光学技術で計算効率を革新
GPU計算の限界を突破する「アナログ光コンピュータ」のすごい実力(1/2 ページ)
従来のデジタル処理とは一線を画すアナログ光学コンピュータが、AI分野で注目を集めている。MicrosoftとBarclaysの共同研究が示す、その驚くべき性能とは。
AI処理の高速化競争が激化する中、GPU(グラフィックス処理装置)とは全く異なるアプローチが注目されている。それが「AOC」(アナログ光コンピュータ)だ。
Microsoftと金融機関Barclaysが共同で実施した研究では、市販の光学機器を組み合わせて作ったAOCが、特定の計算でGPUを大きく上回る効率を発揮できる可能性が確認された。将来的な設計の試算では、1ワットで毎秒およそ500兆回の計算が可能とされ、これは最新のGPUに比べて100倍以上の効率に相当するという。AOCは、AI処理の新たなスタンダードとなる可能性を秘めているのか。
光学技術が切り開く新たな計算手法
学術誌Natureに掲載された論文によると、AOCは光の強さをそのまま数値として扱い、プロジェクターやレンズ、センサー、マイクロLEDなどの光学部品を組み合わせて構築する。この仕組みにより、従来のコンピュータで問題となる「フォン・ノイマン・ボトルネック」を回避できるという。
フォン・ノイマン・ボトルネックとは、メモリとCPUの間でデータをやりとりする速度がネックとなり、性能を制限してしまう現象である。AOCは光のアナログ信号をそのまま処理に使うため、頻繁なデジタルとアナログの変換を回避でき、データ移動による性能低下を抑制する。
最適化問題に特化した演算能力
AOCが得意とするのは、次の5つの基本的な計算だ。
- 行列ベクトル乗算
- 非線形処理
- アニーリング
- 加算
- 減算
これらは最適化問題を解くために欠かせない計算であり、AIの学習や推論でも頻繁に使われている。AOCは光の並列性とアナログ処理を組み合わせることで、従来のデジタル方式では難しかった高効率な計算を実現できる。
金融決済での実証実験
MicrosoftとBarclaysは、証券の受け渡しと代金決済を同時に成立させる仕組みである、「DVP」(Delivery Versus Payment)決済の最適化にAOCを適用した。DVPは複数の当事者が関わる金融債務を、規制を守りながら効率的に処理する必要があり、非常に複雑な最適化問題となる。
Barclaysの先進技術部門でシニアソフトウェアエンジニアを務めるシュリラン・ケデカー氏は、研究用のデータセットや条件を整え、DVPの実証に参加した。ケデカー氏はNature論文の共著者でもあり、「金融業界にはDVP以外にも多くの最適化課題があり、AOCがそれらの解決に役立つ可能性がある」と期待を寄せている。
研究資産の公開と今後の展望
Microsoftは、開発した最適解を見つけるための特殊な計算ルール集である「最適化ソルバー」のアルゴリズムと、現実世界の物体やプロセスをデジタル空間で再現する「デジタルツイン」を公開した。最適化ソルバーのアルゴリズムとは、数多くの選択肢の中から最も効率的な答えを見つけるための計算手順であり、AIや金融など幅広い分野で応用できる。AOC開発チームを率いる主任研究マネジャーのフランチェスカ・パルミジャーニ氏は「AOCは汎用コンピュータではないが、適した分野では幅広く活用できる」と話す。
デジタルツインは、実際に組み立てたAOCと同じ入力・処理・出力をデジタル環境で再現できるため、研究者は実機がなくてもAOCの動きを試すことができる。パルミジャーニ氏は「多くの研究者がAOCの使い方を試し、応用を考えていくことが成功の鍵」として共同研究への参加を呼びかけている。
AOCは現時点では使える場面が限られているが、AI処理の効率化という点で大きな可能性を秘めている。研究が進めば、従来のデジタル処理とは異なる新しい計算の仕組みが生まれる可能性がある。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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