-Fi 7の導入を妨げる幾つかの要因を以下に挙げる。

前世代のWi-Fi準拠デバイスが現役

 企業がWi-Fi 7導入をためらう理由の一つとして「企業がWi-Fi 6Eなど前の規格をまだ活用しているためだ」とフレイ氏は語る。Wi-Fi 6Eは、Wi-Fi 6の通信速度、通信容量、カバレッジ(伝送範囲)を改善し、2021年に拡張版として発表された。標準化されてから数年たっているが、ほとんどの企業にとって十分な能力を備える。

 「Wi-Fi 6Eが自社のニーズを満たしているなら、Wi-Fi 7を急いで導入する必要性はない」とフレイ氏は語る。

Wi-Fi 7に準拠したクライアントデバイスがまだ十分に普及していない

 Wi-Fi 7に準拠したデバイスの種類や数が不足していることが、企業のWi-Fi 7導入を妨げている。無線LANを利用するクライアントデバイスの大半はまだWi-Fi 7に準拠していない。もしWi-Fi 7を導入したくても、準拠しているクライアントデバイスの入手が難しい。

 とはいえ、Wi-Fi 7に準拠したクライアントデバイスの数は増え続けている。さらに、Wi-Fi には後方互換性があり、前世代のWi-Fiも使用できる。Wi-Fi 7に準拠したデバイスはWi-Fi 6EまでのWi-Fi規格で通信可能だ。「Wi-Fi 7APを導入すれば、前世代のWi-Fiにしか準拠していないクライアントデバイスでも接続できる」(フレイ氏)

Wi-Fi 7の技術が複雑

 Wi-Fi 7は新しい規格であり、導入するには専門的な知識が必要で、それが普及の妨げになっている可能性がある。

 歴代のWi-Fi規格の中でも、Wi-Fi 7で起きた変化は著しい。1つの無線LANデバイスで異なる複数の周波数やチャネル(データ送受信用の周波数帯)で同時にデータを送受信する「マルチリンクオペレーション」(MLO)や、16×16の「MU-MIMO」(マルチユーザーMIMO)などの新しい技術を導入している。これらの技術を新たに理解し、適切にパラメーターを設定して、既存のネットワーク環境に組み込むことはエンジニアにとって容易ではない。

 特にMLOは複数の無線帯域を同時に管理するため、各帯域のチャネル設定、出力などさまざまなパラメーターを調整する必要がある。「Wi-Fi 7の技術は単純ではない。エンジニアも学習する必要がある」とフレイ氏は語る。

Wi-Fi 7の採用は時間とともに進む

 IEEEはまだWi-Fi 7の標準化を完了していない。標準化が完了すれば、より多くのベンダーがWi-Fi 7に準拠した製品を企業向けに提供する可能性がある。しかし、全ての企業がWi-Fi 7を必要とするとは限らない。

 大半の企業は、APなどを更新する時期に合わせてWi-Fi 7を導入するだろう。だが、「Wi-Fi 6をまだ導入していない企業は、更新時期が来てもWi-Fi 6に準拠したAPを購入する可能性がある」とフレイ氏は語る。

 Wi-Fi 7は後方互換性があるため、企業にはWi-Fi 7に準拠したAPを導入し、徐々に各クライアントデバイスもWi-Fi 7に準拠したものに移行するという道もある。「企業ごとに、APの更新時期やWi-Fi 7を導入するニーズがあるかによって選択は異なるだろう」(フレイ氏)

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