CIOの知恵袋:SAP ERP運用編
SAP ERP稼働後の保守・運用コストを低減させるには?
SAP ERP稼働後の悩みで多いのが保守・運用コストの増大だ。稼働直後の障害発生をいかに収束させて、長期的な運用・管理コストの低減を図るか。事例と共に解決策を紹介する。
稼働後の早期収束に向けて
多大なコストを掛けてSAP ERPを導入したものの、一向に障害、仕様変更が落ち着く気配がなく、想定以上に保守・運用コストがかさんでいる。このような企業が多いのではないだろうか。保守・運用コストの低減はSAP ERP導入達成後に最初に直面する課題であり、運用を続けていく上で継続的に検討する課題である。本稿ではその原因と、解決の糸口を探る。
稼働後早期に運用を安定化させるためには、3つのポイントが存在する。
(1)初期障害の早期収束
保守・運用コストを低減させるためには、いち早く安定的な保守・運用体制へ移行する必要がある。そのためには、導入時から稼働直後を見据えて、初期障害を早期に収束させる体制を検討することが求められる。事前に検討した体制が不十分であった場合、一次的に要員を増加させてでも初期障害を早期に収束させ、安定的な保守・運用体制へ移行する必要がある。いったん安定運用へ移行できれば、2次障害の発生防止策や類似障害の未然防止策の検討など、障害対応に対して能動的な施策を講じることが可能となるからだ。
(2)仕様変更の乱立をコントロール
稼働直後は、運用が安定するまで仕様変更対応を原則実施しないというルール作りが大切である。仕様変更の実施基準を厳格に設けて、初期障害が収束するまでは不要な仕様変更は極力実施せず、早期の安定運用実現に注力することが必要だ。「(1)初期障害の早期収束」とも関連するが、稼働後一番大事なことは、早期に安定運用へ移行することである。仕様変更の対応は、安定運用へ移行後に実施するべきだ。
(3)安定的な保守・運用体制の早期確立
SAP ERPの保守・運用体制でありがちなのは、モジュールごとに保守要員を配置し、結果的に肥大化した体制となるケースだ。保守要員の多能工化を目指し、少ない人員で広範囲のモジュールをカバーできる体制に移行することが理想的といえる。一方で、モジュールごとに高度な保守のスキルを要することも事実で、短期的に実現するのは難しい。保守・運用フェーズになってから準備を開始するのではなく、導入時から多能工化を念頭に置いた人材育成が必要となってくる。
中・長期的な保守・運用コストの低減に向けて
上記のポイントを押さえることで、早期に安定した保守・運用体制へ移行することが可能となるだろう。しかし、保守・運用のコスト低減という課題は、継続的に検討すべきものである。
まずは、保守・運用状況の見える化を実施する必要がある。保守・運用の品質と工数を「見える化」し、どのような保守・運用サービスを提供し、どのくらいの品質で、どのくらいのコストを要しているのかを把握し、保守・運用コストの低減の糸口がないか、継続的に監視することが重要だ。
具体的には保守・運用サービス一覧を作成し、どのようなサービスを誰が提供しているのかを把握することが求められる。問い合わせ件数、障害件数、各種KPI(Key Performance Indicator)指標の推移から保守・運用サービスの品質を把握する。そして領域、サービスごとに発生工数を集計し、多角的にコストを把握することだ。
日頃から保守・運用状況を把握しておくことで、自社の問題点、改善点を意識することができ、必要なときに必要な対応策を講じることが可能となるはずだ。そのためには導入中にどの程度のSLA(サービスレベル契約)を目標とするのかを設定し、SLAに見合った保守・運用体制を築くことが重要となる。設定しているSLAに対して、その目標値に見合う保守・運用が実現できているかを確認するためにも「見える化」は必要である。保守・運用の目標値が設定できていない、「見える化」が実現できていない場合は、早急に検討することをお勧めする。
保守・運用の抜本的対応でコストを低減
次に抜本的な保守・運用コスト低減の事例を紹介する。
大きなITイベントを契機に抜本的なコスト見直し
サーバの老朽化対応、バージョンアップを契機にインフラ部分の抜本的なコスト見直しを実施した事例だ。オーバースペックなインフラ構成を見直し、導入時想定したような効果を出せなかったモジュール、機能を思い切って廃止した。保守・運用コストにおけるインフラ部分が占める割合は大きいため、このような抜本的な対応はコスト低減に大きく貢献した。
通常の保守・運用の中ではなかなか思い切った見直しをすることができないが、サーバの老朽化対応、バージョンアップなどは単なるITに限定されたイベントではなく、コスト削減のための大胆な決断をする好機といえる。
アウトソーシングを活用した保守・運用コストの低減
もう1つの事例では、領域と、サービスごとに異なるマルチベンダー体制のアウトソーシングから、包括的アウトソーシングへ移行することでコスト削減を実現した。全領域、全サービスをアウトソーシングし、積極的にオフショア開発を活用することにより保守・運用コストを削減した。ユーザー企業側からすると、1社へ全てをアウトソーシングすることに多少の抵抗はあったが、包括的なアウトソーシングへ移行することでさらなるコスト削減が実現し、自社の資源を他の成長分野へ投入することが可能となった。
アウトソーシングを実施していてもコスト削減に必ずしも結びついていないケースが見受けられる。一度自社のアウトソーシングの体系を見直し、さらなるチャレンジを検討してみてはいかがだろうか。
アウトソーシングについての関連記事
コスト低減の糸口を探る
保守・運用コストの低減は継続的な取り組みが必要となる。日々の保守・運用状況を可視化することから始め、問題意識をもってそれらを注視すればコスト低減の糸口が見えてくるはずである。
境 剛
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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