古典的なインターネットとは違う「量子インターネット」の“謎めいた世界”量子インターネット入門【前編】

「量子インターネット」は、従来使われてきたインターネットよりも高速に情報を処理できるネットワークとして期待されている。どのような仕組みなのか。その世界を解説する。

2024年05月03日 08時00分 公開
[Venus KohliTechTarget]

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 量子力学の特性を利用して情報を処理する「量子コンピュータ」が実現する一方で、今後より期待が寄せられる可能性があるのが「量子インターネット」だ。その定義についてさまざまな理論が検討される中で有力な概念となっているのが、量子情報を処理できるノード(コンピュータ)同士を接続する「量子ネットワーク」を大規模化したものだ。

 どのような技術や現象を利用することで量子インターネットができるのか。従来使われてきたインターネットとは何が違うのかを踏まえて解説する。

古典的なインターネットとは違う「量子インターネット」の世界とは

 量子コンピューティングや量子ネットワークは以下の量子力学の現象を利用する。

  • 量子もつれ
    • 2つ以上の量子が相互に密接に関連付けられた状態で、一方の変化が即座に他方に影響を与える状態。量子エンタングルメントとも呼ばれる。
  • 重ね合わせ
    • 量子ビット(量子コンピュータにおける情報の単位)が複数の状態を同時に表現できる量子力学の原理。これにより、計算を並行して処理できるため、通常のコンピューティングよりも高速に処理できるとされている。

 量子ネットワークは現状、研究室内の限られた距離でしか実現していない。量子インターネットの研究者は、より長距離での量子もつれを実現するための実験や、量子インターネットの仕様を研究している。

 従来のインターネットと量子インターネットでは何が変わるのか。

データの単位

 従来のインターネットは、情報をビット(bit)という形で送受信、計算、保存する。ビットはコンピューティングで扱う情報の最小単位であり、情報を0や1で表現する。これによりテキストの文字や画像のピクセル、ビデオのフレームなどのさまざまな情報を表現できる。

 一方、量子インターネットでは情報のやりとりに、光子の振動方向(偏光)や電子の自転(スピン)のような、粒子の特性を使った量子ビットを使用する。量子ビットは重ね合わせの性質から、0と1の両方の状態を同時に持つことができるため、複雑な情報処理を可能にする。

 量子インターネットでは、エラー訂正や暗号化といった論理演算が、パケット(伝送するデータを小分けにした単位)内の他の量子ビットに影響を与えることなく、個々の量子ビットに対して実施される。従来のインターネットとは異なり、データの一部を変更しても全体には影響しない。

 インターネットは、通信プロトコル群「TCP/IP」をベースとして仕様が定まっている。量子インターネットではTCP/IPよりもデータの配信やIPアドレス管理、ルーティング、セキュリティを効果的に実現する仕組みが研究されている。


 次回は量子インターネットと現在のインターネットを比較して、通信エリアやセキュリティについて分析する。

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