「今のやり方」を断ち切るのは難しい
SMBにとってのITIL――苦労に見合うメリットはあるか?
SMBにとってITILの採用には困難が伴うが、見返りとしてプロセス効率が向上し、組織全体にITが統合される。
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)のベストプラクティス採用は、ダイエットを始めるのと同じくらい大変だと、ルー・ハンネバック氏は言う。ライフスタイルの切り替えには慣れが必要だし、甘いものを食べたいという気持ちはなかなか断ち切れないだろう。
「IT担当者というのは“0か1か”な人種であり、セット製品を欲しがるものだ」と話すハンネバック氏は、ITサービス管理(ITSM)・IT人材管理技術を提供する米CCNのITSM業務ディレクター。「ITILには一定の信頼が必要で、非常に怖いものになるかもしれない。これは本当に文化を変えることなのだ」
それでもITILで提示されたコンセプトを採用する中堅・中小企業(SMB)は増えている。ITILはITプラクティスのフレームワークを設定し、それを事業戦略に沿わせるものだ。分析/コンサルティング会社のEnterprise Management AssociatesでITSMコンサルティングディレクターを務めるハンク・マーキス氏によると、5月30日に更新されたITIL基準に関しては、約1年ほどで新しい指導用資料が公開される見込みだ。
反応時間高速化、コストと時間の削減
Raritan ComputerのグローバルITディレクター、ニール・リウ氏によると、同社は米ニュージャージー州とアジアにあるデータセンターのニーズに沿った反応時間高速化のため、2005年春にITIL基準の採用に着手した。同社従業員は、21人で組織するグローバルITチームを含めて世界で400人。同社はアナログKVM、KVM over IP、リモートサーバ管理、電力管理、ネットワーク監視、管理技術を手掛ける世界的なサプライヤー。
リウ氏によると、同社では「何かがダウンすると大混乱になっていた」ため、「サービス管理技術を使ったプロジェクト管理方式を採用した」。これにはダッシュボード報告、問題が発生した場合のアラート高速化、リモートアクセスが含まれる。プロジェクトには、ITILで養成した20人以上のエンジニアとITチームが協力。これによりRaritanは、社内でのサーバモニタ導入によって年間1万2000ドルのコストを削減したという。それ以外にも、リポーティングの強化とサーベンス・オクスリー法(SOX法)404条のコンプライアンス強化により、サーバ管理者は1日1時間の節約ができた。
「“ITILのためのITIL”にしないことだ」とリウ氏は言う。「チームメンバーが誰でも守れる標準的な業務手順を策定するため、ITILで解決できるポイントを見つけなければならない」
ハンネバック氏の会社では、ITプロジェクトにおけるITILを強調しているわけではないが、SMBによる戦略目標達成を支援する上でこの手法は重要だという。「当社ではこれを、品質/業務エクセレンスプログラムと呼んでいる。ITILは、その事業目標を達成するためのツールの1つにすぎない」と同氏。
養成スタッフとITIL認定
ITILは英中央電子計算機局(CCTA)が1980年代後半に策定したもので、ITがビジネスプロセスに不可欠だとの認識がSMBの間で高まる中、近年あらためて重要性が増している。しかしこの認識により、かつての非主流的存在から表舞台に躍り出たIT部門に、大きな負担が掛かることになった。
どんな規模の会社にとっても予算は気掛かりだが、SMBにとっては一層差し迫った問題だ。ITIL認定の取得により、ただでさえ厳しい予算が一層厳しくなり、従業員には、認定を取得する者とその穴を埋める者の両方に、一層のプレッシャーが掛かる。だが、その見返りとしてプロセス効率が向上し、組織全体にITが統合される。
マーキス氏によると、ITIL v3は書籍が5冊に統合されている。新しい書籍の内容はサービス戦略、サービス設計、サービス移行、サービス運用、継続的なサービス向上となっている。
「ファンデーション認定」は基本的なITIL認定資格で、ITILの中核となる10のプロセスを網羅する。マーキス氏によると、2日間の「詰め込み」セッション、またはケーススタディとロールプレイを通じて実際の応用について学ぶ3日間のプログラムがあり、参加費用は700~1500ドル程度。
「プラクティショナ認定」は、主要プロセスについて深い知識を身に付ける。プラクティショナ試験では、サポートと回復(サービスデスク)、リリースとコントロール(バックオフィス機能)、合意と定義(サービスレベル/財務管理)、プランと向上(可用性、可能性、継続性管理)の4分野に焦点を当てている。一般的なコースは5日間で約2500ドル。
「マネージャ認定」は最も高いレベルのITIL認定資格。コースは2日間のテストを含め、最大で15日に及ぶこともある。料金も安くはなく、8000~1万2000ドルになる。この認定資格はプロジェクトマネジャーや、組織でITILプロジェクトを主導する人材向けとなる。
組織を最高の状態に保つ
電子制御機器メーカーのPhoenix ContactはISO 9001認定を取得しているが、ネットワークオペレーション管理者、ビル・シーファー氏から見ると、サービスデスク回りのIT機能は十分堅固とはいえなかった。同社の米国の従業員は500人、うちIT部門の陣容は20人。
「当社はサービスデスクに関するベストプラクティスと、優れたフレームワークを求めていた。整備士が自分の車は修理する暇がないように、自社のことはいつも後回しだった」と同氏は振り返る。
Phoenixは昨年2006年、管理職3人にファンデーションの研修を受けさせ、IT部門の残る人員もこの夏、ITIL研修を受ける予定だ。費用の一部に充てるため、同社は州の技術助成を受けた。市や州、自治体が企業の誘致とつなぎ止めを競う中、これは多くの企業が活用できる制度だ。
ITILプロジェクトを支援してもらい、予算を獲得するためには経営陣の支持を取り付けることが不可欠だとシーファー氏は言う。ITILの概念が確立されたら、プロジェクトに合わせてフレームワークを変えるのではなく、プロジェクトをITILフレームワークに適用させなければならない。
「ITILの話をするとき、今のやり方について考えてはいけない。それではITILと今のやり方を組み合わせることになり、効果は上がらない」とシーファー氏は話している。
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