本命はやはりHyper-V? VMware代替を促す「Windows Server 2025」4大機能ハイパーバイザーの選択肢が変わる【前編】

Microsoftは2024年11月、サーバOSの新バージョン「Windows Server 2025」の一般提供を開始。VMwareのサーバ仮想化製品の代替候補として「Hyper-V」が挙がる中、どのような機能が強化されたのか。

2024年12月04日 07時00分 公開
[Ed ScannellTechTarget]

 Microsoftは2024年11月、ハイパーバイザー「Hyper-V」を搭載するサーバOSの新バージョン「Windows Server 2025」の一般提供を開始した。Broadcomが2023年11月に仮想化ソフトウェアベンダーVMwareを買収し、その後の事業再編を受けてユーザー企業の間に不安感が広がる中、Microsoftにとってはこれ以上ないシェア拡大の好機が訪れている。VMware製品から移行するニーズを取り込むために、Microsoftが用意したのはどのような機能なのか。

VMware代替もより現実的になる「Windows Server 2025」4大機能

 Microsoftは、後述するWindows Serverの新機能だけではなく、VMware製品からの移行を促す複数の手段を用意している。その一つが、同社が2024年5月に発表した移行支援策プラン「VMware Rapid Migration Plan」だ。同プランは、VMware製品からMicrosoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」(以下、Azure)に移行するユーザー企業に対して割引を提供している。

 オンプレミスにインフラを配置しつつ、クラウドサービスと連携するハイブリッドクラウドを必要とする企業向けには、MicrosoftはHCI(ハイパーコンバージドインフラ)の「Azure Stack HCI」を用意している。こうして複数の選択肢が用意されていることに加え、VMware製品のライセンス体系改定によるコスト増などを背景にした心理的なマイナス要因が相まって、Microsoftに有利な状況が生まれる可能性がある。

 調査会社Gartnerのアナリストであるポール・デロリー氏は、「BroadcomがVMwareを買収して以来、VMware代替案について尋ねてくる電話が鳴り止まない」と言う。その相談の中では、代替案としてHyper-Vの名前がよく挙がっている。

Windows Server新機能でMicrosoftのシェア拡大も?

 歴史的に見れば、VMwareは2001年にハイパーバイザー「VMware ESX Server」(後のVMware ESXi)を発表し、実質的に「x86」サーバ仮想化市場を確立して以来、仮想化の業界標準となっている。VMwareは先行者としての優位性を生かしてユーザー企業やパートナーのコミュニティーを構築した。

 一方のMicrosoftは2004年、「Microsoft Virtual Server」(以下、Virtual Server)でサーバ仮想化市場に参入した。基本的な仮想化の機能を提供するものだったVirtual Serverは、2008年に機能を進化させたHyper-Vに取って代わられ、廃止となった。Hyper-Vは提供開始当初、VMwareの機能豊富な製品に太刀打ちできず苦戦した。だが、Microsoftは着実にハイパーバイザーを改善し、一連の機能強化によってVMware製品の代替案を提供してきた。

 Windows Serverの最新版となるWindows Server 2025では、何が強化されたのか。

GPUパーティショニング

 注目すべき追加機能の一つは、GPU(グラフィックス処理装置)パーティショニング機能だ。この機能は、特にエンジニアリングやデータ分析関連の分野で、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)やAI(人工知能)技術のアプリケーションを実行する組織にとって重要だ。

 GPUパーティショニングによって、GPUのリソースを仮想化して割り当てることが可能になる。GPU仮想化自体は画期的な機能ではないが、「仮想化分野でより競争力を持つには必要な機能であり、VMwareの仮想化製品と同等のことができるようになることは重要だ」とデロリー氏は述べる。

 調査会社Futurum Groupのチーフテクノロジーアドバイザーであるキース・タウンゼント氏は、「GPU仮想化はVMwareが革新的な機能で業界を先導し、優位性を維持するのに役立った一例だ」と述べる。例えばGPUベンダーNVIDIAの仮想化機能の多くは、VMwareとのパートナーシップによって生み出されている。

動的プロセッサ互換モード

 Windows Server 2025では、2つのクラスタ間で仮想マシン(VM)をライブマイグレーションする際の課題にも対処している。以前は送信元と送信先のホストシステムのCPUが同一でない場合、送信先サーバにおける新しいCPU機能を十分に活用できないため、VMの処理性能が低下する可能性があった。MicrosoftはWindows Server 2025で動的プロセッサ互換モードを導入する。Hyper-Vはホスト間でCPUを自動的に比較し、それぞれのプロセッサが同一でなくても、両方のプロセッサをサポートするCPU機能を使用する。

ホットパッチ

 Windows Server 2025では「ホットパッチ」機能が拡張されたことが大きな注目を集めている。ホットパッチとは、システムを再起動することなくセキュリティ更新プログラムを適用できる機能だ。ホットパッチは「Windows Server 2022 Datacenter Azure」エディションで初めて搭載されたものであり、“全くの新機能”というわけではない。ただしそれがより広く別のエディションでも使えるようになることは、Hyper-Vへの移行を促す材料の一つとなり得る。

 コンサルティング会社TriCon Elite Consultingのプリンシパルコンサルタントであるデイブ・カウラ氏は、「サイバーセキュリティの観点から見ると、当社の顧客のほとんどはまるでメリーゴーラウンドから降りられない状態に陥っている」と話す。業務のほとんどがセキュリティ対応に集中する結果として、イノベーションを創出することなど他のプロジェクトに取り組む時間がなくなってしまうのだという。そうしたユーザー企業は、「ホットパッチ機能が使えることを歓迎している」とカウラ氏は言う。

フェイルオーバークラスタ

 Windows Serverの新バージョンでは、ID・アクセス管理システム「Active Directory」のドメインを必要とせずにフェイルオーバークラスタ(複数のサーバを束ねて障害時に切り替える構成)を構築するためのワークグループクラスタも導入される。これにより、小規模組織やエッジコンピューティング環境での導入と管理が簡素化される。

移行に苦戦するMicrosoft

 こうした新機能があるものの、MicrosoftはVMwareの確立された地位と広範なエコシステムを切り崩すことに苦労するだろう。Microsoftは過去にも、パートナーシップや買収、新技術を通じてVMwareからシェアを奪おうと繰り返し試みてきた。しかし大きな進展を見せることができず、最終的には協調と競争の関係に落ち着いた。結果的に両社は友好的な関係を維持し、お互いの技術をサポートしてきた。


 次回は、Broadcomの戦略を含めて仮想化ソフトウェアの市場がどう動く可能性があるのかを考える。

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