「DRaaS」と「クラウドDR」はDR(ディザスタリカバリー)を実現するという最終的な目標は同じだが、それぞれ異なる長所と短所がある。両者は何が違うのか。
主要なバックアップベンダーは、クラウドサービスを使ったDR(ディザスタリカバリー)サービスを何らかの形で提供している。DRを実現する手段である「クラウドDR」と「DRaaS」(Disaster Recovery as a Service)は、クラウドサービスを使う点で同じだが、両者には大きな違いがある。
クラウドサービスの普及によって災害時の事業継続の方法が変わった。以前はミッションクリティカルなシステムを立地の異なるデータセンターで冗長化し、フェイルオーバー(予備のシステムに自動的に切り替えること)させるインフラを構築していた。この方法でも事業継続の観点では問題はないが、コストが高くつく。そのためクラウドサービスが普及する前は、DRを実現できる企業は大企業が中心だった。
クラウドサービスが登場したことでDRははるかに実現しやすくなった。クラウドサービスを使ったDRを検討する際は、クラウドDRとDRaaSの違いを明確に把握しておくべきだ。
クラウドDRという用語はやや曖昧な定義のまま使用されている。単にクラウドサービスで運用するデータをバックアップ対象としたり、データをクラウドストレージに複製したりする方法もクラウドDRとして扱われることがある。だがこれらは「クラウドバックアップ」と定義する方が適切であり、クラウドDRではない。
真のクラウドDRは、障害発生時にシステム稼働をクラウドサービスの仮想マシンにフェイルオーバーさせることが基礎にある。DRaaSも本質的にはこれと同じだが、クラウドDRとDRaaSには重要な違いがある。
クラウドDRは、DRに対するDIY(日曜大工)型の手法だ。システムの稼働環境をクラウドサービスに複製したり、フェイルオーバーの方法を構築したりするのはユーザー企業側の役割になる。基本的には非常事態時のシステム稼働インフラとして「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」などのクラウドサービス群のIaaS(Infrastructure as a Service)を利用する。
DRaaSはクラウドサービスをベースにした既成のDRサービスだ。主要なDRaaSはレプリケーション(複製)やフェイルオーバーなどを自動化する機能を含む。システムが復旧したら直ちにフェイルバック(代替システムから元のシステム稼働に戻すこと)を実行するツールも提供する。
結局のところ、DRaaSとクラウドDRは異なるアプローチではあるが同じ結果をもたらす。どちらか一方が優れているわけではなく、どちらの手法にもそれぞれ長所と短所がある。
クラウドDRを使用する主なメリットは、設計の自由度が高い点にある。ユーザー企業は自社の要件を十分に満たす仕組みを構築できる。複数のクラウドサービスにまたがるDR機能を実現することも可能だ。
一方でかなりの専門知識が求められる点がクラウドDRのデメリットになる。IT部門のスタッフは、クラウドサービス、DR手法、仮想ネットワークなどの分野について深く実用的な知識を必要とする。
DRaaSを扱うことは比較的容易だが、設計の柔軟性に劣る傾向がある。DRaaSベンダーは災害発生時にユーザー企業が機能停止を回避できるように支援することをサービス提供の基礎に置く。従ってDRaaSベンダーは、ユーザー企業が重要なシステム運用を継続できるようにさまざまな手段を使う。そうした既成の仕組みをすぐに利用できることがDRaaSのメリットになる。
反対にDRaaSのデメリットとして2点挙げることができる。1つ目は、DRaaSは事前構築済みのサービスであるため、クラウドDRほど自由にDR機能を設計することはできない点だ。DRaaSベンダーの中にはDRの仕組みとして画一的な手法しか提供しないベンダーもある。
DRaaSのデメリットになる可能性がある2つ目の点は、大規模災害に対する備えが不十分な恐れがあることだ。想像を絶する災害によって地域全体が壊滅状態になれば、その地域に属する多数の企業が同時にDRaaSによるフェイルオーバーを開始することになる。DRaaSベンダーがそのような同時多発的なフェイルオーバーに対処できるネットワークの帯域幅(回線容量)やハードウェアのスペックを用意していなければ、十分にDRが機能しない懸念がある。
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