コピペに追われる日本企業の実態
AIを導入したのになぜ忙しい? 業務を分断する「タスク型AI」の落とし穴
企業のAI活用が進む一方で、現場はシステム間のデータ連携や調整といった手作業に追われている。個別業務を処理するだけの「タスク型AI」の導入が、かえって現場の分断を深める現象はなぜ生まれるのか。
企業の生産性向上に向けてAI技術の活用が進む中、現場では依然として手作業によるデータ連携やシステム間の調整業務が残存している。単なる個別機能の追加だけでは業務プロセスの分断は解消されず、かえって現場の手間を増大させる構造的な課題が存在する。
人事ソフトウェアベンダーWorkdayは、調査会社The Harris Pollに委託し、AI活用に関する実態調査を実施した。従業員500人以上、年商1億ドル以上の企業に勤務し、日常的にAIツールを活用する世界6100人(うち日本人200人)の人事、財務、IT、オペレーション部門の実務担当者および管理職を対象として、2026年3月に実施された。調査結果によると、日本の従業員はAIツールの活用に前向きな姿勢を示しているものの、全体の傾向として企業はシステム間の情報伝達や調整作業に多大な時間を費やしている実態が明らかになった。
個別業務を処理するだけのAIツールである「タスク型AI」の限界と、持続的な業務変革に向けたITインフラ設計の在り方について、調査結果を基に深掘りする。
意欲と実態のギャップを生む「見えない負担」
調査データによれば、日本の従業員の92%が日々の業務を肯定的に評価し、93%が自身の職務に強い責任感を持っている。AI活用に関しても、89%が業務の質が向上したとし、74%が作業時間の短縮を、63%が生産性の向上を実感しており、AIツールに対する受容性は高い水準にある。
しかし、こうした個人の意欲や局所的な効率化が、企業全体の業務の進捗(しんちょく)に直結しているわけではない。1日の業務終了時に有意義な進捗を実感できたと回答した割合は73%にとどまり、世界平均の89%を大きく下回っている。
分断されたシステムをつなぐ人手の限界
このギャップの背景には、分断されたシステム間をつなぐ役割を「人」が担わざるを得ないという運用上の制約がある。調査では、76%の従業員がチーム間やシステム間の業務調整に時間を費やし、71%がシステム間で情報を移動させている実態が浮き彫りになった。63%が矛盾するデータの照合に、53%が複数システムへの再入力に追われている。
異なるタイミングで導入されたシステムは、業務の文脈を自動で共有できない。そのため、本来注力すべき判断業務や戦略立案ではなく、システム間の接着剤としての調整業務に人員が割かれているのが実情だ。
従来アプローチとの設計思想の違い
企業が採用しているアプローチは、既存システムの外側にAIツールを追加し、文章の要約や社内規定の検索といった個別のタスクを処理させる手法にとどまっている。自社の中核システムにAIツールが組み込まれていると回答した割合は39%に過ぎない。このようなタスク型AIは個人の作業時間を即時的に短縮する点では有効だが、業務プロセスやシステム連携そのものを最適化するわけではない。
持続的な変革の方向性は、AIツールをビジネス運営の中核システムに組み込む設計思想への転換だ。システムの上位や周辺にAIツールを配置するのではなく、業務が遂行される中核システムにAIツールを集約させる。これによって、システム間のデータ移動や部門にまたがる承認手続きなど、これまで人間が手作業で補っていたプロセスの隙間を、システムが埋めることが可能になる。
インフラへの集約と定量的な成果
中核システムに組み込まれたAIツールは、個別のタスク処理ではなく、ワークフロー全体の進行をつかさどる仕組みとして機能する。具体的には、業務指標のトラッキングと異常の検出、必要なアクションの提案、部門横断的な承認者の自動特定などが挙げられる。調査対象者を見ても、48%が指標のトラッキングとアクション提案に、41%が部門横断的な承認手続きにAIツールを活用し始めている。
中核システム内でAIツールが自律的にデータを処理し、定型的な引き継ぎや照合を実行することで、人間はデータの解釈や例外処理、最終的な意思決定といった高付加価値な業務に専念できる。中核システムにAIツールを組み込んでいる企業では、アジア太平洋地域(日本を含む)の調査において、65%の従業員が作業時間を25%以上短縮できたと報告しており、中核システムにAIツールを使用していない企業(36%)と比較して約1.8倍の成果を上げている。ITインフラとAIツールの緊密な連携が、飛躍的な業務効率化を実現する鍵となっている。
判断軸となるデータ管理体制と今後の展望
AIツールを中核システムに組み込み、企業変革を推進するためには、信頼性の高いデータ管理体制とガバナンスの確立が不可欠だ。AI活用を阻害する要因として、調査ではスキルの差(34%)や煩雑な承認手続き(28%)に加え、明確な指針の欠如(25%)、責任の所在の不明確さ(23%)、低品質で一貫性のないデータ(20%)といった運用体制の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されている。
日本の回答者の79%は、土台となるシステムとデータを信頼できれば、意思決定に対する自信がAIツールによって高まると回答している。しかし、自社に広く信頼されている情報源があると回答した日本の従業員は67%にとどまっており、世界平均の78%を大きく下回る。
企業が今後取り組むべき課題は、単なるAIツールの追加ではない。まず、社内のどこで情報の引き継ぎやデータの再入力が発生しているかを特定し、業務フローを再設計する必要がある。その上で、単一の信頼できるデータソースを構築し、そこにAIツールを集約させることで、変化に適応力のある運用モデルを確立することが求められる。
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