AIで塩漬けコードを資産に
150万行のCOBOL、どう捨てる? 米保険大手が挑む「脱メインフレーム」の着地点
150万行のCOBOLを抱える米保険大手が、AIを活用してレガシー刷新の工期を大幅に短縮した。約40億円の見積もりを覆し、年7000時間の削減と約32億円の利益創出を見込む、現実的な脱メインフレーム戦略に迫る。
米国、英国、ポーランドで4500万人以上の従業員に保険を提供するUnumは、主要業務の多くをCOBOLコードで稼働する老朽化したメインフレームに依存している。
同社は2024年、旧システムを最新のクラウド技術に置き換えるための調査をコンサルタントに依頼した。その結果、移行には7年の歳月と2500万ドル(約40億円)の費用がかかるとの見積もりが示された。
現在、UnumはAIを活用することで、いちかばちかのプロジェクトのリスクを冒すことなく、わずかなコストでCOBOLコードの刷新を進めている。数十年前のコードを最新のビジネスプロセスに変換することで、今後5年間で推定2000万ドル(約32億円)相当の利益を見込んでいる。
テネシー州に本社を置く同社は、175年の歴史を持つ。業務システムの多くは、稼働開始から20年以上が経過したレガシーなメインフレーム上で動作している。
2025年5月、保険業界のITリーダーとしてのキャリアを持つシーラ・アンダーソン氏が、エグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報・デジタル責任者(CIDO)として入社した。
アンダーソン氏は、メインフレーム資産が新しいテクノロジーを活用する上での「制約要因」になっていると語った。大半の大学ではもはやCOBOLを教えておらず、現在のソフトウェアエンジニアは時代遅れの言語を扱うことを好まない。そのため、適切なスキルを持つ人材の確保が困難になっているという。
150万行のコードを分析
2025年、UnumはAmazon Web Services(AWS)およびPegasystems(以下、Pega)と提携した。PegaはFortune 500企業向けに業務プロセスの自動化を支援するローコードプラットフォームを提供している。Unumは、AWSのAI搭載プラットフォーム「Transform」を使用して古いコードを現代的なビジネスワークフローに変換し、それをPegaのクラウドプラットフォーム上で稼働させるプロジェクトを開始した。
UnumはTransformを使用し、150万行のCOBOLコードをわずか数時間で取り込んで分析した。同プラットフォームは、COBOLが他のITシステムとどこで統合されているかをマッピングし、依存しているシステムやプロセスを文書化した。
このプロセスは、設計図が紛失し、当時の設計者もいない古い建物をリフォームすることに似ている。壁の中には隠れた配線や配管があり、建物を更新するにはそれらの接続関係を事前に発見しなければならない。
Unumのシニアバイスプレジデント兼最高技術責任者(CTO)であるガウタム・ロイ氏は2026年6月に開催されたカンファレンスで、ソフトウェアの「隠れた配管」問題も同様だと説明した。どのプロセスが他とどう依存しているのか、何かが壊れたときに何が起きるのかが不明確なことは、規制の厳しい業界では重大な懸念事項となる。しかし同社は、AWS Transformを利用して、メインフレームのコード内に潜むこうした複雑な相互依存関係を解明できたとしている。
ビジネスの再構想
取り組みの目的は、単にCOBOLコードをモダンな言語で再現することではなく、ビジネスの在り方そのものを「再構想」することだとアンダーソン氏は言う。
同社はプロジェクト単位で近代化を進めている。事業リーダーは、同社の当面の優先事項に合致し、レガシー技術からの脱却という長期目標に資するプロジェクトを選択する。
アンダーソン氏は「アプリケーション全体を精査している。十分な性能を備えている場合は当面そのまま稼働させる。差別化要因となるものについては、積極的な近代化計画を検討している」と語る。
各ワークストリームには、プロジェクトリーダーや技術・データアナリストらで構成される専用チームが割り当てられている。各プロジェクトは30日から90日以内に成果を出すことを目指している。
保険金の支払い処理
同社はまず、保険金の支払い請求(クレーム)処理の刷新から着手した。アンダーソン氏の目標は、手作業を減らし、顧客の請求でより迅速な意思決定を行うことだ。これは、スタッフが請求に対応する際の業務プロセスを簡素化することを意味する。
「以前は複数の接点があり、多くの手作業が発生していた。これらは顧客が受けるべきサービス体験を損なう要因となっていた」とアンダーソン氏は指摘する。
これまで請求担当スタッフは、古い「グリーン画面(キャラクター端末)」を含め、7つの画面を確認する必要があった。現在はこれを1つの画面に統合している。プロセスが簡素化されたことで、スタッフはより付加価値の高い業務に集中でき、顧客にパーソナライズされたサービスを提供できるようになる。
Unumのジェレマイア・ムーディ氏(Pegaプラットフォームエンジニアリング担当アソシエイトバイスプレジデント)は、案件の引き継ぎ手順を簡素化したことで、年間7000時間の工数削減につながる見込みだと語った。また、迅速な実装が必要な場合には、スタートアップ企業のAI機能などを導入することもある。
データが最優先事項
アンダーソン氏によれば、現在はデータが優先領域となっており、チームは顧客データなどを分析してプロセスを簡素化する方法を探っている。手作業のプロセスやシステムには多くの入力・変更ポイントが存在し、それがデータ品質の課題を生むためだ。
Unumは、データ入力ポイントを減らすことで品質への影響を抑え、同時にデータのクレンジングも進めている。アンダーソン氏は「データ層の準備に時間をかけるほど、テストを迅速に進められる」と、テストの重要性を強調した。
コストの把握
アンダーソン氏が注力しているのは、新しい機能の追加と旧技術の廃止のバランスを取り、投資コストを「相殺」することだ。ITリーダーは、初期費用だけでなく長期的な運用コスト(TCO)を把握する必要がある。
「単発の投資ではなく、ビジネス価値や運用コストを考慮し、それを継続的な利益と比較して判断しなければならない」(アンダーソン氏)
これは、AI開発のコストを押し上げている「AIトークン」の価格上昇を受けて、特に重要になっている。AIによってプログラミング経験のないビジネスリーダーでもアプリケーションを構築できるようになったが、それを制御するガバナンスも必要だとアンダーソン氏は指摘する。
未来のUnumは劇的に変わる
将来的には、顧客や従業員の体験は「劇的に変わる」とアンダーソン氏は展望を語る。担当者が手作業で請求フォームに入力するのではなく、保有データから自動的に補完されるようになる。これには、同社が保有するデータの他、LexisNexisなどの外部データをデータレイクに集約して活用することが含まれる。
AWSのTransformプラットフォームは、メインフレームアプリケーションをクラウド向けに再開発する期間を数年から数カ月に短縮できるとうたっている。AWSは2026年6月、PegaのAI搭載業務プロセス設計プラットフォーム「Blueprint」をTransformに統合することで合意したと発表した。
この統合ソリューションにより、ソフトウェアに隠されたビジネスルールを抽出できる。AWS TransformがCOBOLコードを分析してロジックを文書化し、PegaのBlueprintがそれをビジネスワークフローに変換して再設計を可能にする。
業務の自動化を進める一方で、Unumは意思決定プロセス、特に支払いを拒否する場合には必ず人間が関与する方針を維持する。「電話をしてくるお客様は、非常に困難な状況に置かれていることが多い。共感とサポートを提供することは当社の大きな運営原則だ」とアンダーソン氏は強調する。
失敗から学ぶ
アンダーソン氏は、失敗から学ぶことの重要性を説く。あるチームがAI機能の研究に取り組んだ際、最も複雑なケースから始めてしまった例を挙げた。「より単純な80%のケースから利益を得られた可能性があったが、それは失敗ではなく学びだ」
彼女は、レガシーコードの近代化を検討している企業に、完璧なタイミングを待たないようアドバイスしている。「まずは始めて、学び、テストすることが重要だ。それはまるで、飛行機を飛ばしながら組み立てるようなものだ」と彼女は締めくくった。
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