マルチクラウド時代になぜOSSが重要なのか【第1回】
企業が“シングルベンダー”ではなく「マルチクラウド」を信奉し始めた理由
企業のシステムでは、複数のクラウドサービスを併用する「マルチクラウド」の採用が進んでいます。システムを複雑化させるマルチクラウドを、企業が重視するようになったのはなぜでしょうか。
クラウドコンピューティングやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの技術は、さまざまな組織においてかつてないイノベーションを可能にし、ビジネスの成長を後押ししてきました。そうした中で企業は、ある問題に直面することになりました。各種ソフトウェアやインフラなど、業務を支えるシステムの構成要素が複雑になったことです。複数のクラウドサービスでシステムを運用する「マルチクラウド」が、その複雑さを助長しています。
企業に求められているのは、マルチクラウドを採用しつつも、ITシステムを過度に複雑にすることなく、高度なアナリティクス(分析)やクラウドサービスのメリットを享受できるようにすることです。オープンソースソフトウェア(OSS)の活用は、そのための有効な手段の一つになります。まずは、OSSの重要性が高まってきた背景について、企業におけるIT戦略の移り変わりを振り返ってみましょう。
単一ベンダーからの脱却に動く企業
併せて読みたいお薦め記事
OSS活用を広げる際の勘所
1990年代後半から2000年代前半にかけて、企業の業務におけるITの存在感が急速に高まりました。顧客との主要なやりとりにデジタルの手段が加わり、ITは企業にとって欠かせないインフラになりました。それと同時に、ITは競合企業と差別化をするための戦略的な要素にもなりました。企業や公共機関では、ITに関する業務を単一のベンダーにアウトソースする動きが活発になりました。
ただし単一のベンダーに依存する動きは続かず、むしろ単一のベンダーから脱却する動きが起きました。企業は自社の戦略に適合しない可能性のある単一のベンダーに頼り続けるよりも、複数のベンダーと連携することで自社の戦略を推進したいと考えるようになったのです。企業はITを活用することで迅速に事業を展開するとともに、イノベーションを推進することをより重視するようになりました。
その傾向を象徴するのがマルチクラウドの採用です。アプリケーション管理ツールベンダーFlexera Softwareの調査レポート「2023 State of the Cloud Report」(注)によれば、750人の調査対象者のうち87%が「マルチクラウド戦略を持っている」と回答しました。マルチクラウドを採用することが、組織の戦略の上位に位置付けられている状況です。
※注:IT分野の専門家や幹部の計750人を対象に、2022年冬に調査を実施。
マルチクラウドの4つの利点
マルチクラウドを軸にしたアーキテクチャ(設計)を採用することには、さまざまなメリットがあります。以下の通り、4つにまとめて紹介します。
1.最適な技術の利用
クラウドベンダーはそれぞれ異なる技術を使ってクラウドサービスを構築しており、アプリケーション構築ツールだけを見てもさまざまな差別化ポイントがあります。その違いを理解して使うことで、個々のアプリケーションの要件により適するクラウドサービスを選択し、実行できるようになるのです。つまり単一のクラウドサービスの機能に制約されることのないシステム構築が可能です。
データの物理的な保管場所や、セキュリティの要件に関してもクラウドサービスごとに違いあります。特にデータ保護規制に関わる産業にとっては非常に重要なポイントになります。
2.可能性の拡大
単一のクラウドベンダーでは、システム全体のパフォーマンスを向上させる選択肢が限られます。例えば、どのクラウドサービスで提供されている基本的な機能であっても利用料金は異なります。マルチクラウドを採用すると複数の選択肢からコストパフォーマンスが良いクラウドサービスを選ぶことができるのです。
複数のクラウドサービスを同時に利用することで、レスポンス(応答)や可用性を高めたシステムを設計することも可能です。例えばアプリケーション実行とデータ保存を担うクラウドサービスと、データ分析のためのクラウドサービスを使い分け、クラウドサービス間でリアルタイムにデータを受け渡すという使い方が可能です。こうしたマルチクラウドの構成は、データ活用を進める企業のビジネスに明確なベネフィット(利益)をもたらすはずです。
3.展開の自由
各クラウドベンダーが独自開発したサービス群に依存してITシステムを構築することは、ベンダーロックインのリスクにつながります。一方、マルチクラウドとOSSを活用したITシステムを構築すると、ベンダーロックインのリスクを排除しつつ、将来の再構築も容易になるというメリットが得られます。
4.継続性を担保
複数のクラウドサービスにまたがったシステムの場合、あるクラウドサービスが停止しても別のクラウドサービスで稼働を続けることができます。別のクラウドサービスで保管していたバックアップを使ってシステムを復旧したり、サービス停止したクラウドサービスから別のクラウドサービスに瞬時に切り替えたりすることで、サービスの継続性を維持し、ビジネスの中断を最小限に抑えることができます。
マルチクラウドには本稿で紹介したメリットがある一方で、注意が必要な点もあります。第2回は、マルチクラウドの戦略を進める際の3つの注意点と、なぜOSSの利用が重要なのかを紹介します。
執筆者紹介
嘉門延親(かもん・のぶちか) Aiven Japan カントリーマネジャー
ITインフラやクラウドサービスの分野で、エンジニアリングやビジネス企画・開発を中心に20年近くの経験を持つ。2022年4月に、オープンソースのデータプラットフォームを提供するAivenが日本法人を設立する際に同社カントリーマネジャーに就任した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
マルチクラウド時代になぜOSSが重要なのか
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[スパイスファクトリー株式会社] レガシーに消えるIT予算8割 「刷新か延命か」をAIと人で見極めるための手順 -
製品資料
[JetBrains s.r.o.] ソフトウェア開発は「コーディングエージェント」でどう変わるのか? -
事例
[テクバン株式会社] 太陽ホールディングスは国内外拠点の端末5000台をどう管理しているのか? -
事例
[株式会社キーエンス] PCが苦手でも自動化できる ポポラマーマなど4事例に学ぶ「ナビ搭載型RPA」活用 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 自分ひとりでデスクワークを効率化 「AI&ナビ搭載RPA」で実践する業務自動化
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
2
「GitLab」に最高深刻度の脆弱性 2014年以降の全版に影響を及ぼす恐れ
-
3
PHPはそもそも必要か? 脆弱性で問われる自社サイト安全性と保守負担のバランス
-
4
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
5
Copilotを使うほど請求が膨らむ? Microsoftが仕掛けるAIエージェント課金
-
6
テザリングにも「限界」がある モバイルルーターを選んだ方がよい基準は?
-
7
「Copilot」がIT予算を食いつぶす? 高額請求を招く課金体系と節約術
-
8
「プログラマー不要論」にThe Linux Foundationが示した答え
-
9
IDaaSの限界を超える一手 複雑な要件に応える「認証オーケストレーション」
-
10
京王電鉄・東京メトロの被害から学ぶ境界防衛 ITの侵害はどこまで波及するか
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
3
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
4
SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド
-
5
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
6
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
7
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
8
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
9
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
10
「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー