マシンルームから愛を込めて【第4回】
システム運用管理者はSLAをネガティブにとらえるなかれ
ITサービスに対するユーザーの期待値は、業務やシステムによってさまざまに異なる。これをあらかじめ正確に把握し、ユーザーとSLAを締結しておかないと、ゆくゆくは痛い目に遭うかもしれない。
サービスレベルを決めるのはサービスの受け手
前回「システム運用管理の理想形はラーメンチェーン店?」では、より安定したITサービスを提供するためには「システム運用の平準化」が必要だという話をしました。可視化されたサービスの平準化が行えるようになると、たとえ担当者が変わったとしても提供するサービスの品質を維持することができ、顧客の満足度も向上します。
さて今回は、可視化されたサービスの平準化が進むと必ず顧客から要求される「サービスレベル」というものについて話してみたいと思います。
そもそも「サービスのレベル」って何でしょう? 本連載の第1回「運用管理に『コーン入りしょうゆラーメン』の発想を」では、「サービス」とは「売り買いした後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のこと」だと説明しました。すなわち、そのサービスの受け手が「便利」だとか「うれしい」と思うようなものでなければいけません。では、どうすれば受け手はうれしいと思うのでしょうか?
例えば、いつも食べ物の話ばかりで恐縮ですが、宅配ピザを頼んだときに30分のお届けで満足してくれる人もいれば、15分のお届けじゃないと満足しない人もいます。共通しているのは、それぞれサービスに対する満足度の判断基準を持っているということです。つまり、うれしいかどうかを決めるのは常にそのサービスを受ける側であり、この判断の基準が「サービスのレベル」だということになります。
ITサービスにおけるサービスレベルとは?
ITサービスでは、ITILでも重要視されている「SLA(Service Level Agreement)」というサービスに対する考え方があります。“Service Level Agreement”をそのまま日本語に訳すと、「サービスレベルの合意」となります。要するに、「サービスの提供者と利用者との間での、サービスレベルについての合意事項」だということです。
具体的には、
- 障害検知から電話連絡までの時間を○○分以内に
- 障害発生から復旧までの時間を○○分以内に
- 監視サービスの稼働率を○○%以上に
- 機器の故障率は○○%以下に
などといったように、サービスレベルの内容について具体的かつ数値化した項目を定義します。また、それぞれの数値の計測方法もきちんと定めておきます。ちなみに弊社インフォリスクマネージの場合は、現状のサービスレベルを数値として正確に把握するために、アラートの検知から対応作業の開始・終了、電話連絡、メール送信までの時間をそれぞれすべて計測し、統計化しています。
SLAをないがしろにしたが故の失敗
以前、システム運用サービスの新規提案を行った顧客から「システム障害が発生したときは、すぐに知らせてほしい」「迅速に障害対応をしてほしい」との要望を受けました。そこで、これまでのモニタリング結果から得た弊社サービスの平均障害通知時間と対応時間を伝えたところ、納得していただき、無事受注の運びとなりました。
しかし、サービスを導入してから数カ月後、その顧客からこんなクレームが入りました。
「今回の障害対応は何だ! データベースサーバで問題が発生しているのだから、平均障害対応時間よりも早く対応するのが当然じゃないか。なぜ対応が遅れているんだ!」
われわれとしては、あらかじめ提示していた平均障害対応時間に十分間に合うよう対応したのですが、思わぬ大きなクレームへと発展してしまいました。
その後、顧客と十分に話し合った結果、以下のような問題点が見つかりました。
- 運用設計の際、サーバごとの障害対応の優先順位を設けていなかった
- 各サーバによって障害対応時間の期待値に違いがあることを弊社が把握していなかった
- 作成したシステム障害対応手順書が、その期待値に応えることができないものだった
- 顧客側は「データベースサーバは最も重要なサーバなので、障害が発生した場合には最優先で対応してくれるだろう」と思い込んでいた
先ほど述べた通り、「うれしい」かどうかを決めるのはサービスを受ける側、つまりこの場合は顧客です。従ってこのケースでは、顧客側が期待しているサービスレベルを把握できていなかったことが一番大きな問題でした。そして、その期待されているサービスレベルに対し、弊社がどういったサービスを提供するのかを明確にした上で、事前に顧客と合意しておく必要がありました。
つまり、SLAがあればこういうことにはならなかったということです。
「聞き上手」こそサービスの本質
先ほど宅配ピザの例を挙げて説明しましたが、受け手によってそれぞれうれしいと思うサービスレベルは異なります。では、このさまざまに異なるサービスレベルを、どのようにサービス内容に反映すれば顧客に喜んでもらえるのでしょうか?
例えば、皆さんは旅行に行くとき、「いつも忙しいから、たまにはのんびりとしたい」「有名な観光地をたくさん回って、買い物や美味しいものをいっぱい食べて休暇を満喫したい!」というように、人それぞれ異なった旅の目的や要望があることでしょう。
では、そうした目的や要望を持って旅行代理店を訪れたとしましょう。そこで初めに聞かれるのは、一体どんなことでしょうか? そのときパンフレットを手にしていれば、「どのプランがご希望でしょうか?」から始まるでしょうし、「今回の旅行の一番の目的は何ですか?」と尋ねられることもあるかもしれません。さらにそこから、具体的な予算や日程などを聞かれることでしょう。
そして、旅行代理店によるこのような「ヒアリング」の結果を基に作成された旅行プランは、恐らくは皆さんの要望を満たすものであり、満足できる旅行(サービス)になることでしょう。
わたしは海が好きなので、少しまとまった休みができると南の島でのんびり過ごしたくなり、幾つかの旅行代理店に相談して旅行プランを作成してもらいます。その中から「これだ!」というプランを選んで実際に旅行に出掛けるのですが、おかげさまで毎回満足度の高いバカンス(?)を過ごすことができています。時には飛行機が遅れてしまったり、天候に恵まれなかったりと、期待通りにいかないこともあるのですが、次回の旅行ではその教訓を生かして、余裕のあるスケジュールにしたり、天気が悪くても楽しめる場所を調べておくなどの工夫をしています。
少し話が脱線しましたが、ITサービスの場合もこれと同じで、極めてシンプルな話なのです。まずは、顧客がどうしてほしいのかをヒアリングし、これを旅行のプランのようにSLAとして定義した上で、それを達成すべく日常業務のPDCAを回していけばいいのです。顧客の要望を直接取り入れた「サービス提供者と顧客間での合意事項」なのですから、これをサービスとして提供することは、わたしが旅行プランを選んで南の島へ行くことと同じで、顧客に喜んでもらえるサービスになるはずです。
SLAは日々磨き上げていくもの
ところが、ITサービス業務で日々PDCAを回していく過程では、当初は想定していなかった事象が顕在化し、さまざまな事態が発生します。その結果、SLAの達成に支障を来すことも出てくるかもしれません。
しかし、これも先ほどの旅行の例と同じで、とてもシンプルな話です。SLAは、一度合意すれば絶対変更できないというものではありません。あくまでもサービス提供者と顧客との間での「合意事項」なのですから、もし期待通りにいかなかったらその原因を分析して、対策を新たにSLAに反映し、ITサービスの精度を高めていけばいいだけの話なのです。期待通りにいかなかった旅行プランの反省を、次回の旅行で生かすこととまったく一緒です。
一般的にSLAというと「コミットメント」「ペナルティー」といった、どちらかというとネガティブなイメージを持たれる方が多いかと思いますが、決してそうではありません。ITサービスにおけるSLAの導入とは、サービス提供者がサービスレベルを向上させ、顧客がより高い満足を得るために最も効果的な手段であるとわたしは考えています。
SLAがなくてもサービスレベルは維持できるか?
ところで、今回紹介した弊社の事例では、ヒアリング不足とSLAの不在が最も大きな問題でした。しかし、SLAを導入する以外にも何か問題発生を防ぐ手だてはなかったのでしょうか? たとえSLAを導入していなかったとしても、何らかの手段でクレームが発生する潜在リスクに気付くことはできたのではないでしょうか?
そこで次回は、構築したサービスレベルをいかにして維持するか、「リスクマネジメント」の観点から話してみたいと思います。
<筆者紹介>
山本祥一
インフォリスクマネージ株式会社 ソリューションサポート事業部長
2000年インフォリスクマネージ株式会社入社。
システムダウン対策事業(MSP/ホスティング)のセールス、運用設計などに従事。2006年よりソリューションサポート事業部長として、50名以上のエンジニアを部下に抱え、官公庁はじめ、24時間365日止められない大型インターネットシステムの構築支援および運用設計を指揮・統括。また、情報セキュリティマネジメント(ISMS)の審査員も務める。
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