英国バーミンガム市議会は、2023年9月に財政破綻を宣言した。これには、OracleのクラウドERPへの移行失敗が大きく影響しているという。ERPの導入から本番稼働までの意思決定プロセスで何が起こったのか。
英国のバーミンガム市議会は、1999年から使用してきたSAPのERP(統合業務システム)をOracleのクラウドERPに移行した。その結果、業務改善につながるどころか、移行には想定以上の予算とコストが発生し、2023年9月には同市が財政破綻を宣言する事態となった。
2025年3月現在も影響は続いており、関連する委員会では、本番稼働に適さない状態のままOracleのクラウドERPの本番稼働を決定した背景について、市議会議員から質問が投げかけられた。
バーミンガム市議会は2018年、SAPのERPからOracleのクラウドERPに移行するための作業を開始した。それ以来、バーミンガム市議会は業務プロセスのさまざまな場面で深刻な問題に直面した。
その背景には、OracleのクラウドERPに合わせて業務プロセスを変更するのではなく、既存の業務プロセスを維持するためにOracleのシステムを大幅にカスタマイズしたことが関係している。その結果、システムが本番稼働する時点で、クラウドERPを適切に運用できる状態にはなっていなかったと考えられる。
コンサルティングと会計業務を手掛けるGrant Thornton UKの監査人、マーク・ストックス氏は「現実的な問題を直視せず、楽観的な見方をし過ぎた」と述べている。
Grant Thornton UKは2025年2月、バーミンガム市議会のERPシステム導入の費用対効果を評価する報告書を公開した。ストックス氏は報告書の内容を踏まえ、「クラウドERPへの移行で生じた責任を誰も取らなかった」と指摘した。
ストックス氏によると、財務担当官のフィオナ・グリーンウェイ氏が退任した後、バーミンガム市議会はOracleのクラウドERP移行に関する組織的な知識を失った。一方、ベンダーは市議会に本番稼働を勧めていたという。
「ERP移行を止めるための情報は存在していたが、ベンダーが本番稼働を推奨した。システムが稼働するための準備が整っていなかった」(ストックス氏)
委員会では、Oracleの本番稼働が決定したことについて、市議会の職員がそのリスクを十分に理解していなかったとの指摘があった。監査人によると、ベンダーからのアドバイスには銀行勘定系システム(BRS: Bank and Retail System)などに対する注記が付されており、その条件を検討すべきだった。
「市職員からは、BRSシステムの運用に苦労していること、売掛金管理、総勘定元帳の一部がテストの時点で稼働できなかったこと、カスタマイズに対する懸念といった声が寄せられていた」(監査人)
リチャード・パーキンス議員はGrant Thornton UKのレポートについて次のように述べる。
「このレポートは、私が目にした中で最悪の報告書だ。ITシステムの導入方法としてまさに反面教師となる例だ」
委員会では、「本番稼働日前にシステムが適切にテストされていたのか」という質問が投げかけられた。それに対し、Grant Thornton UKのトーマス・フォスター氏は次のように回答した。
「多くの部門で本番稼働前のテストは完了していた。しかし、給与システムなど一部の項目は、重要な分野として認識されていたもののリスクの観点からは優先順位が低く、十分な配慮をしていなかった」
委員会では、データの質についても懸念が示された。2022年、OracleのERPシステムが稼働する中で、トランザクションの内容が正確に転記されていなかったことが分かった。その結果、システムが処理したデータの確認を担当者が確認するために、半年をかけて手作業での確認を実施した。
「市議会が優れたERPシステムを提供し、市職員に研修を実施したとしても、データの品質に欠落や重複、誤りがあればシステムは機能せず、市議会が必要とする利益を生み出すことができない」。監査委員はこう警告した。
「取り組みの進捗について、私たちが正しい道を進んでいると確認できるだけの、十分に独立した報告の仕組みはあるか」。2025年1月29日に開かれた会議で、ポール・ティルシー議員はこう質問した。
1月29日の会議で監査人を務めたストックス氏はティルシー議員の懸念に同意し、「全ての準備が整うまで懸念は残る。財務システムが適切に動作するまでは、常に困難が伴うだろう」と述べた。
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