地域医療連携ソリューション紹介:富士通
クラウドサービスでより広域な医療連携に対応する富士通
各種の医療関連システムを「HOPE」シリーズで提供する富士通は、新たにクラウド型地域医療連携サービス「HumanBridge」によって、医療に加え福祉や介護などとの連携を目指す。
国内初の電子カルテシステムは、1999年に島根県立中央病院で稼働を開始したとされる。その構築を手掛け、電子カルテを中核に医療関連システム「HOPEシリーズ」を取りそろえる富士通は、地域医療連携の分野でも草分けと呼ぶべき存在だ。
当初から“電子化された診療情報の共有”を志向
富士通は電子カルテを手掛けた当初から、「医療機関における電子化された診療情報の共有」を意識し事業に取り組んできた。2002年には同社が初めて構築に携わった地域医療連携システム「医療ネットしまね」が本格稼働を開始。このシステムは電子カルテを中心に島根県立中央病院と出雲医師会、訪問看護センターなどを連携した情報基盤である。その後、同社は加盟施設が140以上にも及ぶ「長崎あじさいネットワーク」や、宮崎県の「はにわネット」などの構築プロジェクトにも参画する。
そして2007年、これまで蓄積してきたノウハウを基にリリースしたのが地域医療連携パッケージの「HOPE/地域連携」だ。当時はパッケージ化されたシステムはほとんどなく、地域連携でのITの活用も紹介状のやりとりなど、地域医療連携室の業務効率化などに限られていた。そうした中、HOPE/地域連携は北海道の旭川赤十字病院や石川県の金沢医療センターなど少なからず引き合いを集め、より多くの診療情報を公開できるよう同パッケージの機能改善が図られてきた。
ニーズの変化にクラウド型サービスで対応
同社の地域医療連携ソリューションに転機が訪れたのは、地域医療再生基金の都道府県への設置が決定した2009年のことである。従来の地域医療連携に対する要望は、中核病院とその近隣のかかりつけ医を結ぶ「1対N」型の接続がほとんどだった。しかし、医療再生が社会的な問題と真剣に捉えられたことなどを背景に、限られた医療リソースをできる限り活用できるよう、専門分野が異なる中核病院間での情報交換を支援する「N対N」型の接続要望が急速に高まった。また、将来の広域医療を見据えた対応もシステムに求められるようになったと、富士通のヘルスケアソリューション事業本部ヘルスケア営業支援統括部 統括部長 佐藤秀暢氏は振り返る。
こうした変化を踏まえ、同社は2011年から従来のHOPEブランドとは独立した新サービスを開始した。それが、クラウド型地域医療連携サービスの「HumanBridge」である。
医療機関のデータにアクセスするための“中継役”
HumanBridgeは患者に付与する「患者番号」を基に、各医療機関で分散管理された医療データを抽出し、セキュアなネットワークを介して情報を共有するサービスだ。具体的には、各医療機関が同一患者に発行した患者番号をひも付けて管理し、医療従事者が医療データを参照する際には、外部データへの中継役を果たす。
同社によると、「クラウドの課題の1つとされる“データの保護”に配慮するために、医療データの全てを医療機関側で管理する仕組みを採用した」という。また、この方法であれば医療データを直接参照するため、患者の診療経過をリアルタイムに確認できる。システムは群馬県館林市の同社データセンターで運用されており、富士通から配布される専用ソフトウェアをPCにインストールしVPN経由でアクセスする。
HumanBridgeを利用する医療機関の一番のメリットといえるのが「月額10万からという低い利用料」(佐藤氏)である。地域医療再生基金を活用して地域医療連携システムを整備する場合、事業期間が5年と限られ、以後の運用コストの負担方法で話がまとまりにくい面があるのは否めない。だが、「クラウドであれば月額コストも低く、加盟施設間でまかない合うという構図を描きやすい」(佐藤氏)というわけだ。
標準化技術で他社製品との接続性を確保
一方で、各医療機関が利用する電子カルテは富士通の製品だけとは限らない。HumanBridgeは、厚生労働省電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)などの標準化技術の採用を通じて、他社の電子カルテとの接続性を確保している。実際、SS-MIXの標準化ストレージを他社製電子カルテの間に配置し、そこに蓄積される医療データを参照することで、患者が病院を移っても横ぐしを通す形で、各病院の電子カルテデータを確認する使い方もできる。
富士通の医療ソリューション事業部で第五ソリューション部長を務める森田嘉昭氏は「地域医療連携は医療従事者が医療データの保管場所を問わず、必要に応じてそれらにシームレスにアクセスできなければ使い勝手の面から普及は難しい。その点を考慮し、パッケージをあえてクラウド化してHOPEブランドを外し、医療情報交換のための標準規約である“HL7”や“DICOM”などの技術を取り入れてきた。今後もこのスタンスに変わりはない」と説明する。
富士通はNECやNTTデータなどと共同で、複数の電子カルテが混在した環境での地域医療連携システムを整備することにも取り組んでいる。紹介状の作成や返信、地域医療連携パスの共有、電子カルテと連携しての書類作成業務の効率化など、医療機関の連携で必要とされる機能はほぼ網羅しているという。
調達の際にはコンサルタントを活用すべし
このように製品面では着実に進化を遂げてきたものの、地域医療連携の普及に関しては課題もある。その1つとして佐藤氏が指摘するのが「地域医療連携システムは電子カルテなどと比べ、導入に期間を要することが多い」ことだ。
「複数の医療機関をまたぐものだけに入念な説明が求められる。加えて、関係者が中核病院と医師会、自治体と多岐にわたり、それぞれ立場も異なる。当然、意見のすり合わせにもそれだけ時間を要してしまう」(佐藤氏)
地域医療再生基金を利用すれば税金が投入されるだけに、とりわけ自治体には慎重な判断が求められるという事情もあるようだ。また、地域医療連携に対する病院側の関心が低いわけでは決してなく、富士通に対して情報提供の依頼も数多く寄せられているという。
同社は2011年4月、医療関係者を会員とする地域医療ネットワークの研究会を設立。事例紹介やパネルディスカッションを通じて医療機関に対する情報提供に取り組むことで、実需の喚起を図っているという。会員数は全国で約300人に上る(2011年12月現在)。
また、今後の地域医療連携システムの円滑な普及に向け、同社が提案しているのがコンサルタントの活用だ。
「われわれはシステムの提案や構築は行えるものの、最終的な要件を決めるのは提案先の顧客に他ならない。もちろん、技術的に専門的な話も含まれ、判断に迷うことも理解できる。だからこそ、調達の場にコンサルタントを入れ、判断の参考材料に利用してほしい」
HOPE/地域連携を含め、同社が構築を手掛けた地域医療連携システムは50以上。用途も当初の紹介状のやりとりや予約を中心としたものから、医療情報の開示など着実な広がりを見せているという。富士通では今後、HumanBridgeのスマートフォン対応を進めるとともに、医療に加え福祉や介護、健診などでも利用できるように機能強化を図る考えだ。
著者紹介
岡崎勝己(オカザキ カツミ)
広島県生まれ。成蹊大学経済学部経営学科卒業。通信業界向け専門誌、IT情報誌の編集者を経て独立。利用者の立場から見た“技術”の価値と限界をテーマに、ジャーナリストとして活動を展開。得意とするテーマはITと業務改革/イノベーション、ビジネスモデル/人材論など。最近では電子書籍の主要企業の動向を追う記事も連載。著書に『図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)』など。
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