事業が止まってからでは遅い 知っておくべき「DR」基礎用語7選DR用語27選【前編】

災害やサイバー攻撃でシステムが停止した際、DR(災害復旧)用語の理解不足が復旧の大きな障壁になり得る。知っておかないと現場で混乱しかねない、7つのDR用語を解説する。

2025年03月25日 07時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

 業務の中断や停止に備え、企業が復旧のために取る対策をDR(災害復旧)と呼ぶ。IT分野では特に、データ、サービス、ITインフラの復旧を意味する。

 危機的状況では、明確なコミュニケーションが不可欠だ。DRには幅広い取り組みと技術が関わるため、作業を担当する従業員同士でDR関連の用語について共通の認識を持っておくことが重要になる。用語に対する共通認識があれば、問題を迅速して復旧作業を進めたり、関係者に状況を的確に伝えたりできるようになる。本連載は、DRを計画、実行する上で、IT担当者、DR担当者、管理職が理解しておくべき主要なDR用語27個を紹介する。

知っておくべきDR用語

1.バックアップ

 ストレージの障害に備え、データ、アプリケーション、システム設定などを別のストレージにコピーしておくことを指す。主に3種類の方法がある。

  1. フルバックアップ
    • 前回のバックアップからの変更にかかわらず、指定した全てのデータをバックアップする。
    • 完全なコピーなので、復元作業が比較的単純。
    • バックアップに時間がかかり、データ容量がかさむので、週ごとや月ごとなど、頻度を考慮して実行する。
  2. 増分バックアップ
    • 前回のフルバックアップまたは増分バックアップ以降に変更されたデータのみをバックアップする。
    • 他のバックアップ方法と比べてバックアップ時の処理は少なくなりやすいが、復元時は複数のバックアップデータを順次適用するため時間がかかる。
    • 週1回のフルバックアップと、それ以外の各日の夜に増分バックアップする、といった運用が一般的。
  3. 差分バックアップ
    • 前回のフルバックアップ以降に変更されたデータをバックアップする。
    • 増分バックアップより時間がかかり、データ容量も多くなるが、フルバックアップよりは効率的。
    • 最新のフルバックアップと最新の差分バックアップの2つで復元できるため、最新のフルバックアップとそれ以降の全ての増分バックアップを使って復元するよりも手早く作業を終えられる。一般的に復元スピードを重視する場合、差分バックアップを採用する。

2.事業継続性

 災害発生中および発生後に事業を運営し続ける能力を指す。事業継続計画(BCP)の策定時には、起こり得る問題と障害が発生し得る箇所の特定に加え、許容できるダウンタイム(停止時間)に関するサービスレベル契約(SLA)など、法的要件を確認しよう。事業継続性では、データとITインフラの完全な復旧よりも、業務の継続を優先する。DRとまとめて「事業継続性およびディザスタリカバリー」(BCDR)と呼ぶこともある。

3.ビジネスインパクト分析(BIA)

 危機や災害が業務に与え得る影響を評価するプロセスを指す。社内担当者、もしくは社外のコンサルタントがデータを収集し、結果を評価する。その結果に基づいて、既存のDR計画に加えるべき改善について経営幹部と協議する。

4.クライシスコミュニケーション

 危機や災害時において、従業員、利害関係者、一般市民、その他の関係者に情報を開示することを指す。現在は自動緊急通知システムを使用し、状況を公開することが一般的だ。

5.DRaaS(Disaster Recovery as a Service)

 事業を継続させるために、DRに必要な機能をまとめたクラウドサービスを指す。自社でフェイルオーバー(待機系への切り替え)の仕組みを構築することとの費用対効果を考え、DRaaSを選択するかどうかを決めるとよい。

6.DR計画

 危機や災害時における業務復旧手順の計画書を指す。洪水やサイバー攻撃など特定の危機に特化したDR計画を策定する企業もあるが、一般的には危機の種類を問わない、オールハザード型のDR計画を策定する。DR計画書には通常、目的と目標、重要なパスワードと認証情報、従業員の連絡先情報、備えるべきリスク、メディアへの応対方法を記載する。過去にDR計画を使用したことがある場合は、その際のデータも含めるとよい。

7.DRサイト

 危機や災害時にデータを引き継ぎ、業務をする物理的な代替拠点を指す。主に以下の3種類がある。

  1. ホットサイト
    • 全ての業務を中断することなく引き継げる拠点。
    • 通常、本社とは別の重要拠点をホットサイトとして使用する。
    • 採用を検討する際は、即時切り替えの必要性や費用対効果を踏まえて見極めることが必要になる。
  2. ウォームサイト
    • 一部の機能のみ準備された拠点。業務を引き継ぐ際に、人員や機器の移動、手作業での構成と設定をする必要がある。
    • 通常、既存の重要拠点を使用する。
    • ホットサイトよりも費用を抑えやすいが、業務再開までには時間がかかりやすい。
  3. コールドサイト
    • 業務を引き継ぐ前に機器の補充と構成、設定が必要な、最小限のITインフラのみを備える代替拠点。
    • ホットサイトやウォームサイトよりも費用を抑えられるが、緊急時の利用開始には労力が必要になる。

 次回は、8〜15個目の用語を解説する。

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